第14話 花屋から得た情報をもとに再びダンジョンアタックに向かう話


「そうですねぇ。死者に手向けるための花なら、丁度良いのがありますよ?」

「墓場、ね。生憎と今まで縁が無かったな。それはどこにある?」

「街の東。人気ひとけはありませんが、その分新しく墓標を立てるには丁度いいですよ。少し変わっているバラも咲いているようですし」



 売り子の少女は東の方角を指差しながらニコリと笑った。


 愛嬌のある仕草だが、見た目で侮ってはいけない。彼女は裏の人間だ。そこらの冒険者よりも実力はあるし、躊躇いなく人を殺せる。


「あの、ジャトレさん……」

「あぁ。悪かったな。ちゃんと説明するよ」


 いくら国選の冒険者だったとはいえ、裏の家業をやってる奴らの隠語は分からないもんな。



「墓標は危険度が高い案件、という意味だ。リスクがある分、リターンはでかい。要するに街の東にあるダンジョンはまだ未踏破で、今なら狙い目だってこった」


 さすがはこの街トップの情報屋。

 俺が提示した条件に合致した場所をピックアップしてくれたんだろう。


 変わったバラがある……つまりはモンスターである俺でも使える、特殊な武器がゲットできるかもしれない。



 よし、これで情報は十分だろう。

 あんまりここに長居すべきじゃないしな。早々に立ち去ろう。

 情報料を少女に渡し、「また御贔屓ごひいきに!」という言葉を背に受けながら再び歩き出す。


 一連のやり取りを見ていたミカは呆気に取られている。

 しばらく無言で何かを考えていたようだったが、おもむろに口を開いた。


「ジャトレさんって本当は何者なんです? ただの剣士なんかじゃないですよね?」

「んなことねぇよ。俺はただの金の亡者さ。ただ人より、金の稼ぎ方を知っているだけの醜い男だよ」

「……またそんなこと言って。だいたいあの情報料はなんですか。あの売り子さんに渡していたのって、ビーンから奪ったアクセサリーですよね?」



 あはは、バレてたか。


 ミカの言う通り。

 俺があの情報屋に対価として渡したのは、金の装飾品だった。


 酒場でミカに気を取られている内に、金ぴか男からちょいっと拝借したものだ。

 そうじゃなきゃ、俺があんな無駄な話を大人しく聞くわけがないだろう?



「まったくジャトレさんは……。だったらもっとビーンから奪っておけば良かったのに」

「ぷっ、くくっ……お前も聖女の癖にほんとガメツイ性格してるよな」

「えへへっ。ジャトレさんから移ったのかもしれませんよ?」

「おいおい、人のせいにするなっての」


 すかさず俺は嫌味で返す。

 だがミカは気にした様子もなく「てへっ☆」と舌を出して誤魔化すのであった。

 



 情報を得た俺たちは一度、帰宅することにした。

 今日は準備に充てて、明日からダンジョンアタックをするためだ。


 とはいっても、そこまで念入りに用意をするわけではない。

 元々俺がダンジョンに行っていた時も革の背負い袋ひとつだけ。

 ミカなんて“無償の愛”の呪いがあるから、ほとんど装備もできない。


 だから持っていくのは食糧と武器、そして宝玉ぐらいなもんだ。

 前回のダンジョンアタックの時より多少食糧が増えた程度。


 そんなわけで夕方までに準備はあらかた済ませた。後は明日に向けてしっかりと身体を休めておこう。



「意外と早く終わってしまいましたね~」

「まぁな。他の冒険者だとこうはいかないんだろうが」


 一息ついた俺たちは朝と同じように食堂で顔を合わせていた。

 思いの外ミカの作った朝食が美味かったので、夕飯も再び御馳走になっている。


 今日は魚のポワレだ。この街、レクションのそばを流れる川で獲れた魚を使っている。



「しっかし、魚がこんなに美味いとは思わなかったぜ。いや、ミカの腕が良いんだろうけどよ」

「えへへ。ありがとうございますぅ! やった、また褒めて貰っちゃった!」


 俺も別にお世辞で褒めたりなんかしない。

 マジで店でも出せるんじゃないかってレベルで美味いのだ。


 ちなみに俺は知らなかったのだが。

 この魚はレクションの名産だったらしい。

 だが今まで俺は調理の手間がかかる魚が嫌いで食べてこなかった。



 うーん、なんだか勿体ないことをしてきた気がする。でもなぁ。俺ひとりじゃ絶対に料理なんてしないし。

 おそらくミカが居なきゃ味わえなかったな。


 ……アレ?

