集会所の外にて その3

 『美雪や』

 集会所から出て数歩歩いたところで、美雪は村長から声を掛けられた。

 皆が集会所を去ってからのことだったので、周りには誰もいない。

 まあ、その裏には例の二人がいるのだが。

 『はい』

 『お主の辛さはとても計り知ることはできん。昨年夫に先立たれからは女手一つで子育てと仕事を両立しているのじゃからな。わしはずっと心配じゃった。そんな中で唯一の肉親である娘まで失ったのじゃ。本来なら気が狂う程じゃろうが、お主は冷静に現状把握し、今もこうやって次になすべきことをこなしておる。お主は本当に強い』

 『いえ、そんなことは・・・・・・。私はまだ、本当の意味で百合が何者かに連れ去られだということを理解できていないだけです。きっと明日には百合のいない我が家を体感して絶望するでしょう。或いは源次さんの言う通り、私が人間失格だからでしょう。自分の娘がいなくなったというのに他人事のような態度。もしかしたら私が魔物だからかもしれませんね』

 美雪は自嘲の念で作った笑みを浮かべ、村長の言葉を待った。

 『その事はもう二度と口にするなと言っておいたはずじゃぞ。あの事は二度と触れられることない禁忌。お主の体に流れる血は全て人の血じゃ。忘れるな』

 明らかな憎悪を表した声音で村長は告げた。


 「おい、どーゆーことだ? 美雪さんが魔族って」

 美雪たちの話は二人の耳にも入っていた。                          

 周りは木々に囲まれ、雑音となるのは小鳥のさえずり程度のこの場所は、密談をするのも、それを盗み聴くのもうってつけなのだ。

 「わからん・・・・・・。あっ、でも、もしかしたらあの話と何か関係があるのかもしれん」

 「あの話?」

 

 「どの話だか知らんがお主らには関係のない話じゃ」

 

 「「ひっ!」」

 小さな悲鳴を上げながら左を振り向いた二人の視線の先には村長がいた。

 「この様子じゃと、集会も覗いておったようじゃのう。聖護しょうご? 源太げんた?」

 初めに小さい方、次に大きい方の少年を見つめて村長はその名を呼んだ。

 「「すいませんでした!!!」」

 二人はすぐさま地に伏した。

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