第9話:好きって、どういう好き?
翌日。いつものように電車に乗り、学校の最寄り駅までに着くまでの時間をスマホをいじりながら待っていると、日向さんの声が聞こえてきた。声の方を見ると、車両を移動してきた日向さんが俺に気づき、手を振る。菊ちゃん、星野、月島さんも一緒だが、小桜さんと鈴木が居ない。
「隣の車両に置いてきた。二人きりにした方が良いと思って」
そう言って日向さんが指差した先には鈴木にしがみつく小桜さんの姿が。鈴木は右手で吊革を掴み、左腕で小桜さんの腰をがっちりホールドしながら髪を弄んでいる。
「……うわっ、いちゃつきすぎだろ」
「何あのエロい雰囲気」
「居るよね……ああいうバカップル……」
「はよ付き合ってくれ……」
星野が見てられないと言わんばかりに顔を隠しながら呟く。悲痛な声だった。
「こいつ、うみちゃんに惚れてんだよ」
容赦なく暴露する月島さんだが、どうやら周知の事実らしい。俺は全く気づかなかった。普段からあまり関わるわけではないというのもあるけど。
ふと、電車が大きく揺れ、菊ちゃんがバランスを崩してしまうと、月島さんが彼女をを抱き止めた。月島さんは微動だにしなかった。吊革も手すりも掴んでいないというのに。どうなってんだ体幹。
「ほれ、望。お前が手すりがわりになってやれ」
月島さんが菊ちゃんを星野に押し付ける。改めて並ぶとすごい身長差だ。
「ど、ど、ど、どこ、どこ掴めば……」
「腕とか?」
「あ、じゃあ、はい、失礼します」
「ん。どうぞ」
菊ちゃんは星野のことが好きらしいが、星野は全く気付いていないように見える。鈍感なのか、気付かないふりをしているのか。
「鈍感すぎるよなぁ……マジで」
「あいつ、うみちゃんに対する恋愛感情にはキモいくらい敏感なんだけど、自分に向けられる恋愛感情には鈍感だからなぁ……」
どうやら本当に気づいていないらしい。菊ちゃんに同情していると、目的地着いた。降りて待っていると、隣の車両から鈴木と小桜さんが降りてくる。恋人繋ぎで手を繋いで。
「おはようお二人さん」
「おはよう。……森くん昨日、夏美ちゃんと居たわよね」
「ん? あぁ、たまたま会ってな。そのまま流れでランチしようかってなって」
「びっくりしたよ。あたしの友達にこんな美少女居たか? って思ったら森っちでさー……」
「あの時の日向さんの顔、最高だったわ。写真撮っておけば良かった」
「そりゃあんな可愛い子からそんな低い声出たらびっくりするっしょ!」
「化粧してたわよね。自分でやったの?」
「おう」
「……マジでその顔でその声違和感しかないから、うみちゃんと声交換してほしい」
月島さんが呟く。すると、
「……ちる、王子は今の少年ボイスのままの方がバランスが良いからボイス変更とか言語両断だよ。見た目のカッコよさと声質とか雰囲気の可愛らしさのギャップが王子の魅力で…森っちは森っちで、この声の低さと男らしさのギャップが……」
日向さんが真顔で、早口で反論を始めた。変なスイッチが入ったらしい。カラオケの曲のチョイスからなんとなく察していたが、彼女は意外とヲタクっぽいところがあるようだ。
「日向さん……やっぱ面白いなぁ。俺、あんたのこと好きだわ」
俺が何気なくそう言うと、彼女のマシンガントークがピタリと止まった。先ほどまでの
「……いや、すまん……友情的な意味だったんだけど……」
「そ、そうだよな! びっくりさせんなよー! もー!」
照れ隠しなのかべじべしと俺を叩く日向さん。彼女から向けられる好意も、俺が彼女に向ける好意も、どちらも恋愛的な意味では無いと思っていたが、もしや違うのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます