人間界に憧れる魔王 その4

 紙の束の表紙には、些か面積の少ない布地を体に纏い、扇情的なポーズをとる人間の女性の姿があった。

 それを鬼の首を取ったように掲げるパインは、魔族のそれとは異なる禍々しさを秘めている。

 「先程のご高説の裏では、人間をこのように見ていらっしゃったのですね」

 「い、いや。それはあのー、ジルゼクトの奴が押し付けてきてさ」

 魔王の言うジルゼクトとは、隣国の王子、ジルゼクト=ギル=ハイル。親同士の交流が深かった事もあり幼い頃からよく遊んでいた、いわゆる幼馴染だ。

 「そうですか。ジルゼクト様ですか」

 「そうそう! いや、俺は嫌って言ったんだけどさ」

 「では、なぜ掛け時計の裏に?」

 「それはー、ほら、他のメイドたちに見つかって捨てられたりしないようにと思ってさ。いくら無理やり押し付けられたって言っても、借り物を捨てられないでしょ?」

 「そうでしたか」

 パインの頷く姿を見て勝ちを確信した魔王はしたり顔で微笑んだ。

 「だから俺は人間をそんな目で見てないって」

 「では、この本はお開きにはなられていませんよね?」

 「へ?」

 今度はこちらの番だと言わんばかりのしたり顔で、パインは魔王に問う。

 「なのに何故折り目が付いているのでしょう?」

 「それもほら、あいつのだからあいつがいつも見てるとこなんじゃない? 俺は見てないけど」

 「ジルゼクト様は貧乳好きのはずですが?」

 「何故あなたがそれを!?」

 「毎回このお城にいらっしゃる際に鼻の下を伸ばしていらっしゃるのは、比較的胸の小さなメイドが近くにいる時なので」

 「うちのメイド性能高え!」

 こいつはあれか?

 人の心が読めんのか?

 なんでも大昔の魔術には、人の心を読む術があったらしいけど、それもヤバすぎるっつってもう知ってる奴はいないはずだぞ!

 んじゃなにか?

 こいつはノーマルでこの術が使えんのか……!

 魔王は側にどれほど危険な人物がいるのかを改めて認識した。

 「というか、今の口ぶりから察するに、魔王様はこの本をお読みになっていますよね?」

 「そんなわけ、ねーだろう!?」

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