第45話 そして、朝

 ふと目が醒めると、隣にはディルクが居ました。


 この人は何故、ベッドの上で正座しているのでしょうか。




 寝たふりをしつつ、観察します。耳も尻尾もへたっています。


 とりあえず、自分の服を確認して…自分の身体を見ています。あ、耳と尻尾の毛がぶわっとなって尻尾がふくらんだ。




「…なにこれ…」




 私の悪戯に気がついたようですね。身体を確認しています。




「え?」




 次に私を見ているようです。私に事情を聞きたいけど聞けないのでしょう。私の周りをウロウロしてます。




「ぷっ」




 あ、やばい。思わず吹き出してしまいました。




「ロザリンド、起きてるでしょ!」




 顔を真っ赤にして涙目なディルク。起き上がり、そっと唇に触れる。




「しー。まだ明け方ですから、皆さんに迷惑ですよ」




 私の行動に固まり、周囲を見回した。




「ここ、どこ」




「ディルクはどこまで覚えてるの?」




「カーティス達と酒を呑んで…」




 思い出してきた模様。赤くなったり、青くなったり忙しいですね。一応、魔法で防音しておく。




「はい」




「呑んでたらロザリンドがなんでか来て」




「はい。カーティスに呼ばれましたから」




「…俺、ロザリンドにずっとしがみついてて」




「はい。可愛かったです。私に会いたくて泣いてましたね」




「嬉しくないから!で、ごねたらロザリンドは一緒にいるって言ってくれて」




「はい。言いました」




「…ロザリンド、正直に答えてください」




 ディルクは真っ青で私の肩を掴みます。




「質問によります」




 私も真面目に返しました。




「俺、どこまでした?」




「ちなみに、どこまで覚えてますか?」




「え、う、な、舐めたり触ったり…その後記憶が曖昧で…」




「酷い…あんなに私と激しく過ごした夜を忘れたの?」




 笑いをこらえつつ、悲しげな表情を作る。




「激しい…」




 あ、反応そこ?激しい口づけでしたよ。私、魔法使えなくなるぐらいとか初めてでした。




「ディルクは上手でした」




 キスがね。頬を赤らめてみる…というか、思い出したら普通に恥ずかしい。




「何!?何が!?なんで顔が赤いの!可愛いけど、本当に俺は何をしたの!?」




 混乱しまくるディルク。面白過ぎる。




「そんな…言えません」




 口元に手を当て、恥じらう。




「口に出せないレベルなの!?」




「いえ、多分ディルクが覚えてる範囲止まりですよ。さすがにあの内容を具体的かつ明確にとか、羞恥プレイはちょっと…」




 ぐったりとベッドに突っ伏すディルク。じとりと私を睨むが、耳も尻尾もしゅんとしていて怖くない。むしろ不憫可愛い。




「からかわないでよ…」




「嫌です。私の生きがいですから。それに、手を出したとしても、別に関係は変わりませんよ」




「…結局どこまでなの」




「私は嘘をついてません。ディルクは途中で寝てしまいました」




 納得した様子だが、ディルクはまた自分の身体を見た。




「俺、この痕は記憶に無いんですが。あ、あの、これき、キスマークだよね?」




「それは寝落ちしたディルクが起きてモヤモヤしたらいいと私がやりました。ごちそうさまです」




「こらぁぁぁぁ!」




 ディルクに叱られても、私は涼しい顔で言いました。




「仮にも恋愛で婚約した私にあそこまでして寝落ちとか、私に魅力がないと言われてるみたいで正直ムシャクシャしてやりました」




「そんなことないよ!ロザリンドは魅力的だよ!むしろ寝なかったらまずかったよ!普段俺がどれだけ我慢してると思ってるの!?」




「では、教えてください」




「…は?」




「何を、どれだけ普段我慢しているのか」




「いいいい言えません!」




「じゃあ信じない。ディルクの嘘つき」




「う」




 私、実は拗ねてますから。本当は私だってこれからきっとあんまり一緒に居られなくなるから、かまってくれて嬉しかったのに寝落ちですよ!本っ当に何しても起きませんでしたしね!




「嘘つきじゃないよ。どれだけ俺がロザリンドを好きか聞いて」




 とても速い心音にほだされそうになる。




「こんなになるのはロザリンドだけだから」




 以前よりずっとたくましく筋肉がついた細身の身体。身体は大きくなって私をすっぽり包み込んでしまう。


 それでも、私を見る優しい琥珀の瞳は変わらない。




「ディルクは他の女性の前では禁酒です」




「いや、もう呑まないよ」




「私と居る時だけにしてね」




「うん?いや、呑まないって」




 首を傾げるディルク。いや、酔ったディルクはぜひ見たい。




「いえ、酔ったディルクは可愛いわセクシーだわ…ぜひまた見たいです。それに、手を出すのは私だけにして欲しいですから」




「せ?え?お、俺、浮気なんてしないしできないよ!ロザリンドをつがいに決めたから!」




「…つがいを決めると浮気できないの?」




「あ、その…」




 余計な事を言ったと口ごもるディルク。顔を赤くしてあーとかうーとか言うが、無言で待つ私を見て、恥ずかしそうに話した。




「獣人は一度つがいを決めたら、そのつがい以外には…よ、欲情しないしできない。つがいが死んだら他を選ぶこともない。つがいは生涯ただ1人だけ。俺は半分人間だけど、獣人としての本能が強いから、俺もロザリンド以外には興味ない…ロザリンドは嫌じゃない?その、俺にい、いやらしい目で見られるの」




 ほっぺた真っ赤で可愛い。ディルク可愛い。




「んー?嬉しいですよ」




「…は?」




「それだけ私がディルクにとって魅力的ということなら嬉しいだけです。私いつかディルクに似た可愛い子供が欲しいので、逆にそういう目で見れないと言われたら困ります」




「うん。俺はロザリンドに似た子供も欲しいな」




 嬉しそうなディルク。お膝に乗って抱きしめられて…幸せだなぁ。




「そうですね」




 そろそろエルフの村に戻らなきゃ、と思いつつ、ディルクの温もりを堪能する私でした。

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