第55話 ジェンドと獣人と隠された情報

 仕事が一段落したので私が紅茶と茶菓子を用意してティータイムです。




「…なんか、このお茶飲むとここに来てよかったと思います」




「…ああ、自分で淹れてもこうはなりません」




 うっとりしている秘書官2人。




「お嬢様、俺より上手いもんなー」




「うむ。アークは雑だ」




「ひどっ!」




 私はクスクス笑いつつお菓子の準備中です。




「今日は新作!スフレですよー」




 ジェンドが…尻尾が取れそうなぐらい振ってますな。




「ジェンド、今1個あげるけどディルク達とも食べるから残りは後でよ?」




「あい!」




 スフレは宰相執務室に大好評でした。




「あ、あー」




「お姉ちゃん、おいしいだって…本当においしい」




 コウもスフレをはむはむしてます。可愛い。




「ふわっふわ!」




「うまい…」






 幸せそうな大人達に満足して、騎士団に差し入れに行くことにしました。私の鞄は特別製なので出来立て温かいのを食べさせてあげられます。






「ディルク!」




 訓練の休憩時間は把握済みです。ディルクに手を振ると、汗を拭いていたディルクが寄ってきました。


 はわ…汗が滴ってなんか髪も湿っててセクシーですな…




「あ、ごめん。あ、汗くさいよね!近寄らないから!」




「いや、むしろご馳走様です。臭くないです。いいにおいです」




 わざと解るようにひっついて匂いを嗅いだ。なんでか臭くないよね。そもそもディルクは獣臭はしない。




「や、やめて!嗅がないで!」




「お気になさらず、差し入れですよ」




「気にするよ!あ、ありがとう」




 差し出したバスケットを受け取るディルク。




「わー、何?中身何?」




 どこからか沸いて来たカーティス。ディルクのバスケットを覗き込みます。




「スフレですが、カーティスにはあげない。試合、試したいことがあったのに棄権するんだもん!ボッコボコにしてやろうと思ったのに!」




「実験台!?こ、こないだディルクが酔っ払った時のでチャラにならない?」




「…仕方ありませんね」




 許可するとスフレを手に取り食べるカーティス。




「…手ぐらい洗ったらどうですか?」




「大丈夫!ロザリンドがおやつ持って来る気がしたから洗ってきた!」




 便利だね、超直感。天啓の無駄遣いな気がして半ば呆れてカーティスを見る。




「あ?あー」




「食べていい?食べていい?だって。ぼくも食べたい!」




 コウは私の精霊になってから人間の言葉を勉強して喋れるようになりました。私はドラゴンの言葉も人間の言葉も同じにしか聞こえないのですが、コウは他人とコミュニケーションを取れるようになりました。


 そして、そのコミュ力の高さは素晴らしい。




「おいしいね」




「あい!」




 ジェンドともすっかり仲良しである。




 獣人部隊も休憩時間らしく、レオニードさんが寄ってきた。さりげなくディルクが私の前に出る。




「うまそうな匂いだな」




「あ、良ければどうぞ。たくさんありますから」




 あ、多分余計なこと言った。後ろの他の獣人さんが…




「…どうぞ」




 無言の食べたいオーラが見えたらしいディルクがバスケットを差し出した。大丈夫!ディルクの分は私が確保してますよ!




