第11話:日向さんに対する好きの答え
日向さんが好きだ。それはもう、紛れもなく事実だ。
そこで改めて考えてみる。俺は彼女とどうなりたいのだろうと。付き合いたいのだろうか。
清花と付き合っていた頃は、友達だった頃の方が楽しかったと思っていた。日向さんと付き合ってそうならないとは限らない。いや、そもそも付き合いたいと言っても向こうが了承してくれるとは限らないけども。
そんなことをうだうだと悩んでいるうちに、野外学習が始まった。
性別を理由に薪割りに行かされた同じ班の
それにしても、月島さん以外はほとんど男子だ。俺達のように『男子だから』で行かされた奴もいるんだろう。
数少ない女子の中に日向さんを見つけた。疲れたと弱音を吐く生徒に紛れて黙々と薪を割っている。真剣なその姿に見惚れ、普段とのギャップを感じて胸が締め付けられた。これがいわゆる萌えというやつだろうか。
「雨音ちゃーん」
水谷の声でハッとする。見ると、彼はニヤニヤしていた。
「な、なんだよ」
「好きなの? あの子」
彼が指差した先には日向さん。俺に気付くと、にっと笑って手を振った。軽く手を振り返して、見惚れていたことを誤魔化すために薪割りを再開する。
「意外とわかりやすいんだね雨音ちゃん」
「うっせぇ」
「雨音ちゃんに好きな人が居るなんて知ったら、
馬場というのは、俺にやたらと絡んでくる男子だ。俺のこと好きなんだろといじってやってからはウザ絡みしてくることは無くなったが、ちらちらと視線を感じることは多い。
仮に彼が本当に俺に恋愛感情を抱いていたとしても、別に否定したりはしない。危害を加えてこなければどうでも良い。あの時はあまりにもウザ絡みしてきてムカついたから言い返しただけだ。
「そういや雨音ちゃんってさ、裁縫部だったよね」
「うん」
「……裁縫部にさ、小桜さんって居るじゃん? あのちょっとエロい雰囲気の一組の子」
「あぁ、小桜さんね」
「あの子ってさ……王子と付き合ってるってマジ?」
「おう。マジだよ」
王子というのは鈴木のあだ名だ。前から両片想いで見ていて焦ったいなと思っていたが、ゴールデンウィーク明けから付き合い始めたと小桜さんから聞いた。二人とも隠す気は無いらしく『私達の関係はどんどん広めて良いよ』と鈴木が言っていた。『別に男女の恋愛と変わらないよねって雰囲気を作っていけば、差別に怯えて隠れている子達も自分も同性を好きでいて良いんだって安心するだろうし』と言っていたが、本音は、小桜さんがモテるから牽制しておきたいだけなのではと思ってしまう。しかし、気持ちは分からなくはない。俺も今は日向さんに視線を向ける男子が気になって仕方ないから。彼女に恋愛感情を向ける相手が男子だけとは限らないけど。
と、ここでようやく、俺は彼女に対して独占欲を抱いていることに気づいた。やはり、清花に対する好きとは違う感情らしい。
「マジで? えー……女しか好きになれないならどうしようもないじゃん……はぁ……」
小桜さんは以前男子と付き合っていたと聞いているがこれはあえていう必要もないだろう。これを聞いて、なら俺にもチャンスがあるのではと勘違いする輩もいるが、鈴木はその辺の男が勝てる相手ではないと思う。学年——というか恐らく、あの学校で一番女子からモテてるのは鈴木だと思うから。
「雨音ちゃんはさっきの女子とどうなの?」
「どう……なんだろうな。仲は悪くないとは思う」
「告った?」
「……好きとは言った。恋愛的な意味じゃなくて何気なく言っちゃったんだけど、その時の反応が可愛くてさぁ……」
「脈ありな感じ?」
「分からん。けど、俺の気持ちはもうはっきりした。野外学習終わったら聞いてみる」
「お、おぉ……潔いな。雨音ちゃん、見た目の割に男らしいよね」
「よく言われる」
そして、二泊三日の野外学習を終えたあと、俺は彼女に『話がある』と切り出した。すると彼女からは『あたしも森っちに言いたいことある』とメッセージを返してきた。彼女も俺と同じ想いなのだろうか。そう期待するだけで、胸が高鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます