第71話 ジェンドと英雄と自由な風
私が庭で読書をしていると、ルーミアさんが巻き貝的な魔具を渡してきました。
「レオニードから聞いたわ。ロザリンドちゃんは私の夫を捜しているのよね?」
「はい」
「それを使ってちょうだい。何かあったら使うようにと夫がくれたモノなの」
「いいんですか?」
「いいの。結局使えなかったから」
「ありがとうございます」
ルーミアさんがくれた巻き貝的な魔具は、使い捨てアイテムで任意の相手を強制的に呼び出すアイテムである。名前は召喚の巻き貝。まんまだが、レアアイテムだ。なんとなく運営のやる気のなさがうかがえる。
さてさて、ジェンド父召喚の前にやることが山盛りテンコ盛りですよ!私は素早く手配しました。
私が手配を全て完了したのは翌日。
「準備はいい?」
「大丈夫」
「OK」
「…本当にやるのか?」
ちなみに、ディルク、カーティス、自由な風のビネさんの発言。
「殺ります」
「まてまてまて!明らかに字がおかしい気配がした!」
勘のいいミルラさん。私はにっこり微笑んだ。
「私を怒らせたから間違ってません」
「お、おう。しかし英雄は何をやらかしたんだ…」
「本人に怒りごと理由を叩きつけるつもりです」
「…承知した。いつでもいい」
ビネさんが諦めたのかそう言った。
ジェンドの父は本名をジェラルディン=ウルファネアという。彼は唯一のSSSランク保持者であり、魔物の大発生があった際に国を問わず魔物を殲滅し多くの国を救った英雄と言われている。
「いきますよー」
召喚の巻き貝を発動させる。ちなみに配置だが、
正面→私
右→ディルク
左→カーティス
後ろ→自由な風
となっている。
光がおさまると、美しい銀髪と立派な尻尾を持ち、素晴らしい筋肉をしたおじ様が現れた。
「総員、かかれ!」
「ぬ!」
奇襲をかけたが簡単に弾かれた。さすが、英雄!一撃受けただけで両手が痺れている。
「ご挨拶だな。ルーミアはどうした」
油断なく警戒する英雄。ディルクとカーティス、更にビネさんまであしらうとはさすがの一言だ。
私が魔法を発動する。英雄は何かを察知し、多分この中では弱いビネさんの方へ回避し…私の罠にかかった。
「ぬあっ!?」
ちなみに英雄…ジェラルディンさんは超直感持ちだ。今回その弱点を突かせてもらった。超直感の弱点は、天啓保持者の癖にある。無意識に超直感に頼りがちなため、最善を選択してしまうのだ。
今回の場合、私は魔法を同時展開した。背後のみ落とし穴だけで、他はかなりえぐい罠を用意。彼は必ず1番ダメージが少ない背後に動く。そこさえ理解していれば捕捉はたやすい。あらかじめ用意していた麻痺アイテムで麻痺させた。異常無効系装備あるかなーと思ったので警戒したが無いようだ。麻痺させて武器をとりあげ、縄抜けできない縛り方で縛り上げた。親指の付け根と手首を縛りました。親指の付け根は抜けられないんですよ。
「変わったやり方だね」
「こうすると抜けないんですよ」
「ぐっ、貴様ら何者だ!ルーミアはどうした」
とりあえず、胸倉をつかみ一撃お見舞いした。私自身かなり鍛えているだけあって、ジェラルディンさんも痛そうですな。平然と倒れたジェラルディンを足蹴にする。
私はルーミアさんが今までどれっだけ苦労してきたか。ジェンドがどれっっだけ酷い目にあわされたかを詳細に語った。
青ざめるジェラルディンさん。
「申し遅れましたわ。私はロザリンド=ローゼンベルクと申します。はじめまして、義叔父様。2人が苦労しまくったのは、貴方が帰らないせいも多々あったと思うんですが」
ジェラルディンさんは青ざめて固まっていた。
「元貴族のお嬢様が一人、よく生きていたと思いますよ。仕送りすらなく、死ねと言ってるようなものだと思いませんか?」
「な、何かあった時のためにアイテムを…」
「彼女は使わず頑張ってしまう女性だから、今まで使用されなかったんですよね」
「…ルーミアとジェンドは…」
「お姉ちゃん、遊ぼ…おじちゃんだあれ?」
おうふ、ジェンドが来てしまいました。
「…ジェンド?」
「ぼくをしってるの?」
「…ジェンドとお母さんに無駄に苦労をさせたジェンドの馬鹿親父です」
「悪意しか感じねぇ紹介だな!」
カーティスが的確なツッコミをする。
「おとーさん?なんでおとーさんはお姉ちゃんに踏まれているの?」
「それはね。お父さんがいればジェンドは酷い目に合わなかった。だからお仕置きしてるの」
「でもぼく、悪いおじちゃんが捨てなかったらお姉ちゃんに会えなかったかもしれない。ぼく、お姉ちゃんといるのがいい」
「ジェンド…」
ジェンドの言葉に感動した私にKYK(空気読めるけど気にしない)なカーティスが呟いた。
「…シーンは感動的なのに、足蹴にした親父が全てを台なしにしてるな」
「ああ…うん」
ジェラルディンさんの敵意は消え失せており、気を抜いている様子のカーティスとディルクを横目で睨みつつ、私は本題に入った。
「貴方は私の部下として働いていただきます」
「は?」
「逆らえばどうなると思います?」
「妻と息子を人質にするつもりか!?」