「うんめー!」




「なんだこれ!食ったことねぇぞ!!」




 概ね好評なようです。あ、ディルクのお耳がへたってる。ディルクは優しいよね。自分の分まであげちゃう人だもんなぁ。




「ディルク、今日のお菓子は新作でした」




「え」




 ショックを受けるディルク。あー、涙目…そんなにか。




「というわけで、あーん」




 鞄から出した自分の分を半分に割り、ディルクに差し出した。あれ?固まってる。




「食べて?あーん」




「あ、あーん」




 素直に屈んで口を開けるディルク。唇が少し指先に触れた。




「おいしい?」




「味がわからない…」




 さっきはあれだけ強気だったのに、今はいつものディルクです。真っ赤でお耳がぴるぴるしている安定のマイエンジェルです。




「では、もう一回。はい、あーん」




 もう半分のスフレも差し出す。




「まだやるの!?」




 ディルクはあと2回食べてからようやく、おいしいですと言えたのでした。


 あ、私もやってもらいましたが、いちゃつくのは2人きりでにしてくれと彼女がいない騎士さん達に懇願されました。




「いやー、お嬢さん、うまい差し入れありがとうなー。あれ、ジェンド?」




 多分狐な獣人さんが気さくに話しかけてきました。ジェンドと知り合いなのか、ジェンドもにっこり笑ってじゃれつきます。




「よかったな、お前。ワルーゼんとこから引き取られたのか?」




 ジェンドを抱き上げ、高い高いをする多分狐獣人さん。ちょ!高い!高い高いがハンパなく高過ぎる!しかしジェンドは普通に喜んでいる。獣人凄い。そりゃ、こんな高い高いが平気なら、3階飛び降りるのも余裕ですよね。私は多分狐獣人さんに話しかけた。




「あの、ジェンドと知り合いなんですか?」




「え、あー、うん。お嬢さんはジェンドとどういう関係?」




「従姉弟です」




「は?」




「ジェンドの母が父の妹です」




「え?だから探してたの?」




「…ディルク」




 私の意図を察して素早く相手を拘束するディルク。さすがの、無駄ない動きでした。




「そのお話、ぜひとも詳しくお聞きしたいですわ」




 私はにっこり笑ってみせた。なんか相手が…いやディルクもビビっている。




「ロザリンド、怖い怖い、目が怖い!ジェンドも怖がってるから!!」




 ディルクに泣かれました。確かにジェンドも私の怒りがわかったのか怯えてた。ごめんなさい。














 聖獣様をハルに呼んでもらい、ジェンドは聖獣様とカーティスに預けました。さて、私とディルク、多分狐獣人さん、何故かレオニードさんが騎士団の一室を借りて座っています。もちろん防音結界使用済み。




「何故、レオニードさんも同席なさいますの?」




「…あんたが殺気立っていたからだ」




 ふむ?でも多分違うよねー。




「レオニードさんもジェンドを知ってましたよね。私が探している事も含めて。そして、私達から隠した」




 レオニードさんはさすがに表情を変えないが、多分狐獣人さんは違う。わかりやすいなー。




「何故ですか?」




「…何がだ」




「私達から隠したことです」




 レオニードさんはため息をついた。




「あんたに問う。あんたはジェンドを傷つけないって誓うか」




「私はあの子を守ると約束しました。私の庇護下にあるなら、守ります」




「了解。理由は何か犯罪にでも巻き込まれたか、殺されると思ったからだ」




「は?」




 想定外の理由に間抜けな声が出た。ナニソレ。




「公爵様が獣人と子供を探すなんざ、愛人の子供を始末するか、何か盗んだかだ。しかも執拗に探していた。まさか従姉弟探してましたなんてオチだったなんて、誰も思わねぇよ」




「は、はは…あ、他の探し人も妨害してました?」




「いや、片方は知らん。もう片方は…知っているが神出鬼没なんでな。こっちもジェンド達の惨状を伝えたかったんだが…捕まらない」




「ふむ、しかしよく3年も隠しましたね」




「獣人は情が深い。仲間を売らない。呼びかければ、皆口を閉ざす」




「なるほど。ではワルーゼさんは仲間ですか?」




「あれは外道だ。仲間を食い物にする奴は仲間ではない」




「では、私の捜索を妨害したお詫びに、お願いを聞いていただけますか?」




「モノによる」




「大丈夫。難しいことでも、貴方の立場が悪くなることでもありませんから」




 慎重な方は嫌いじゃないですよ。私はにんまりと悪い笑顔を浮かべた。




 レオニードさんは結局私の提案を了承しました。多分狐獣人さんは実はコヨーテの獣人さんでした。名前はヨーディルさん。彼もワルーゼさんの所業は目に余るらしく、参加を決意。これから忙しくなりそうです。


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