第75話 私争奪戦の結果

 室内は危険ということで庭の今日ジェラルディンさんを捕獲した場所に集まりました。魔法の明かりに周囲は照らされています。




 参加者はディルク、ジェンド、オルド、ポッチ、ネックス。武器はそれぞれの得意武器を使用。ディルクはハンデで模擬戦闘用の槍。




 ちなみにそれぞれの得意武器は以下の通り。


 ジェンド→鈎爪


 オルド→暗器。知ってる限りではナイフ、手裏剣的な奴、円月刀、縄。


 ポッチ→弓


 ネックス→両手斧




 マイペース大王のジェラルディンさんがディルクに争奪戦のルールをどうするか聞いてきた。




「勝ち抜きにするか?」




「いえ、面倒なんで全員で俺を倒せば勝ち。戦意喪失か戦闘不能が負けでいいよね?」




 参加者全員が頷いた。ディルクよ、面倒って…負ける気は全くないようなので黙って見守ります。




「2人で同時にディルクを倒した場合は?」




 オルドがルールをディルクに確認します。




「ありえないけど、その2人で決定戦すれば?」




「わかった」




 ルールは決定した様子です。審判はジェラルディンさん。参加者はディルクを取り囲むような位置をとり、全員が頷いたのを確認してジェラルディンさんが開始の合図をした。




「では、はじめ」




「ルオオオオォン!!」




 ジェンドが合図と同時に獣化して、殺気と雄叫びを発した。気の弱いポッチは怯えて腰を抜かしたらしい。




「ポッチ、失格!」




「ふ、ふえぇ…」




 涙目のポッチはマリーが回収し慰めているので大丈夫だろう。




 予想外の攻撃に一瞬怯んだネックスをディルクは気絶させた。うん。目で追えないぐらい速かったよ?




「ディルクがキレてるわ。珍しいな」




 カーティスもディルクの殺気に冷や汗をかいている。




「いや、今のディルクには勝てる気がしねーわ」




 私もだ。試合の時でさえ、こんな気迫感じたことはない。今のディルクは肉食獣そのもの。人間に太刀打ちできるわけがない。


 ディルクはジェンドの攻撃をいなすだけで仕留めようとはしない。ジェンドも強いが、ディルクには遠く及ばない。力・技量・経験。何もかもディルクに及ばないが、ジェンドは必死にディルクに攻撃をしかける。


 オルドが背後から攻撃するが、ふりかえりもせずに暗器を避け、弾く。ディルクはジェンドしか見ていない。




「…棄権する」




 オルドは降りてそう言った。悔しそうだが嬉しそうでもある。強い相手と戦うの、好きって言ってたもんね。




「悔しいが、今の俺ではどう足掻いても敵わん。力を蓄えて再戦する」




 ディルクの戦い方を見て、私はリンが生きていた頃よく行ったペットショップの店長さんの言葉を思い出していた。




『猫は好きじゃない。あれは残酷な生き物だ。獲物をなぶるからな』




 ディルクは黒豹だが、同じ猫科。怒りのあまりに獣性が活性化しているとは考えられないだろうか。


 そもそも私の争奪戦とかおかしい。私は自分の夫は自分で選ぶ。優勝したって私はディルクしか選ばないのに…腹が立ってきました。




 ディルクはついにボロボロのジェンドにとどめを刺す気になった様子。最後の一撃。その瞬間に、












「ディルクのおバカァァァ!!」










 小気味よい音と共に、私の戦乙女のハリセンがディルクに炸裂した。さすが、最強武器。ハリセンといえどその威力はハンパない。 私はディルクがジェンドに気を取られている隙に闇の幻魔法で姿を消し、ハルの魔法で音と匂いを散らして近寄り、攻撃したのです。私は更に叫びます。




「小さな子供をいじめたらダメ!いじめ、ダメ!絶対!!そもそもこの戦いは無意味です!私は自分の夫は自分で選びます!私の意思を無視する人なんか、私は絶対に選びませんからね!!今のディルクは嫌いです!!」




 争奪戦参加者が全員ションボリとしたところで、キングオブマイペースのジェラルディンさんが高らかに宣言した。




「勝者、ロザリンド!」




 皆様ポカーンである。ま、まぁディルクを戦意喪失させたもんね。












「ジェンド、大丈夫?」




 ジェンドに回復魔法をかけてやる。ジェンドは私を見ずにお母さんにかけより大泣きした。ジェラルディンさんは私の肩に手をやり、真顔で言った。




「幼いとはいえ男として戦ったのに、好きな女に助けられたあげく対象外の子供扱いだったのだ。そっとしておいてくれ」




 あの…ジェンドの泣き声さっきより酷くなってます。ナチュラルに心の傷をえぐってトドメを刺しましたね?ルーミアさんめっちゃ睨んでますよ。叱られてきてください。


 確かに私も酷かったが、あんたの方が酷いわ。




「ロザリンド…俺、頭冷やしてくる」




 ディルクはフラフラしながら歩きだした。




「俺、見とくわ」




 カーティスがディルクを追う。




「お願いします」




 今は私よりカーティスが適任だろう。私も頭を冷やしたい。




 こうしていきなり始まった私争奪戦は、私優勝というわけがわからない結果で幕を閉じたのでした。


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