第15話 街の墓場ダンジョンを亡者と聖女が探索する話
新しく出現したダンジョンの奥地を目指し、俺とミカは順調に探索を進めていた。
ここで出現するのは主にノーマルゾンビ。そして偶に俺と同じ種族のリーダーゾンビが襲ってきている。
「うーん、何だか複雑な気分になってくるな」
「どうしてですか!! ジャトレさんは見ているだけなんだから、楽でいいでしょうっ!?」
「いや、それはそうなんだが。でも何て言うかさぁ……」
そんなことを言っている間に新たな敵だ。
前方の崩壊した教会の物陰から、ゾンビが3体現れた。
「――浄化魔法、聖光のカーテン!」
『ぐぐげげげっ……!!』
『ごげぇええっ』
『ひえっ!?』
ミカの浄化魔法が天より降り注ぎ、ゾンビ達を一瞬で葬り去っていく。
隣りに居るだけで、俺の肌までビリビリと焼けそうだ。
それぐらい強大な魔力の奔流だった。
……うん。完全に出オチだわ。
一瞬過ぎて、アイツらがどんなゾンビだったかも見えなかった。
圧倒的な過剰戦力。
まさにオーバーキルだ。
「これでも私、魔法の出力を下げているんですよ~?」
「え、アレでか?」
「雑魚相手に手加減なんてできません。ほどよく殺すなんて、そんな都合のいい魔法はこの世にないんですよぅ」
うぅん、そういうもんなのか。
なんだか強過ぎるってのも考え物だよなぁ。
国選ともあろう実力者だと、一番弱い浄化魔法でもこうなってしまうとは。
「だから岩窟ダンジョンでやりたくないって言ったんです。これじゃあ、ただの弱い者いじめですよ!」
宝玉付きの杖を振り回し、俺に抗議するミカ。
いや、そういうのは危ないから止めて欲しいんだが。ついうっかり魔法を発動して、俺を浄化させてしまいそうだ。
しかし……ふーむ、アレはそう言う理由だったのか。てっきり俺は、単に戦うのが面倒なだけかと思っていたぜ。
「でも俺は楽だからさ。是非ともこのまま、頑張って浄化しまくってくれ」
「もう! ジャトレさんの馬鹿!!」
ミカは文句を言いつつも、再び現れたゾンビを光の柱で華麗に消し飛ばす。
うんうん、聖女って本当に役に立つなぁ。
「ていうか何でジャトレさんの方には襲ってこないんですか! こんなの不公平ですよっ!」
「さぁ~? 仲間だと思われてるんじゃないか? ほら、俺アンデッドだし」
ここへ来るまではあれだけダンジョン攻略に張り切っていた俺が、何故こんなにも気が抜けてしまっているのか。
その理由がまさにコレだった。
このダンジョンへと足を踏み入れてから、もう半日が経過している。
しかしただの一度も、あのアンデッド共は俺に向かってこないのだ。
どういうわけか、決まってミカの前にしか現れない。
「もしかしたら、アンデッドも美少女が好きなのかもな~」
「そんなわけ無いでしょう!? もう、誤魔化さないでくださいよぉ!」
だから俺はまるで散歩をするかのように、ただ廃墟の中を歩いているだけ。
所詮俺みたいな中途半端な剣士なんて要らなかったんだ。
あまりに無双過ぎて、向こうサイドに加勢したくなっちまうぜ。
「そもそもさぁ。このゾンビ達って何も装備してなくないか? 情報屋が言ってたような武器を本当にドロップするのかね?」
残念ながら、浄化されたゾンビの跡は
もしかしたら武器も持っていたのかもしれないが、こうも跡形もないと無意味である。
「知りませんよそんなこと! そもそもここはまだ旧ダンジョン区域なんですし、どうせロクなアイテムなんて出てこないんじゃないんですか?」
やっぱり、そうかぁ。
お宝は出てこないと分かり、俺のテンションは更に急降下していく。
「ちょっとジャトレさん!? こっちを手伝ってくださいよぉ~」
だって金にならないことはしたくねーよ。
あ~、早く新ダンジョンに着かないかな。
◇
