第7話 ダンジョンの最奥に辿り着くも、最強の美幼女冒険者がヴァンパイアとなって襲ってくる話

 ※グロシーン注意です、念の為。



「あっ、見てください。最後のフロアですよ! いやぁ、ここまで頑張った甲斐がありましたね~!」

「……結局、ここまで戦闘をしたのは俺だけだったじゃねぇか」

「だってぇ~、雑魚を倒したってつまんないじゃないですかぁ」



 こいつ……!!

 いったい何のために、こんなダンジョンの奥までお前を連れてきたと思ってるんだ?


「まぁまぁ。いいじゃないですか~。帰りは私もお手伝いしますから。ねっ?」

「今回はお前の呪いの確認も兼ねてるんだからな!? ちゃんとやってくれよ……」

「はぁい。分かってますってば~」


 ミカの“財宝を所持すると弱体化する”という呪い。財宝を手に入れても俺が所持していれば発動しないか、テストをする必要がある。


 それなのにこの女は……。協力するつもりが無いんなら、今すぐに解散してダンジョンのこやしにしてやりたい。



「さてさて? 雑魚ダンジョンとはいえ、お宝の時間ですよ~」

「……そうだな。ここまで来たんだ。いったい何が出るやら」


 相棒の問題はさておき。

 今は目の前の報酬の方が大事だ。


 俺は最後のフロアにある祭壇に近付いていく。


 コイツに触れれば、ランダムで財宝が現れる仕組みになっている。

 同時にそれを守護するダンジョンボスも現れるんだが……まぁ今の俺たちでも、楽勝だろう。


 さっき俺が倒した中ボス。マッシヴベアは滅多に出てこないレアモンスターだったが、ぶっちゃけそっちの方が数段強い。

 以前に俺がここに訪れた時は……ただのデカいスライムが出てきただけだったな。



「よし、触れたぞ。これでボスが出て来るはずだ。ちゃっちゃと片付けようぜ」

「……油断しないでください。なんだか空気が変です」

「あん? 空気だって? そんなもん最終フロアなんだから、多少はちが……」



 ――ザンッ!!


「……う? あ――」

「ジャトレさんっ!!」


 衝撃が襲ってきた瞬間。

 同時に視界が逆転し、世界が落ちていく。


 否――俺が落ちているんだ。


 正確には、俺の頭部が。



 ゴトン、という衝撃。共に、俺は地面に落下する。

 続いて残っていた胴体がゆっくりと前のめりに倒れていった。



「――!!(なんだ、あれは!?)」



 ……チッ。

 身体が泣き別れちまったせいで、声が出ない。まさかあの一瞬でやられちまうとは。



「――!?(そうだ、ミカは!?)」



 隣りに居たはずのミカの姿が無い――良かった、壁際に退避していたようだ。


 さて、俺も元に戻るか。

 宝玉から力を取り出すイメージで……と。



「だ、大丈夫ですか?」

「――あ、あーあー。うん、よし。大丈夫だ。ちょっとだけイキかけたけど」


 宝玉にストックしてある財宝のお陰で、ちゃんと復活することができた。文字通りに首が繋がっている。


 いやー、ビックリした。

 ていうか、この身体が再生していく感覚はどうにも慣れないわ。



「モンスターとはいえ、いきなり仕掛けてくるのは流石にズルいんじゃねぇか? なあダンジョンボスさんよぉ?」

「……」

「ふん、モンスターが喋るワケねぇよな。誰かさんじゃあるまいし」


 俺を攻撃してきた張本人――ヴァンパイアに向かって文句を言いながら、ジリジリと後退して距離を取る。


 感情的になって馬鹿みたいな反撃はしない。油断して、また吹き飛ばされちゃたまらないからな。



「さっきのマッシヴベアといい、なんでここにヴァンパイアが……」


 俺を攻撃してきたのは、人間の見た目をした小柄の吸血鬼だった。

 ヴァンパイア特有の赤眼と黒い翼。そして口からは鋭い犬歯が見えている。

 

