第74話 新居と肉とお嫁さん
大量の牛さんぽい肉をゲットした私達は我が家に帰還しました。
ダンは腕のふるいがいがあると大喜び。念のためアリサに毒の有無を確認したが大丈夫でした。
というわけで今夜は牛っぽい肉祭です!肉汁したたらせますよ!
我が家の食卓には通常メンバー+ディルク・ジェラルディンさん・自由な風・カーティスが勢揃い。夕飯はダンと協力して頑張りましたよ!
家族に自由な風とジェラルディンさんを紹介しました。自由な風の皆さんもジェラルディンさんも父に緊張しているご様子です。父は眉間にシワを寄せ、何かを思案しているようです。別に不機嫌ではないですと教えるべき?
「…新居を建てるか?」
んん?父よ、それ私と母とアーク辺り以外に多分通じないよ?
「父様はジェラルディンさんとルーミアさんとジェンドの住む新居を敷地内に建てようか、と言ってます」
通訳する私。あ、ルーミアさんがスープ吹いた。ジェラルディンさんはびっくりしてる…のかな?尻尾がぶわっとなってる。
「兄様、これ以上よくしていただく必要はないと何度も申し上げております!」
「…罪滅ぼしが、したい」
「ルーミアさんの結婚で力になれなかったこと、窮状に気がつけなかったからせめてこのぐらいさせてはもらえないか…だそうです。父様、私が説得しますか?」
「…その方が良さそうだな」
「説得って、おかしいです!私は家を捨てて…」
「本当なら、父がどうにかすれば家を捨てる必要はありませんでした。父はルーミアさんとまた会えて、妹に幸せになって欲しいと願っています。私も家族だんらんが出来る家でジェンドが幸せそうにすごすなら、嬉しいです。ダメですか?ルーミア叔母様」
私はルーミアさんに近寄り、しゅんとして首を傾げる。袖を少し引くのがポイントです(女優・ラビーシャ様の指導)
「あ、う…」
「さすがはロザリンド。あざとい」
「俺もたまにあれやられる。勝てる気がしない」
兄、聞こえてるよ。台なしだよ。私なりに頑張ったのに。
ディルク…勝てないのか(笑)まあ、やるのはかまっての時だからね。
カーティスとアークは後でしばく。笑いすぎだから。肉じゃが出さないぞ。
ラビーシャ様とマーサは何を悶えているんですか。私に演技を教えたのはラビーシャ様でしょうが。
「お姉ちゃん、ぼく別のおうちに住むの?」
ジェンドが不安げに聞いてきた。
「違うよ。普段はいつも通りだけど、夜はお父さん、お母さんとのんびりするの。うちの敷地内だから、いつでもこっちに来ていいよ」
「お母さん、どうするの?」
「というか、既に手配してますよね?予定地に大工さん来てました。自由な風さんの拠点までありがとうございます」
「うむ」
「こらああああ!兄様!」
「今日から着工してます。諦めが肝心です。自由な風の皆様、要望を言うなら今ですよ」
彼らも想定外の事態に固まっている。沈黙を破ったのはジェラルディンさんだった。
「その…ローゼンベルク公爵は俺達の結婚に反対ではなかったのか?」
「ルーミアが選んだ。ルーミアが幸せならば問題ない。家族を捨てさせたのは私だ。すまない。窮屈なこの家より、外の世界の方がお前に合っているとも思った。お前はジェラルディン殿を選んで幸せになれたのだろう。ならば、それでいい」
「兄様…」
「だから家ぐらい贈らせろ。数年越しの結婚祝いだ」
「それに、もう先払いしちゃってますから」
「ルーミア、諦めて。こうなるとうちの旦那様は止まらないわよ」
「すいません、叔母様、諦めてください」
父、私、母、兄から告げられ、やっとルーミアさんは折れました。
「ありがとうございます、兄様。心遣い、ありがたく思います」
「うむ」
さて、話がまとまったところで、肉パーティーです。
「わああ、お肉だぁ。おいしい!」
キラキラと目を輝かせるポッチ。幸せそうにお肉を食べています。
はむはむはむはむはむはむ。
マリーは一心不乱に肉を貪っています。今日のお肉は食べ切れないぐらいありますよ?おいしいですか。そうですか。
「…(幸せそう)」
ネックスはお肉と幸せを噛み締めている様子です。
