突然変異種……。
私達は、朝早く草木が生い茂った森の中を歩いている。
何をしているのかというと、森のゴブリンの退治というクエストをしている最中だ。
ゴブリンというのは、10〜15匹程度の群れを作る見た目最悪の亜人種だ。
汚いのは見た目だけでなく、『ケヒケヒ』というような声を発するのでこれまた汚い。
何をとっても最悪な魔物だ。
私は村の自衛団での仕事でよく退治しているからいいものの、ルゥにとっては精神的にキツいらしく、さっきからずっと暗い顔をして何も喋らない。
最初は『ゴブリン退治? 楽しみ!』なんて言っていたが、今ではずっと下を向いている。
そして、どうやらこのクエストもスライムの時と同じで、倒した数に応じて追加報酬が出るらしい。
ついさっき倒したのがざっと11匹だから、目標数の30匹まであと19匹か。
正直言うと、今のルゥはおとなしいから安心してゴブリンと戦えるとか思っていたり……。
騒がしいルゥが急に静かになったから会話も全くせずにゴブリン探しに専念できるわけで。
ちなみに、戦闘中のルゥはというと、
「え、あのっ、どうすれば……」
みたいになってて、まるで別人格だった。
⋄◇数時間後◇⋄
「やっと終わったー」
地面に転がりながら私が言う。
ちょうどさっきゴブリン30匹を討伐し終えたところだ。
「は、早く帰ろうよ……」
少し震えながらルゥが言う。
まだ怖がってるの?
もう戦わないのに。
まぁ、ここでゴロゴロしてて獣とかが出てきても困るし帰るのには賛成かな。
「わかったよ。はいこれお願い」
そう言いながら、ゴブリンの討伐証明になるゴブリンの耳が30個はいった袋をルゥに渡す。
今日は前みたいにルゥがはしゃがないでラクだったー。
これで、何事もなく帰れそう。
――帰路についてから少し時間が経った頃、いよいよ森の中特有の木だけの景色から解放されようとしている時だった。
「おかしい」
異変に気づいた私が言う。
「何がおかしいの?」
言っている意味がわからずにルゥが口を開く。
「さっきからずっと森の中を歩いているのに鳥の鳴き声すら聞こえない!」
さすがに不味いと思い、私が言う。
これは自衛団で習ったことだが、低級の魔物や動物は自分より圧倒的強者が近くにいると、本能で勝てないと理解し、逃げ出す。
今はまさにその状況だ。
「強い魔物か獣が近くにいるってこと?」
まだ暗い顔をしながらルゥが訊く。
「そういうこと」
と、私が答えると、
「おぉ!」
一瞬で目に光が戻り、いつものルゥに戻った。
そのままでもよかったのに……。
しばらくの緊張が流れる中、少し遠くの草むらがカサカサと揺れる。
「気をつけて!」
剣を鞘から引き抜き、臨戦態勢をとる。
ルゥも、ゴブリンの耳が入った袋を地面に置き、刀を鞘から引き抜く。
まずは、先制攻撃をと思い、手を草むらの方に掲げ、
「
そう言うと、近くにある木の影から大きな針のような黒いものが草むらへと素早く伸びていき、ドスッという音を立て草むらに刺さる。
その瞬間、草むらから何かが飛び出してきた。
「任せて!」
そう言いながらルゥが相手の飛びかかり攻撃を刀でいなす。
そのあと、相手が地面に着地した瞬間に魔物の正体がわかった。
額にツノが生えているウサギ『ホーンラビット』だ。
初心者向けの魔物で、肉も美味い。
ただ、一つ思うことが。
毛の色が赤い?
普通は白のはず……。
ということは、
「気をつけて! 突然変異種よ!」
私がルゥに注意を促す。
すると、
「突然変異種!?」
と、さっき以上に目を輝かせる。
前みたいに走り回らないといいけど……。
そう心配した矢先、
「くらえー! 突然変異種ー!」
そう言いながらルゥが切り込みに行く。
「あのバカ」
愚痴りながら
ルゥが刀を振り下ろすと、一瞬で木の上に飛び乗って回避する。
私が
避けようのない足元からの拘束攻撃。
さすがに決まったと思った……。
――ホーンラビットは一瞬で私の目の前まで移動してきた。
いや、移動してきたのではない。
テレポートしてきたのだ。
そのままの勢いで、ホーンラビットは頭の角で攻撃してくる。
「くっ……」
なんとか持っていた剣で受け身を取ったが、勢いが強すぎて吹き飛ばされてしまう。
「この!」
そう言いながらルゥがホーンラビットに刀を振り下ろすが、避けられてしまう。
「大丈夫?」
ルゥが手を差し伸ばしてくれる。
「えぇ……」
ルゥの手をとって起き上がる。
しかし、どうする?
あのテレポートだけでも厄介なのに攻撃の威力も半端ない。
奥の手がないわけではないが……。
「てやー!」
横目で楽しそうにホーンラビットを追いかけ回すルゥを見る。
「はぁ……」
ため息を1つ。
ルゥが走り回ってる限り奥の手が使えないんだよなぁ……。
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