LET’S人間界 その3
「人間界へ行きましょう!」
「「「は?」」」
全員シンクロワードもこれで3回目。
今まで騒がしかった奴らが、一斉に同じ言葉を発した後に動かなくなった。これは何かの危機か?
と、あまりの状況変化に赤ちゃんも鳴くことをやめた。
「何故だ? 人間界に行かなくとも乳母を探すこともできるだろうに」
馬鹿なことを・・・・・・と爺の呆れ気味の呟きに、反応したメイドが一人。
彼女は仕方なさそうにうなづくと、爺へ問うた。
「爺、今の私達の状況は?」
わざわざ聞く必要があるのかと爺は疑問に思ったが、パインの鷹のような目に口を開く他なかった。
「それは・・・・・・。城の前に赤ん坊が捨てられており、それが人間の子だった。親を探さなければならないが、ひとまずミルクが必要になった、と言ったところでしょうか」
「魔族にとって人間とは?」
「下等な生き物。卑しき者」
「その下等な生き物を近くに置いているのが魔王様だと乳母に知られることになりますが、その口止めはどのようにするつもりですか?」
「なっ・・・・・・!」
「私達は少々厄介な状態の中にいます。その子がこの世界にいることをなんとかして隠さなければ、大変な混乱が起こります。とても誰かを頼ることはできない」
ことの重大さを理解した爺を含めた使用人達の顔は、みるみるうちに青白いものに変わる。
「なあ、もしかして人間界に行くしかねーのか?」
そんな中魔王は、この室内で唯一輝いている瞳をパインに向けた。
その顔には期待の色がありありと見て取れる。
「残念ながらそのようです。本当にもう・・・・・・。この子に罪はありませんが中々辛いものがありますね」
この状況か、或いは赤ちゃんの親に対する感情によるものか、パインの顔には疲れの色がうかがえる。
「なあなあ! だったら俺が買ってくる。というか俺が行きたい!」
「魔王様だけは絶対にダメです」
わざわざ手を上げたのに魔王の願いは断固拒否された。
「なんで俺だけなんだよ!」
「なにがあるかわからないからです。あっちで迷子にでもなられたら、どうすればいいんです?」
「俺をどんだけ子供扱いしてんだ! もう立派な大人だ! あそこに毛だってあるし、いかがわしい本も読む大人だ!」
「それではなおさらです。何処かの娘に手でも出されたら・・・・・・」
あー怖い怖いと、パインお得意のこめかみポーズが炸裂した。
「お前は俺が動物か何かだと思ってんの?」
「魔王様ほどの年頃の男など動物と大差ありません」
「いくらなんでもひどくねーか!?」
確かに女と比べて精神面の発達が明らかに遅い男ではありますが、そこらで動き回ってる動物と一緒にされるのは偏見ですよ!
魔王の心中では、同年代代表の旗印を掲げ、大勢の観衆の前で主張をする自分がいた。
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