第72話 まずは装備を整えよう
依頼について具体的にお話することにしました。互いの情報交換も兼ねています。できたらジェンドは居ないほうがいいと思うのですが…
「お姉ちゃん、ぼくきくけんりがあると思うんだ」
意思が固い模様。しかたありませんね。
「報酬は当面私がお支払いします」
「待って!この耳飾りだけで一生遊んで暮らせるのよ!?受け取れないわ!」
価値が解っているシュガーさん。もらいすぎは良くない!と首を振っています。
「それは備品ですから、売られては困りますね」
「売らないし売れないわよ!」
「価値があろうと換金できなきゃ意味ないですよね。では、報酬ではなくレンタルにしますか?報酬は別支払いで」
「レンタルでお願いします。こんな物受け取れない!しかも全員分なんて!」
「……」←誕生日プレゼントでこんな物を受け取った。
「あ、ディルクも肌身離さず身につけといて」
「解った」
ディルクはあっさり受け取った。驚愕するシュガーさん。
「ディルク!今までの会話聞いてたの!?」
「聞いてたけど、ロザリンドから身を守るためのモノは受け取るように言われているんだ」
ディルクは耳飾りをつけた。ディルクのは私とお揃いで、自由な風とジェラルディンさんのはちょっとデザインが違うのです。ちょっとした乙女心ですね。
「…お揃いか」
ビネさんは気がついたらしい。笑いかけて次の話題に移る。
「では、レンタルで装備もお出しします」
私は鞄から大量の装備品を並べた。
「まず、武器ですが冒険者殺しの骨から作られた弓、クリスタルドラゴンの牙から作成した剣や槍各種、他素材も多数ありますので好みの物をどうぞ。防具は冒険者殺しの皮から作成したマントやクリスタルの鱗で作成された鎧もあります。フリーサイズだから皆さん使用できるはずです。こちらも使いやすいものを好きにお選びください。魔法剣なんかは希望があれば私も紋を刻めますので申し出てください」
自由な風がポカーンとしている。ジェラルディンさんはマイペースに武器をチェックし、大剣を手に取った。
「いい武器だな」
「お目が高いです。それは私が作成した魔法剣ですよ。普段は指輪になるんで持ち運びも楽。ちなみに材質はオリハルコンですから、魔法も切れますよ」
「…待ってくれ」
ビネさんが頭が痛いと言わんばかりだ。
「姫さんはこれを全部レンタルする気か?正気か?俺達が持ち逃げしたらどうするつもりだ?」
価値が解る男・ビネさんが自由な風を代表して私に話しかける。他メンバーも頷いてるから、自由な風の総意ってことかな?私は首を傾げた。
「持ち逃げするんですか?」
「しないが、こんな高価な品を持てば魔がさすこともあるかもしれん」
「私は最初に言ったはずです。信頼ができると。ビネさんは信頼した相手が持ち逃げするのを心配しますか?」
「…しない。済まない皆。勝てる気がしない」
ビネさんは諦めたらしく、さっさと装備を探し始めた。
「信頼されてんじゃしょーがねーよな」
ソールさんも装備を探し始める。
「人を見る目には自信ありますから。何より、マーサとアークにも認められた人材ですからね」
「そこまで言われちゃね…」
「しかたない」
シュガーさんとミルラさんも諦めたらしい。たまに価値が解るシュガーさんが奇声を発するのが気になるが…まあ気にしない。
「ディルクは武器はこれ。防具はこれね」
私はディルクに指輪とクリスタルドラゴン装備を渡した。
「指輪?」
「賢者のじい様に教わって私が作りました。ディルクは魔力が少ないから、変形は槍と双剣だけ。オリハルコンで出来てます」
ディルクは試しに槍に変えて振っていた。
「使いやすい」
「愛が篭ってますし、ディルクが普段使ってる武器を参考にしたり、ディルク御用達の武器屋の店主さんに土下座して作成のコツをきいたり…」
「何してるの!?こないだ武器のメンテナンスに行ったら愛されてんなって言われたのはそれが理由!?」