 強くて容姿も良く、料理までできる。

 案外ミカってかなり優良物件なんじゃないか?



「なぁ、ミカ……」

「はい? なんですかジャトレさん」


 ミカは丁寧にナイフとフォークを使って魚の骨を除けているところだった。

 一旦その手を止め、目をパチクリとさせながら俺を見つめ返した。


「今日は……悪かったな」

「え? なんのことですか??」

「いや、その……本当はさ。ビーンと仲間になった方がミカとしては良かったんじゃねぇかって、ふと思ってな」


 あの時は思わず気絶させちまったが……。

 ビーンの言うことにだって、たしかに一理ぐらいはあったのだ。


 少なくとも、俺と居るよりかはずっと良い。

 国選に戻れる可能性だって高かっただろうし。



「ふふふっ。そんなことを気にしていたんですか? もしかして、嫉妬して……」

「んなわけねぇだろうが。俺の大事な相棒を、あんな脳まで金メッキされたような奴に奪われたくないってだけだ!!」

「……ジャトレさんってもしかして、言うことが結構大胆だとか言われません?」


 は? なんでだよ。

 俺は誰かに奪われるのが嫌なだけ……あれ?


 いやいやいや、俺は金の亡者だぜ?

 大事なのは金だ。


 あくまでもミカは俺が金を稼ぐための道具だ。それを奪われたくなかっただけに違いない。


「ふぅ。ミカが良いならこの話は終わりだ。それより今はダンジョンだもんな。今度こそ成功させて、ガッポリ稼ごうぜ!」



 機嫌良さそうにニヤニヤとしているミカはこの際無視だ。

 とにかく、明日からのダンジョンアタックは絶対に成功させよう。


 残った魚の尻尾を齧りながら、改めて俺はそう決意するのであった。





 そして次の日。

 俺たちは街の東にあるダンジョンへと来ていた。


 ここは古くからある、通称“街の墓場ダンジョン”。

 百年ほど前に起きた疫病で街が滅び、そしてダンジョン化した場所だ。


 冒険者によって既に何度も攻略され、財宝も出尽くしたとされている。


「たしか発生するモンスターはアンデッドでしたよね……」

「臭いし弱い、そしてドロップ品も旨味が無い。嫌な三拍子が揃っているからな。このダンジョンも随分と廃れちまったようだ」


 ダンジョンと言っても、俺たちの目の前に広がっているのは廃墟だ。

 モンスターもちらほらと居るのが見えるが……



「何となくモンスターも寂しそうですね」

「まぁ、客が来ないんじゃな……」


 俺とは違い、本物のアンデッド……ノーマルゾンビたちが街を徘徊している。


 しかしどの個体も覇気が感じられない。

 ぼけーっとした表情で、その辺をよたよたと暇そうに歩き回っている。


 いや、ゾンビなんだから元々そんなもんなんだろうが。



 ただなぁ……。

 あれじゃあ何のためにここにいるんだ?って感じだ。

 同じモンスターとして同情しそうになっちまうぜ。



 だがそんな可哀想なアンデッド共にも朗報だ。


 情報をくれた花屋曰く、この街の墓場ダンジョンは進化を遂げたらしい。

 なんでも最深部だと思われていたフロアに、更に奥へと続く道が現れたって話だ。


 しかもその新しくできたエリアは未攻略だという。



 つまりはだぜ?

 ダンジョンで一攫千金を狙っている俺たちにとって、これは絶好のチャンスというわけだ。



「ふっふっふ。未攻略のダンジョンなんて初めてだぜ。腕が鳴るな、相棒よ」

「えへへへ。そうですね、ジャトレさん。思いっきり暴れ回っちゃいましょう」



 邪悪な笑みを浮かべる金の亡者と強欲な聖女。


 これから出逢うであろう宝物を夢見て、仲良く足を踏み入れるのであった。


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