ただ可愛いと言われたいだけ
三郎
第1話:可愛いは褒め言葉
姉とお揃いのスカートを穿いて、可愛い髪飾りをつけて、笑顔で写真に写るのは、幼い頃の俺。周りから可愛い可愛いと持て囃されていた頃の俺。
低身長で女顔の俺は、今でもよく女の子と間違えられる。だけど、声変わりしてからはそれもなくなった。部活は合唱部。入学した頃はボーイソプラノだったが、二年になる頃にはすっかりバリトンボイスに。
学ランを着ると、似合わない男装しているみたいだとよく言われる。「
男の俺がスカートを穿くことを許されていたのは幼少期だけで、物心ついた時にはもう、スカートを穿いて外を出ることは許されなくなっていた。だけど、家の中だけでは許されている。正確には許されていないけれど、姉しかいない時は好きなだけ可愛い格好をすることが出来た。
「雨音、これも着てみてー」
「派手じゃね?」
「大丈夫。雨音は何着ても可愛い」
俺は姉の着せ替え人形だった。けれど、別に不快ではなかった。姉の着せ替え人形でいるうちは普段は許されない服を着ることが出来るから。
「じゃ次は——「ただいまー」うわ、やべ、帰ってきた! 着替えて着替えて!」
女装していることは、両親に知られると叱られるため、姉と俺だけの秘密だった。
「……姉ちゃん」
「ん?」
「……なんで俺は男に生まれたのかな」
「女の子に生まれたかった?」
「いや……うーん。そういうわけじゃないんだけどさ、ほら、俺って可愛いじゃん?」
「そうだね。世界一可愛いね」
「男だからスカート穿くなって理不尽だよなぁと思って」
俺がそう言うと、姉はスマホを出して写真を見せてくれた。そこに写っていたのは女児向けアニメ<魔法王女プリンセスティアラ>シリーズの初代主人公、プリンセスティアラのコスプレをする女性。
その次に見せてくれたのは、小柄な男性。
「これ、同一人物」
「へぇ……って、えぇ!?」
「凄いでしょ。私の友達なんだー。私がメイクしてあげたんだよ」
「すげぇなメイク」
「ねー? 凄いでしょ?」
そう言って姉は、ニコニコしながらメイク道具を取り出した。
「……いや、遠慮しとくわ」
「えー!? 雨音、可愛いけどシンプルな顔してるから絶対メイク映えするよ!?」
「いやぁ……だってさぁ……」
「じゃあはい、口紅だけでも。ね?」
渡された口紅を渋々唇に塗る。唇に色がついただけなのに、鏡に映る自分は別人みたいだった。「やっぱり私の弟は世界一可愛い」と、姉が鏡越しに笑う。
それがきっかけとなり、俺は両親の目を盗んで姉のメイク道具を借りてメイクの練習をするようになった。姉は褒めるだけではなく、的確にアドバイスをくれた。
俺がメイクに慣れてくると姉は「代わりに私の顔作って」と俺にメイクを頼むようになった。
「……姉ちゃんさ、このために俺にメイク勧めただろ」
「なっはっは。いいじゃない。将来彼女が出来た時にやってあげたら喜ばれるよ。自分でやるのって割とめんどくさい時あるし」
「……そうかな。引くと思うけど」
「引かない人と付き合えばいいじゃん」
「簡単に言うなぁ……」
この時は、そんな人に出会える未来なんて全く想像出来なかった。
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