さて、他は…自由な風のメンバーも肉を楽しんでいる様子。原形を理解してても気にならないみたいです。羨ましい。眺めていたらビネさんに話しかけられた。
「…うまいな。姫さんも作ったのか?」
「はい。肉じゃがと肉巻きおにぎりとしぐれ煮ですね」
「初めて食べるけど、とてもおいしいわ」
シュガーさんが笑顔で話しかけてきた。
「お口に合ったようで、よかったです。たくさん食べてくださいね」
「可愛くて料理上手な嫁さんかぁ…」
「しかも幼な妻」
「…浪漫だな」
ソールさん、ミルラさん、ビネさんがそんな話をしている。本人目の前でやめてくれ。しかし私は一言だけ言っておこう。
「幼な妻はやめてくださいね。ディルクはロリコン…幼児性愛者ではありません」
自由な風が全員吹き出して、そういうつもりで言ったんじゃないと全力で弁解してきた。解っているけどそうとも取れるじゃないか。しかも私は多分色々出来上がっているから彼色に染まる的な幼な妻の醍醐味は無きに等しいしなあ。
カーティスとアークが爆笑していた。よく見たらマーサとラビーシャちゃんもプルプルしていた。笑いたければ笑いなさい。
マイダーリンディルクは涙目でした。
ジェラルディンさんは、リスになっていた。いや違う。リスみたくほっぺにご飯を詰め込んでいた。
「ステーキ、おいしいですか?」
「ふがふご(こくこく)」
おいしいんだろう、多分。ルーミアさんはそんな夫を幸せそうに眺めている。ラブラブですな。
「…んぐ。まともな飯は久しぶりだ。それを差し引いてもうまい」
「ちなみにどれくらいぶりですか?」
「……」
首を傾げるジェラルディンさん。あまり物覚えがいい方でないのは今日無理矢理思い出させた件で理解しているが、まさか。
「…夏か、秋ぐらいが最後か?食ってはいたが、面倒だから全部直火で焼いたやつを食ってたな」
※今の季節は冬。
「今日はたくさん食べてくださいね。ルーミアさんも、旦那さんにお野菜をしっかり食べさせてあげてください」
「はい」
周囲がドン引きする中、私とルーミアさんはジェラルディンさんにまともなご飯を与える同盟を多分設立した。
「主、俺は野菜は好かんのだが」
「…あるじ?」
「げ」
首を傾げるルーミアさん。そこは全力でスルーしていただきたかったよ!背後から大魔神・兄の気配が…
「ロザリンド?」
「はい…」
「報告、連絡、相談…いつも言ってるよね」
「喜んで報告させていただきます!」
大魔神・兄が降臨すると、お説教までがワンセットです。
ようやく兄にお許しを得て、自分の席に戻りました。ディルクはおいしそうにご飯を食べています。
「ロザリンド、すごくおいしい」
にっこり私に笑いかけるディルクは安定の可愛さです。
「ディルク、それおかわりいる?」
「うん」
「ディルク、ご飯ほっぺについてるよ」
「う、うん」
「ディルク、これおいしいよ。はい、あーん」
「あ、あーって…だ、ダメ!恥ずかしいから!」
「…だめ?」
途中まで流されていたが我にかえったディルク。ションボリとしてみせる私。
「…ディルクぅ」
ディルクの袖を少し引く。甘えた声でおねだりした。ディルクは私を見て…顔を真っ赤にしたまま小声で返答した。
「こ、今回だけ。でも人前では控えて」
「うん!はい、あーん」
上機嫌でディルクに食べさせる私。控えて、なのはラブラブアピールのために必要な時もあるからだ。余計な虫がお互い来ないように私とディルクはラブラブであることを周囲に見せつけている。私が楽しいうえに、悪い虫対策にもなる。まさに一石二鳥である。
「ディルク、こっちもおいしいよ」
「ロザリンドさん」
「邪魔すんなカーティス。私はディルクにご飯を食べさせたい」
「ロザリンド様、お願いします。独り身が侘しくなるからそろそろやめません?」
「却下」
「お姉ちゃん」
「何?」
「ぼくにもあーん」
ジェンドが大きく口をあけた。か、可愛い。断るはずもなく、私はジェンドに応じた。
「はい、あー…ん?」
右手が動かない…ジェンドにあげる予定のお肉は私の右手を掴んだディルクにぱくりと食べられました。なんかディルクとジェンド、睨み合ってない?