 アレは……マッシヴベアよりも格上だ。種族レベル的に、今の俺じゃまず勝てない。

 さっきの俺の首を一撃で跳ね飛ばした攻撃で、そのヤバさ加減は良く分かった。



「しかもアイツ、変異種かよ!! 通りで可愛らしい見た目だと思ったぜ」


 ノーマルな醜いコウモリ野郎ヴァンパイアと違って、見た目は限りなく人間に近い。

 それも銀髪美女の姿だ。黒のドレスを身に纏い、ぼうっと突っ立っている。……だがその見た目に騙されちゃいけねぇ。


 種族はヴァンパイアロード。

 ……いや、吸血女王ヴァンパイアクイーンか?


 生意気なことに、本来なら苦手であるはずのシルバーの鎖を己の身体中に巻き付かせてやがる。


「どうやらあの鎖は自由自在に動かせるみたいだな。ってことは、俺を攻撃したのもアレか……剣を使う、近距離アタッカーの俺とは相性が悪すぎるぜ」


 だが、俺の隣りにいる元国選の冒険者なら話は別だ。

 魔法が使えるミカなら、遠距離から問題なく戦えるだろう。



「おい、ミカなら勝てるだろ? 出番だぜ、さっさと倒してくれよ」

「……」


 見目麗みめうるわしい吸血女王から目を離さないようにしながら、ミカに声を掛ける。


 ……だが、返事がない。

 立ったまま、俺と同じように敵を見据えて微動だにしない。



「おい、無視すんなよミカ。さっさとやっちまおうぜ」

「……逃げましょう、ジャトレさん」

「あぁ!? なんでだよ。ただの吸血女王だぜ? 俺は兎も角、国選のお前なら楽に勝てんだろ」


 たしかにこの初心者ダンジョンに出るような敵じゃない。とはいえ吸血女王はせいぜい、中級のダンジョンで現れるレベルだ。


 国でも有数の実力者だったミカなら、上級以上のダンジョンぐらいは何度もクリアしているはず。

 呪いで多少弱体化していたって、簡単に勝てるだろう。


「確かに、ただの吸血女王なら余裕で倒せますよ。私の魔法で一撃です」

「なら何で……」

「見てください。彼女の胸元を」

「あん? 胸?」



 言われた通り、目を凝らして奴の胸元を見やる。


 ……うん、貧相だな。

 身体つきが幼いってのもあるが、正直男って言われても分からんぐらいの薄さだ。


「……違います!! ちゃんと真面目に見てくださいよ!!」

「いや、だって……んんっ? お、おい!! アレはっ……!!」


 もう一度よく見てみると、ミカが言いたかったことが俺にも分かった。

 最初はただの銀鎖の装飾品かと思ったが、アレはそうじゃない。胸元で怪しげな光を放っているのは間違いなく、俺たちが所持しているのと同じ“呪いの宝玉”だった。



「マジかよ。じゃああの美幼女吸血鬼って元は人間か……!?」

「あの金髪、あの他者を寄せ付けない黒いオーラ。私が知っている人物であるとしたら……“孤高のヴァニラ”という冒険者です」

「ヴァニラ……ってあのヴァニラか!? 国選冒険者、しかもこの国最強の剣士じゃねぇか!」


 そんな……どうしてそんな奴がこんなところに居るんだよ!?


「ジャトレさん、今回は残念ですが……」

「うるせぇ! 俺は金がある限り死なねぇんだ。俺がコイツを倒す。戦わねぇんなら、ミカは下がっていろ!」


 俺が祭壇に触れるまで、アイツも宝玉も出てこなかった。ってことは、アイツは人間じゃなくてただのダンジョンボスだ。


 要するにモンスター化したヴァニラを倒せば、あの宝玉は俺の物になるってことだろ?


 あの宝玉さえ手に入れれば、もう一度願いを叶えられる。そうすりゃ、こんなフザけた呪いも解けるはずだぜ……!!


「クククッ。お前らに俺の本気を見せてやるよ。絶対にあの宝玉は俺が手に入れる……!!」


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