第7話 根拠② ポスター張りを手伝ってくれる和水さん②
「では、ギュッっといきます」
「よろしね~」
伊刈さんのなんとも軽い返事をきいてから、僕は覚悟を決めて細い脚をギュッと掴んだ。
「ほぁぁ……」
伊刈さんの脚は、なんというかとにかくスベスベで、骨しかないのではと心配になるほど細かった。
これが、女の子の生足!
僕は量の手に全神経を集中させたかったが、手汗が出ていないか心配で気が気じゃなくなった。
「ん~画びょうが刺さらないぃ」
「ぁ、ぁ、あ」
伊刈さんは苦戦しているのか、力を入れようと身体を小刻みに揺らしている。
そのたびに僕の顔の前にある小ぶりなお尻がフルフルと可愛らしく揺れて、僕の目が勝ってにお尻を追いかけてしまう。
手では生足の感触を感じ取り、目は忙しく揺れるお尻を追跡する。
ここは天国……いや、むしろ地獄かもしれない。
童貞には刺激の強すぎる時間で、きっと僕の脳はオーバーヒートしていたのだろう。気が付いた時には伊刈さんがポスターを貼り終えていた。
「オッケー。ありがとね馬締君」
「こちらこそありがとうございます」
「何が?」
思わずお礼を言ってしまうという失態をおかし、なんとか誤魔化そうとしていると天の助けか担任の先生がやってきた。
「お、さっそく貼ってくれたんだな伊刈」
「もちろんで~す。あ、馬締君も手伝ってくれたんですよ」
「そうなのか、馬締もありがとう」
「いえ、僕は何も」
ただ伊刈さんの生足を触って揺れる小さなお尻を追いかけていただけです。とは言えない。
「じゃあ今日中に残りも頼んだぞ」
担任はすぐに教室から出て行った。
どうやら軽く様子を確認に来ただけらしい。あの先生は一見ゆるそうだけど、実際にはこうしてチェックしに来るような結構厳しいところもある。言われた通り、今日中には済ませておいた方がいいだろう。
「じゃあ他のところにも貼りに行きましょうか」
「う~ん、そのことなんだけどね」
「どうかしまたしたか?」
何かを言いにくそうにしている伊刈さんが上目遣いで見つめてくる。
「あのね、実はレミこれから大事な用事があって、もう時間がギリギリなの」
「え、そうだったんですか?」
「うん。だから急いで帰らないといけないのに、まだいっぱい残ってるから、どうしようかなぁって困ってて」
伊刈さんはそう言うと頭を抱えてしまった。
用事がある忙しい時に先生から頼まれごとをしてしまうなんて、なんて不運なんだ。僕は頭を悩ませている伊刈さんの力になりたいと思った。
「それなら残りは僕に任せてください」
「え、でもまだこんなに」
「大丈夫です。僕は何も予定ありませんから」
「そうなんだ……ホントにいいの?」
「もちろんです。大事な用事に遅れないようにすぐ帰ったほうがいいですよ」
「馬締君……ありがと~」
「ぉぉう」
ぶっちゃけると若干狙っていたわけだけど、伊刈さんはまた軽くハグしてくれた。
女の子ってなんでこんなにいい匂いがするんだろう。
僕はレミさんの固い胸の感触を感じながら表情筋を保つことに必死だった。
「まいったなぁ」
あの後、すぐに帰って行った伊刈さんを見送り、僕はそれから一人でポスター張りを再開した。のだが、廊下の掲示板ですぐに難問にぶつかってしまっていた。
「……ちょっと、ちょっとだけ背が足りないな。うん、ほんのちょっと」
想像出来ない人がほとんどだと思うけれど、僕は掲示板の上の方まではまったく手が届かない……いや、ちょっとだけ手が届かない。
貼りやすそうな位置はすべて他の掲示物で埋まっていて、仮にそれらをはがして位置を変えても、結局は貼りなおす時に上の方まで使う必要があるからどうしても無理だ。
僕はチビな自分を軽く呪ってやった。
「まぁ、仕方ないか」
あれやこれやと方法を考えてみたけれど、結局は伊刈さんがしていたように椅子に上るのが一番楽そうで、僕は渋々教室から自分の椅子を持ち運んでポスター張りをすることにした。
たかがポスターを貼るだけななのに、一人でするとそれなりに大変だ。何枚もあるポスターと画びょう、それから椅子を持ち運ぶのは結構手間だった。
苦労してさっきの掲示板まで戻り、僕はさっそく椅子をセットして上に上がった。これならいくら僕がチビでも流石に余裕だ。
「はぁ~、明日になったら急に身長が25㎝くらい伸びてないかなぁ――」
そんなくだらないことを考えて気を抜いていたからか、僕は反応が遅れた。
いや、もともとがクソみたいな運動神経だから気を抜いていなかったとしもどうしようもなかったかもしれない。
何が起きたかといえば、僕が椅子に乗った瞬間、ガタッと椅子が大きく傾いてしまったのだ。
日中すわっている間ずっとガタガタ椅子がゆれていたことを今更ながらに思い出す。
放課後に残って直そうとするくらい気にしていたはずなのに、きれいさっぱり忘れてしまっていた。
伊刈さんの子ぶりなお尻が、ずっと僕の頭の中で揺れていたから忘れていたのは仕方ない。
咄嗟に壁に手を伸ばそうとしてみるけれど、その時にはもう遅かった。
気が抜けていた僕の動き出しは致命的に遅く、もはや後ろに倒れつつある身体をどうやっても支えることはできそうになかった。
僕は反射的に目を瞑る。それはもう身体がどうにか足掻くことを諦めたサインだ。
あとはもう襲ってくる衝撃が少しでも弱くなるのを願うくらいだ。
確実に怪我、酷ければ骨折くらいはするかもしれない。
今や僕の身体は椅子から完全に空中へ投げ出された。そのまま固い床に落ちるしかなかった僕は――
――何故か柔らかな何かに抱きしめられていた。
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