「お、ここじゃないか? 旧ダンジョンの最深部」
「はぁ、やっと着いたぁ~。もう私、ヘトヘトですよぅ」
あの後すぐに、街の中心部にあった広場へと着いた。
ここには地下へ繋がる遺跡が生まれており、先へ行けるようになっている。
相変わらず出現してくるアンデッドをミカの浄化魔法で消滅させながら探索を進めること、更に半日。
ようやく俺たちは、最終フロアだったと思われる場所へと辿り着いた。
「祭壇も壊れてしまっていますね……」
「そうだな。きっとこの先が出来たことで、その役目も終えたんだろうな」
フロアの中央には祭壇の名残りなのか、折れた神像と台座だけが放置されていた。
もちろん触れてみても、報酬やボスも出てくることはない。
「この奥に続いている下のフロアが新しくできた部分か」
「階段の下にも、まだまだダンジョンがありそうですね。いったい、どれくらいまで奥があるんでしょうか……」
崩れた祭壇の隣りには、ぽっかりと穴が空いていた。
その穴には石畳で造られた階段があり、下へと続いているみたいだ。
「暗いですね」
「あぁ、暗いな。どうする? 魔法で明かりも作れるか?」
「ふふふ。まっかせてください!」
壁に明かりとなる魔法石があったこれまでの道とは違い、真っ暗闇で先が見えない。
松明でもないと、危な過ぎて進むことは出来ないだろう。
ミカはブツブツと呪文を唱えると、ポンッという音と共に光球を生み出した。
「さすが元国選。何でもできるな」
「でしょ~? もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
「その魔法でお宝でも見つけてくれれば、感謝のキスで顔面ベチャベチャにしてやるぜ」
「……本気で嫌なので、その前にジャトレさんを浄化させますね」
ふよふよと自身の周りに光球を浮かせながら、俺たちはそんな冗談を言い合う。
ここまで時間が掛かったが、まだお互いに余裕はありそうだ。
「中級ダンジョンで必要なクリア日数が3日ぐらいだしな。それぐらいの深さは覚悟してほいた方がいいだろう」
おおよその目安として。
初心者のダンジョンを攻略するのが1日。
中級が2日から4日で、上級だと1週間以上掛かることなんてザラだ。
国選が挑むようなハイレベルな場所なら、1か月も掛かることがあるらしいが……。
まぁいきなり初心者ダンジョンが上級以上になることは無いだろう。
そんなことが起きたら、まず普通の冒険者は全滅する。
今までそんな災害レベルの事が起きたなんて話は、少なくとも俺は聞いたことが無い。
「しかしまぁ、俺たちなら余裕だろう。特にミカの浄化魔法があるし」
「ジャトレさんはまたそうやって……あれ?」
ん、なんだ?
ミカが何かに気付いたみたいだ……っておいおい。
「……はぁ。なんでこう、上手くいきそうな時に限って邪魔が入るんだ?」
これからようやくお楽しみの時間だと思ったのに。
階段の下から、何かの気配がしやがる。
「……なんでしょうね」
「なんだろうな。もしかしたら……」
――新手のモンスターかもしれない。
俺もミカは無言で武器を構える。
改めて気を引き締めねばならないだろう。
なにしろ、この先は新ダンジョン。未知の危険区域なのだから。
階下から近づいて来るモノに対し、最大限の警戒態勢を取る。
こちらに気付いていないのか?
向かってくるスピードに変化はない。
「気を付けろ。また不意打ちを喰らって首を飛ばされたくはない」
「はい……!!」
俺は宝剣の柄を握りしめ、ミカが照明となる光球を下方へ飛ばした。
「あれは……」
魔法の明かりに照らされ、遂にその正体が見えてきた。
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