「あー、うん。多分」
「この武器はありがたく貰います。大事に使うよ」
「うん。武器は使ってこそだからね。役に立てば私も嬉しい。防具なんだけど、マントは冒険者殺しの皮なんで物理・魔法ダメージ軽減効果があります。クリスタルドラゴンの軽鎧も同様です」
「やたらクリスタルドラゴン装備があるのはなんで?」
「耳飾りの素材取りに行ったのよ。クリスタルドラゴンの里に」
「…は?」
「森の賢者の耳飾り、素材が足りなくてさ。じゃあ私がとってくるってなって、コウがクリスタルドラゴンがたくさんいるとこ知ってるって言うから、行ったら本当にたくさんいました」
「だ、大丈夫だったの?」
「平和的に話し合いで解決しました。おやつや果物と引き換えに分けていただきましたよ。ドラゴンは甘味や果物が好きですから。彼らからしたら抜けた牙や角や皮(鱗)は不要だそうで、大量に在庫があります」
「姫さん、普通ドラゴンと話し合いはできない」
「私の場合コウが居ますからね。手土産持参で行けばドラゴンといえども無下にはできませんし、ドラゴンて寿命長い分暇らしくて、普通にお茶して帰りましたよ?」
「規格外な上に非常識か」
「…別に平和に話し合いで解決できるなら、いいじゃないですか。エルフの長様にも似たような反応されましたが」
傷のない素材(クリスタルドラゴンの角)を見て、聞かれたので素直に答えたら遠い目をされましたよ。ロザリンドちゃんは怖いもの知らずじゃのぉ…とつぶやいたお祖父様…元気かしら。
ぼんやりしているとマイペースなジェラルディンさんに聞かれました。
「主、ドラゴンの鱗より動きやすい素材の防具はあるか?」
「これはどうです?冒険者殺しの外皮をなめした鎧です」
「…ふむ。これにしよう」
お気に召したようですな。ジェンドが私の裾をひいた。
「ぼくも欲しい。だめ?お姉ちゃん」
「装備自体はあげてもいいけど、ジェンドはまだ7歳になってないからジェラルディンさん達との参加は無理。足手まといです。ジェンドは今、たくさん学んで力を蓄えなさい。自分で自分の願いを叶えられるように、強くなって。いつか大事な物を守れるようになりなさい」
「うん。お姉ちゃんみたいに強くなる!」
「お姉ちゃんはわりと弱点多いし、強いかなぁ…」
「弱点?」
「兄様とか…頭脳戦でアルフィージ様に勝てる気がしないし、物理のみだとディルクに負け越してるし」
「てきざいてきしょだからいいんじゃない?お姉ちゃんのつよみはみかたがおおいことだよ。ぼくもお姉ちゃんをたすけるからね」
ジェンドは本当に賢いお子さんです。今からこれだと、大人になったらどうなるのかしら。
私がジェンドと話している間にジェラルディンさんは鞄から何かを取り出した。この気配…!
「あ、アリサ!アリサぁぁ!!」
濃厚な呪いの気配にアリサを呼ぶ。アリサはすぐに浄化して呪いを弱体化させた。
「はぁ…ママ、こんなにどうしたの?だれか呪うの?」
「呪いません!」
アリサは私をなんだと思っているのか。しかし、山ほどあるな。
「ジェラルディンさん、これは…」
「ジェラルディンかジェディでいい。今まで解決してきたモノだな。放置したらまた問題を起こしそうな気がしたので持ち歩いていた」
「…よくこんなモン持ってて大丈夫でしたね」
普通呪いに取り込まれますよ?
「銀狼族は呪いがほぼ効かない体質だからかもしれん」
「なるほど。傾向と対策のために、どこでいつ何の事件を解決したか教えてもらえますか?」
ジェラルディンさんは目を逸らした。
「ジェラルディン。まさか…」
「…覚えてない」
「この脳筋がぁぁ!品物はあるんだから思いだせぇぇ!!」
結局、1時間かけてなんとか半分以上は思い出させました。
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