ジェラルディンさんの殺気が膨れ上がる。さすがは英雄。殺気だけなのに肌が痛い。
「お姉ちゃん、わるものぶるのやめなよ。えっと、おとーさん?お姉ちゃんは優しいよ。ぼくをいじめるやつはやっつけてくれたよ。お母さんが、おとーさんは頑張ってるから帰らないんだって言ってたよ。だから、きちんとお姉ちゃんとおはなしして?たぶん、おとーさんが帰れなかったりゆうとお姉ちゃんがおとーさんにさせたいことは同じだと思うよ?」
さすが、超直感。あっという間に私とジェラルディンさんを鎮静化させてしまった。
「…この場で話すことではありませんわね。場所を変えましょう」
ちなみにここは我が家の庭である。魔術訓練なんかをする広場なので、広さがあり、何もない。私はユグドラシルさんの所に転移した。
「ジェンド、皆にしばらくここに入れないことを伝えて」
「いいけど、ぼくがいないとお姉ちゃんとおとーさんまたケンカするよね?ぼくいたほうがいいんじゃない?」
ジェンドは拙い喋りとは反対に聡い。仕方ない。
「カーティス、子供達に伝言しといて」
「えー、俺は?」
「後で教えるわ。どうせ半分ぐらいしか聞かないくせに。伝えたら、お菓子でも食べて待ってなさい」
「ん、了解」
カーティスの姿が見えなくなるのを見届け、私はユグドラシルさんに呼びかけた。
「ユグドラシルさん、この周囲に封鎖と防音結界をお願いします」
ユグドラシルは私の声に呼応して柔らかい光を降らせる。
「…あの、見たことある木な気がするんだけど」
シュガーさんが呆然とユグドラシルさんを見上げる。
「長様がくれました」
シュガーさんは納得したご様子です。私はジェラルディンさんに向き合います。
「さて、ジェラルディンさん。貴方はクリスティアとウルファネアの戦争を止めようとしていますね」
「何故」
「貴方の身内が仕組んでいる。それを止めたいから」
「…お前は何者だ」
「私は公爵令嬢、ロザリンド=ローゼンベルクです。未来予測の天啓がありますの」
「未来予測…珍しい天啓だな。それを信じろ、と?」
「貴方はこのままならば死ぬでしょう。私が介入しなかったら、貴方の家族がどうなったか教えますか?ルーミアさんは働きすぎてジェンドが9歳で病死。ジェンドは娼館に引き取られ、我が家の養子になるけれど私に父の浮気相手の子供と勘違いされたあげく虐められ、最後に私を殺すのです」
「…は?」
「ぼ、ぼくお姉ちゃんをころしたりしないよ!」
「あくまでも、私が何もしなかったら、ですよ。今のジェンドは私を殺さない。私もジェンドをいじめたりしない。ジェラルディンさん、貴方は強い。でも超直感は万能ではない。今の貴方のように、罠にかかれば死ぬ可能性はある」
ジェンドは納得したのか、話を聞く姿勢になった。ジェラルディンさんは私を見定めるかのように見つめる。
「…お前の望みは」
「戦争を起こさせないこと」
「俺があんたの言うことを聞くと?」
「対価として、貴方の家族の生活は私が責任を持ちます。ジェンドの学費も私が負担する予定ですし」
「は?」
「私、冒険者としてかなり稼いでますから、ジェンドとルーミアさんぐらい余裕で養えます」
「何故赤の他人のあんたが」
「私はルーミアさんの姪でジェンドの従兄弟ですが」
「……ローゼンベルク!?貴様、ルーミアを政略の道具に「するか阿呆!!」
思わず戦乙女の指輪をハリセンにしてフルスイングしてしまった。小気味よい音と共に、戦乙女のハリセンは流石の威力でジェラルディンさんを吹っ飛ばした。
「あ」
やらかしたと固まる私。ジェンドは気にせずジェラルディンさんに近寄った。
「今のはおとーさんがわるいよ。お姉ちゃんはローゼンベルクにはもどらないってお母さんが言ったから、おしごととおきゅうりょうくれてるんだよ?お姉ちゃんはおんじんだってお母さん言ってたよ。お姉ちゃんが怒るのもしかたないよ。お母さんも今のきいたらたぶんそーとー怒るよ?お母さんはおとーさんをしんじてるのに、おとーさんはしんじてないの?」
「い、いやあの…すいません、やり過ぎました」
ズタボロな挙げ句息子にダメ出しされて尻尾も耳もシュンとしたジェラルディンさんに謝罪する。
「お姉ちゃんも!ぼくらがたいへんだったことを怒ってくれるのはうれしいけど、ぼくらはおとーさんに怒ってないよ。でも、そうだな。おとーさん、お姉ちゃんをたすけてあげて。おねがい」
「ジェンド…」
「お姉ちゃんはいのちのおんじんなんだよ」
それからジェンドは私について語った。私が優しかったことや、ジェンドから見た私について。
解釈が善意的すぎるため訂正しようとしたら、ディルクに止められた。
「ジェンドはお父さんを説得しようとしてるんだよ。ジェンドに任せよう。それに、ロザリンドはやたら悪ぶる所があるけど、大体間違ってないと思うよ?」
途中からあまりにも恥ずかしいので聞かないことにした。
「お姉ちゃん、おとーさんがおはなしあるって」
この短時間で何があったのか。ジェラルディンさんは泣いていました。
「息子を…妻を助けてくれてあじがどう゛」
涙と鼻水まみれの義叔父様に言われました。ジェンドさんや、ナニを話したらこうなるんだい?