「主はジェンドの嫁になる気はないのか」
「ありませんね」
私の未来はディルクのお嫁さんである。そこはぶれない。
「お姉ちゃん、ぼくお姉ちゃんにお嫁さんになってほしいな。そしたらずっと一緒でしょ?だめ?」
可愛く首を傾げるジェンドに怯む。否定するのも大人気ない気がした。迷っている間に更なる爆弾が投下された。
「ぼくも!ぼくもお姉ちゃんがお嫁さんに欲しい」
ポッチさん、お姉ちゃんは物じゃないよ?
「では俺も」
ついでみたく言うな、オルド。
「…おれも」
ネックスよ、君もか…え?
「ネックスが喋った!?お姉ちゃんネックスの声、初めて聞いたよ!?」
「そう…だっけ?」
別に喋れないわけではないのは知っていたが、覚えている限りでは初めてだ。
「駄目」
いつの間にか腰に手があり、私はディルクのお膝の上にいた。
「ロザリンドは俺の。俺のお嫁さんになるから」
ディルクは不安げに私を覗きこむ。同意して、と言われた気がした。私を拘束する腕は、微かに震えて私に不安を教えてくれた。
「うん。私はディルクのもの…ディルクだけのものだよ」
彼と目線を合わせて微笑んだ。
「言葉で足りなければ、行動でも示しますが?」
「う…ん?そ、それは二人きりの時で!い、今はいい!」
ふはは、意味に気がついたらしいディルクはあわてふためく。ほっぺにチュッとキスをして、ジェンド達に謝罪した。
「お姉ちゃんはディルクのお嫁さんだから、他の人のお嫁さんにはなれないの。ごめんね」
私は大人気ないと言われようと(いや、身体は子供だけど)自分の伴侶の安心を選びます!
「でも、ディルクとお姉ちゃんはまだこんやくしゃでしょ?こんやくって、はきもあるんだよね。お嫁さんでも、りこんがあるよね」
あるよ。ありますよ。でも誰だ、ジェンドにそんな知識を仕込んだ輩は。ラビーシャちゃんか。後でお話があります。
珍しく動揺をあらわにしたラビーシャちゃんに目線で合図した。できるメイド見習いは目線で察して耳をしゅんと垂れさせたが、許さん。
「あるけど、お姉ちゃんはディルクとしか結婚しない!離婚もしない!ディルクがおじいちゃんになって、死ぬまで一緒に居ます!」
「…ロザリンド」
ディルクは私に柔らかく微笑んだ。その瞳には何か決意の色が見えた。
「ロザリンドは誰にもやらない。幼くても獣人の男なら、俺のつがいが欲しいなら力を示せ。この中で1番彼女に相応しいのは俺だ」
ディルクが笑った。見たことない、獰猛な笑みだった。あの…超怒ってませんか?
「ふむ、ならば俺が立ち会おう」
あくまでもマイペースなジェラルディンさん。もはやそのマイペースさが羨ましい。
「えーと…」
私がむしろこの展開についていけてない。ルーミアさんいわく魅力的な女性の取り合いは獣人の中ではよくある事。いい女の証明だから気にしない、と言われました。無茶言うな。こうして、私があわあわしている間に私の争奪戦が開催されることになってしまいました。
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