第31話 新装備を楽しむ三人の話
「もうここへは二度と来ないと思ったんだけどなぁ」
薄暗く、生温かい
墓標が針山のように地面から生えている光景を眺めながら、俺はぼそりと呟いた。
「あはは。私ももうこんなカビ臭いところは嫌だったんですけどね……」
「ボクだってもう
俺の後ろで控えているミカとキュプロがそんなことを言っている。
二人だって本当は、こんな
装備が完成した日。
結局その日はキュプロの休養日として、無理やり休ませることにした。
風呂で身綺麗にし、しっかりと食事と睡眠をとらせ……そしてあのヤバそうな紫林檎の種ジュースは、キュプロの部屋から全て没収した。ジタバタと駄々を
多少のドタバタがありつつも、充分に休息をとった。
心身と共に万全となった俺達は、先日踏破したばかりの街の墓場ダンジョンに2度目のチャレンジを決行。順調に探索を終え、ダンジョンの最奥にある祭壇の間へと再びやってきていた。
「で、この腕輪を装備すればいいのか?」
「あぁ! 腕でも足でも首でも好きなところへ
この通り、キュプロもすっかり元気になった。探索も問題なくこなしている。
特に今は自分が作成した装備が試せるとあって、普段よりも楽しそうな表情だ。
俺はキュプロから
……うん。そこまで重くない。シンプルでいいデザインだ。
しかし腕輪に触れていると、何となく体内の魔力を吸われているような感覚がある。
あの変人なキュプロが生み出したアイテムなんだもんな。ただの腕輪なはずが無い。いったいどんな仕掛けがあるのやら。
……ただ、ちょっといいか?
他にも凄く気になる点があるんだが。
「なぁ、どうしてミカと同じデザインなんだ? これじゃあまるで……」
「むっ。ジャトレさんは、私とお揃いなのがご不満なんですか?」
「そ、そんなことは言ってないだろ!? ただ、ちょっと恥ずかしいというか……」
まるで恋人がつけるようなペアアイテム、と文句を言おうとしたところで、隣りに居たミカに怒られてしまった。
いや、だってコレ……サイズこそ違うが、見た目の造りはほぼ同じなんだぞ?
街中で一緒に歩いていたら、確実に恋人同士だと勘違いされちまうだろうが!!
「だいたい、なんだよこの飾りは!!」
「ん? なかなか良いだろう? ミカ君のリクエストを受けて、ボクが彫ったんだよぉ?」
俺の腕輪には、宝玉付きの杖があしらわれている。この杖はどう見ても、ミカがいつも持っているアレだ。
ってちょっと待て。ミカのリクエストだって!?
「おい、ミカ!? それはどういうことだよ!!」
「えへへ。さすがキュプロさん! センスがありますね~!!」
「だろぉ~? もっとボクを褒めてくれたまえ!」
「二人とも俺の話を聞いて!?」
俺を無視したまま、ミカはキュプロと一緒にキャイキャイと喜んでいる。
既に左手に装着している彼女の腕輪を見てみると、俺が持っているのと微妙に違っていることに気付いた。
どうやらミカの方の腕輪には、中央に赤い宝玉に似たルビーがアクセントとして付けられているようだ。
「いや、待てよ……俺のこれ、ミカの特徴だけじゃないな!?」
もっとよく見てみれば、杖からは
パッと見では分からないが、コレはキュプロの『
コイツ、無駄に細かいことを……しれっと自分の特徴まで足してやがったな?
「まぁ、これはジャトレ君とミカ君が互いの為に使うものだからね。この方が分かりやすくて良いだろう?」
「「互いの為に使う??」」
それはどういうことだ?
俺はミカの防御を固める為のアイテムを要望したはずなんだが……?
だがキュプロはそれ以上説明をすることなく、スタスタと祭壇の方へ歩いていってしまった。
「お、おい? 使い方の説明をするんじゃなかったのか」
「まぁ、それは実戦で説明するから、一度やってみるといいよぉ~」
いつもの嫌な笑みをニヤァと浮かべ、ポンと祭壇の上に手を置いた。
すぐさま祭壇は反応し、数日前に見たのと同じ現象が辺りに広がり始めた。
「ちょっ、いきなりダンジョンボスで試すのかよっ!!」
「ジャトレさん下がって!! このままじゃ、またロイヤルゾンビに操られちゃいます!!」
ミカは声を張り上げ、俺を後ろに下がらせようとする。
前回は俺が操られたせいで、だいぶ苦戦したからな。俺もミカの指示に従い、大人しく退避しようとしたのだが……。
「その必要はないよぉ~」
キュプロが俺の前で両手を伸ばして制止させてくる。
「ちょっと、キュプロさん!?」
「まぁまぁ。二人とも、腕輪に魔力を
そんな悠長なことを言っている場合じゃねぇぞ!?
すでに墓場のフィールドからは、無数のノーマルゾンビやリーダーゾンビが溢れ出してきている。そしてあのゾンビの王、ロイヤルゾンビの顔が地面から覗き始めていた。
「やべぇ、どうにかしないと……ん?」
と、その時。
突如、俺の目の前に薄い半透明の光が現れ、俺の周りを球状に包み込んだ。
「な、なんだ!? 敵の攻撃か!?」
「えっ、あっ凄い!! 凄いですよジャトレさん!!」
「どういうことだ? これはミカの魔法なのか!?」
いったい何が起きたんだ?
状況が分からない俺は、戦闘中にもかかわらずキョロキョロとしてしまっていた。
どういうわけか、この光は俺の動きに合わせて一緒についてきている。
「それはミカ君の腕輪を通して発動した、魔法の盾さ」
「魔法の……盾?」
「そうだよぉ~。ミカ君の魔力を使って盾を形成し、もう一つの腕輪を装備している人物を護るって寸法さ」
な、なるほど?
ってことは、これが腕輪の効果なのか!?
この光る盾が護るための仕掛けだというなら、
てっきり俺は敵の新しい攻撃でも喰らったのかと思ってヒヤヒヤしたぜ……。
……ん? ということは。
「俺の腕輪も魔力を籠めれば……おおっ!!」
「わぁっ、こっちは黒い光ですね! なんかカッコイイ!!」
最近覚えたばかりの闇魔法。
それを発動するような感覚で腕輪に力を込めると、今度はミカの周りに薄黒い光が現れた。
「で、どうだい。ジャトレ君はあのロイヤルゾンビに操られるような感覚はあるかい?」
「え? あ、あれ? そう言えば何も感じないな。アイツの
すでにロイヤルゾンビの周りを他のゾンビ達が固め始めている。
しかし前回と違って、身体の自由を奪われることも無い。
「やはり、ミカ君の聖女としての清い魔力はゾンビを支配する力を遮断してくれるようだねぇ」
「そうみたいだな……すげぇ、やるじゃねぇかキュプロ!」
「きひひひっ。まぁねぇ! ボクは天才だから!」
それにどうやら、この魔法盾は支配を防ぐだけではないようだ。
襲い来るゾンビ共のパンチや闇魔法からも護ってくれている。
残念ながら白い光は目立ちすぎるので、俺の得意な奇襲攻撃は出来なくなったが、それを補って余りあるほどの性能がある。
「きひひひ、ご満足いただけたようだね」
「あぁ。これなら弱体化した俺たちでも戦えそうだぜ!」
どれだけゾンビ共に襲われても、この盾はビクともしない。
逆にこちら側の攻撃は盾を透過できるので、邪魔になることも無かった。
「よしよし。それじゃあジャトレ君。次の新装備にいってみようか!」
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