第46話 ユグドラシルと呪いと本気の結果

 さて、いつまでもこうしてはいられない。私は乱れた髪を整え、簡単に結った。




「じゃ、エルフの村に戻るね」




「あ、あの、ロザリンド、俺今日非番なんだ」




「ああ、じゃあディルクも来る?迎えに行くよ。準備出来たら呼んで。さすがに騎士の制服じゃ連れていけないし」




「うん」




 笑いあい、私は転移の魔法を起動した。




















 一瞬で風景が切り替わる。




「おかえり」




「お姉ちゃんおかえり」




「ディルク大丈夫だったか?」




 私の精霊さんたちが私の部屋に集合してました。




「ディルクが酔っ払って手がつけられなくなって、困ったカーティスに呼び出されまして。特に問題ありませんでした」




「「「……」」」




 私の精霊さんたちが全員微妙な表情です。皆を代表してスイ(毒舌)が言いました。




「それ、男としてどうなの。ロザリンド、ディルクが相手で本当にいいの?」




「はい」




 即答ですよ。皆、何故仕方ないなぁ的な反応ですか。なんだか私の精霊さん達のディルクに対する好感度が下がった気配です。


 微妙な空気の中、ノックの音がしました。




「姫様、起きてる?」




「はい、おはようございます」




 シュガーさんは朝食が出来たと迎えに来てくれたそうです。自由な風の皆様はすでに揃っていました。朝食をとりつつ今日は私の婚約者も同行することを伝えた。




「えー、どんな人なの?貴族って大変よね、こんな小さいのに婚約者とか」




 シュガーさんに悪意が無いのは解るが、人によっては怒るのではないだろうか。私は気にしないからいいけど。




「えーと、今17歳で騎士してます。かっこよくて、可愛くて…可愛いです」




「何故可愛いが2回なんだ」




「大事なことなので2回言いました」




 真顔で言ったら微妙な顔をビネさんにされました。そんな話をしていたら、通信魔具が反応したのでディルクを連れて来ました。




「あれ?」




「ディルク?」




「お知り合いですか?」




 どうやら自由な風メンバーとは普通に知り合いなご様子。


 ディルクは簡単に旅装をしたようで、普段よりラフで動きやすそうな格好をしています。




 とりあえず、双方に事情を説明しました。




「はー、ディルクの嫁かぁ」




「いや、婚約者です」




「…大丈夫かディルク。お前に対し姫さんは可愛いを連呼していたが」




 ぎしりと固まるディルク。ビネさんや、そこは言わなくてよかったよ




「ロザリンド?」




「しかたありません!ディルクは最高に可愛いんです!なんなら昨日の話を具体的に…「わぁぁぁぁ!解った!言わないで!言わないでください!!お願いします!!」




 慌てて私の口を塞ぐディルク。うん、安定の可愛さである。身体は少年から青年に成長しているが、ぴるぴるお耳と尻尾がまたぷりちー。


 さりげなく私の口を塞ぐために近くに来たお耳をモフると恥じらいつつも私の手に擦り寄る。なんですか?デレですね?ご馳走さまです。遠慮なく撫でますよ。




「お前本当にディルクか?」




「…頭は大丈夫か?」




「これ本当にディルクか?」




「ディルク、大丈夫なの?」




 ちなみに上から順にソールさん、ビネさん、ミルラさん、シュガーさんからのコメント。


 以前お義父様の所でも思ったけど、ディルクって私が居ないと態度が違う?




「本当に俺ですよ!ロザリンドが居ると、感情が出やすいんです!」




「つーまーりー、姫様に気を許しているってことね」




 素敵ね、と楽しそうなコイバナ大好きシュガーさん。ディルクは困惑した表情をしている。そうなら嬉しいな。




「そう…ですね」




 いつもの口に手をやり照れるしぐさ。嬉しくてニヤニヤしてしまいました。




「楽しそうなところすまんが、ロザリンドちゃんや」




「はい、お祖父様」




 いつの間にかエルフの長様は私をロザリンドちゃん呼び。私も長様をお祖父様呼び。仲良しになりました。




「頼まれてくれんかの?」




「はい、特に予定もないですし、かまいませんよ」




 虫取りでも草むしりでもなんでもやりますよ?兄とトムじいさんをよく手伝うので得意です。




「うむ、ユグドラシルの調子が悪くての。魔力を注いで欲しいのじゃ」




 ユグドラシルの魔力補充イベント!?このイベントはヒロインが隠しパラメータであるエルフの長様との好感度MAXで発生する隠しイベントである。ユグドラシルに魔力を注ぎ、魔力が満ちるシーンは綺麗でした。


 私へのお祖父様の好感度がMAXになりましたか?スイへの愛が伝わったからですかね?




「ジジイ、正気?」




「お前もおる。平気じゃろ」




 スイの口調から何かある気がしたけど、私は快く引き受けた。




「お引き受けします」




「仕方ない、案内するよ」




 朝食を済ませると、早速ユグドラシルの所に行きました。 ユグドラシルとは魔力で周辺の植物を育て、さらにこの村の結界の要にもなっている生命線といっても過言ではない大樹である。エルフの至宝と言っても間違いではない。そんなとんでもないモノの苗木をプレゼントしようとしたスイは、大馬鹿者だと思う。


 いや、ヒロインは育ててたよ?ユグドラシルの葉っぱはSランクの薬作成に必須だから。でも個人宅の庭には植えられません。我が家を要塞化したいなら、また話は別ですけど。




 しかし、でかい。そして、太い。視界が幹で埋まるんですが。漏れだす魔力は優しく心地好いが、所々枯れている。




 幹に触れ、魔力を流し始めて…違和感があった。魔力が上手く流れない。ナニカが…嫌なものが邪魔をしている。ナニカはユグドラシルの内部を侵し、ユグドラシルの内部はズタズタだった。












 私はコレを知っている。
















「呪いか。ユグドラシルにかけるとは大胆だな」




 闇様が呟く。いつから居たの?ストーカーですか?