「俺は聞いてたけど、大体事実だったよ。むしろかなりジェンドが元公爵の事を把握してたのに驚いた」
ディルクが言うならそうなのだろう。
「ぼくうそついてないよ。お姉ちゃんだいすきだもん。ぼくはお姉ちゃんのみかただよ」
「ジェンド…!」
可愛い従兄弟をギュウッと抱きしめる。ジェンドの毛並みは毎日のブラッシングと栄養状態の改善によりふわっふわのもっふもふである。
スリスリすると嬉しそうに目を細める。可愛いなぁ…
「…縄を解いてくれないか、ロザリンド嬢。逃げないし危害を加えない。約束しよう」
「かまいませんよ」
パチンと指を鳴らし、縄を魔法で切る。ついでに麻痺も治した。
ジェンドを抱っこした私の側に来ると、騎士の礼をとった。ひざまずくこの礼の意味は忠誠。
「汝を我が主としたい。ロザリンド嬢、どうか許しを」
「…はい?」
なんでそうなった?ジェンドは本当に何を話したの?
「貴女の望みは俺を部下とすることだっただろう?何が不満だ?」
「いや、これ一時的な契約じゃなくて、主従契約ですよね」
「そうだな」
「うん。一時的にするつもりは…「ないな。俺はあんたを主と定めた」
涙目でディルクにヘルプを求める。ディルクは苦笑した。
「銀狼は上下がしっかりしてるから、拒否しても無駄だと思うよ」
「諦めろ。俺は認めるまで諦めない。しつこいぞ」
いばって言うことか!私に選択肢はないようです。
「許す」
「主!よろしくな!で、俺はなにをしたらいい?」
私は鞄からアイテムを取り出した。シュガーさんはそれが何かに気がついたらしい。
「そ、それ…」
エルフの長様手作りの全異常無効アクセサリーである。それも6人分。
「これを貴方に。これは毒・麻痺・混乱・呪いなど、異常を全て無効化する魔法具です。肌身離さず身につけなさい」
「承知した」
「自由な風さん達にもどうぞ」
「はぁ!?う、受け取ったらダメよ!あんなの一生かかっても手に入らないぐらい高価なのよ!」
正しく価値を理解しているシュガーさんは拒否の姿勢である。
「残念ですが、貴方がたに選択肢はありません。自由な風に無期限特殊任務を指名依頼します。戦争が起きる可能性の話を聞いて、無関係に帰れるとお思いですか?」
「は?」
「へ?」
「だよなぁ」
「はめられたか…」
キョトンとするミルラさんとシュガーさん。なんとなく野生の勘で理解してたらしいソールさん。苦虫を噛み潰した表情のビネさん。
「申し訳ありません。報酬は国からむしり取…出していただけるよう尽力します。無理でしたら、私がお支払いします」
「今むしり取るって言おうとしたよな」
「恐ろしいお嬢さんだ」
「聞こえてますよー」
悪口は居ないとこでしてください。私に懐いているユグドラシルさんが…ユグドラシルさん、いいぞもっとやれ…ではなく。
「ユグドラシルさん、そのぐらいで」
ユグドラシルさんに逆さ吊りにされたソールさんとミルラさんが解放されました。
「依頼内容は?」
「ウルファネアの工作員の妨害と破壊工作の対応が主です。ジェラルディンさんとパーティーを組んでの対応になります」
「ふむ。何故我々なんだ?」
「私も多数高ランクパーティーを見てきましたが、自由な風は獣人に偏見がなく、総合力に優れています。そしてなにより信頼がおけるからが理由です」
「どうする、リーダー」
ビネさんはにやりと笑った。
「ここまで言われたらしかたねぇよな。Sランクパーティー、自由な風!その依頼、受けた!」
「ありがとうございます。ジェラルディンさんもいいですよね」
「問題ない」
こうして私は未来を変えるための更なる一歩をふみだしたのでした。
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