「呪い、なんとか出来ます?」




「無理だな。我は中和がせいぜいだ」




 お祖父様は私と闇様のお話を聞いて蒼白になっている。生命線が絶たれれば、村は存続できない。




「誰も気がつかなかったんですか?こんな酷い状態なのに。エルフって魔法得意なイメージなんですが」




「無理よ。確かにエルフは魔法が得意だけど、闇魔法は使えない。そっちはダークエルフが専門なの。エルフに感知は不可能だわ。光とか緑は扱えるけど、解呪はまた別の魔法だし…そもそも何の呪いかも感知できないのに解けるわけがないわ」




 悔しそうなシュガーさん。故郷がなくなるかの瀬戸際ですもんね。


 私は思いついたことを提案してみた。




「スイ、マグチェリアでどうにかできないかな?」




 世話をした者に呪いに抵抗する力を与える、浄化の花・マグチェリア。この呪いも前回と似た気配がするので、有効ではないだろうか




「…やってみる価値はある」




 私は自室のマグチェリアの鉢植えを持参した。マグチェリアに語りかける。




「私の味方をしてね。お願いね」




 マグチェリアを介してユグドラシルに魔力を送る。マグチェリアに浄化の魔力に転換してもらうイメージで魔力を解放した。




「ええええええ!?」




 魔力コントロールに没頭していたが、誰かの絶叫で集中が途切れた。無意識に目を閉じていた私の手の中には、とんでもなく伸びまくり、ユグドラシルを覆ったマグチェリア。




「うそーん」




 びっくりである。マグチェリアは更に成長し、虹色の花を咲かせ始める。




「マグチェリア、本気を出したね」




「待って!本気って何!?いやむしろどうしてこうなった!?」




「どうしては…ロザリンドが味方してって言ったから」




「私のせい!?」




「そして、マグチェリアのテンションが上がって本気になった結果が今の状態。」




「どう考えても私のせいか!」




「しかし、立派なマグチェリアじゃのう…虹色の花は初めて見たわい」




「ああ、ロザリンドの兄が緑の手の天啓持ちだし、僕もこまめに大事に世話したし、ロザリンドの全属性魔力をたっぷり貰ってたからね」




 緑の手とはいかなる植物の育成も失敗しない天啓。ゲームでは兄ルートでそれなりにお世話になりました。そういえば、兄持ってたね。


 そして緑の精霊の素晴らしいサポートと魔力が高い上に全属性という私。




 チート×チート=凄いチート




 その公式結果が今ですか。




「いや、それは納得じゃ」




 何故だろう。マグチェリアが『味方するから魔力ちょうだい。あと少しでユグドラシルは治せるよ』と言っている気がする。他の人には聞こえてないみたい。




 魔力を再度マグチェリアに注ぎ込む。




『歌って』




 また声が聞こえた。つられるように言葉を紡ぐ。




「浄化の光を持ちし我が友よ、我が願いを聞き入れよ。緑の魔力持ちし君よ、我が祈りに応えよ。ユグドラシルに癒しをもたらせ!!」




 スイが私の意図を汲み取り即座に私をフォローする。ハルも手伝ってくれている。




 魔力が正常に巡りはじめた。ナニカはマグチェリアが捕らえて力を失っていく。




「わあ…」




 ユグドラシルに花が咲いた。桜に似た薄桃色のその花は魔力できらめき、昼でも美しい。巨大な大樹に一斉に花が咲く様は圧巻だった。


 今は桜吹雪に似た魔力と花びらがきらめきながらふりそそぐ。幻想的な風景に私は見入っていた。




 マグチェリアの茎が種ぐらいのモノを私に寄越した。どうやらこれが呪いのもとだったようだ。調査のため封印布で巻いて鞄にしまった。




「おお、ユグドラシルが魔力に満ちておる!ロザリンドちゃんは村の英雄じゃ!酒じゃぁぁ!祝いじゃぁぁ!ロザリンドちゃん祭じゃぁぁ!!」




 止める間もなくお祖父様は村に走り去っていった。




「僕、止めてくる!」




 スイがお祖父様を追いかけた。




「スイだけが頼りだよ!私祭とかわけわかんない!お願いします!」




 私の本気の叫びにできるだけ頑張る!と頼りになるかならないか微妙な返事をして、スイも見えなくなった。




 そして私は手の中のマグチェリアに目を落とす。マグチェリアはなにもなかったと言わんばかりに普段のサイズに戻っている。しかし、中心部分に異常があった。




「…卵?」




 マグチェリアの中央には、鳥の卵的なものがついていた。いや、形がそのぐらいなだけで、虹色だから明らかに違うけども。




 私は謎の進化を遂げたマグチェリアと共に他のメンバーとユグドラシルを後にした。

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