第41話 自由な風とエルフと土下座
つつがなく誕生日を終えました。4歳で必死に訴えたのが効いたのか、今年も皆さん比較的まともな品をくれました。
母手製の冒険用軽くて丈夫な服を着て、腰にはマーニャに貰った双剣。マーサに貰った大容量鞄(しかも中のモノは時間が経過しないスグレモノ)にアークがくれた回復薬各種、父がくれた非常用高級缶詰が多数、兄お手製の魔物避け、魔物寄せが入っています。兄のお手製のアイテムは臭いでおびき出すまたは避けさせるものです。私的には臭いがしないモノです。
首にはディルク様に貰った守護魔法入りアミュレットが揺れています。精霊さん達の加護付きです。
そんな私は今、冒険者『自由な風』パーティーと森を進んでいます。依頼は父かららしいですが、彼らはSランクパーティーで、護衛としてついて来ました。皆それぞれ忙しいので、同行出来なかったんですよね。
今はエルフの森を目指しています。普通なら1週間ぐらいかかるのですが…闇様とコウに送っていただきました。さすがに森の手前までですが。
闇様はまた呼べばお迎えに来るとのことで今は居ません。帰りは転移しますと言いそびれました。
「あ、ありえねぇぇ…」
パーティーの常識人、回復・援護担当のミルラさんがぼやきます。
「えーと、すいません」
「いや、姫さんは悪くない…多分。オレが納得出来ないだけ」
「えー?ドラゴンとケツァルコアトルに乗るなんて、普通出来ねえぜ?面白かったな、あっという間に景色が流れて!」
パーティーリーダー兼前衛担当のソールさんが言います。彼は典型的脳筋なので細かいこと…細かくないことも気にしません。
「もう、ソールはもう少し色々と気にした方がいいわよ!それにしても、本当に姫様は規格外ね」
「あははー」
初めてお会いしたエルフなシュガーさん。後衛攻撃・援護担当。エルフなだけあり、絶世の美女です。胸は無いけど。金髪ストレート、エメラルドの瞳の典型的なエルフ様ですね。先程から姫呼びですが、私が護衛対象だからだそうでやめてくださいと言っても無駄でした。
「しかし、魔物が出ない…」
ぼそりと前衛盾役なビネさんが呟きます。ビネさんは寡黙なんで普段からしゃべらないらしいです。
「そういえば…」
ミルラさんが索敵の魔法を展開しました。空中に私達を中心とした地図が展開されます。青い点が私達で赤い点が魔物です。
「な、なんじゃこりゃぁぁ!」
叫ぶミルラさん。魔法の光は魔物が一斉に私達を避けている事を示していました。
「あー、コウのせいかな…」
コウは魔物の頂点とも言えるドラゴンです。その気配は周囲の魔物にとって恐怖そのもの。
「…便利だな、ドラゴン」
「いや、ケースバイケースですよ。採取依頼には向きませんし…」
私が投げたナイフが私の背後の魔物に命中する。
「来ないのが当たり前になってると、奇襲に遅れをとります。全く来ないわけではないので」
「あ、あの…姫様だいぶ強いみたいだけど、私達居る意味あるのかしら?」
シュガーさんがドン引きしている。
あ、私が倒した魔物、よく見たらAランクのジュエルスネークだ。よくナイフが刺さったな…ロザリア、鍛えてるからねって嬉しそうですね。確実に暗殺スキルが上がってる気がするよ?
確かにこんな固くて強い奴を話しながら片手間で一撃で仕留めたら私も引くわ。いや、今自分に引いてるわ。
「せ、戦闘は大丈夫かもしれませんが、森を一人で歩いたりはしてないので念のための依頼かと思います」
「よし、俺が歩き方を教えてやろう!」
脳筋ソールさんが説明するけど解りにくく穴だらけなので、結局ミルラさんとシュガーさんが教えてくれました。うん、とてもためになりました!
「それから、多分ですが貴方達に顔合わせをさせたかったんだと思います」
コソッとシュガーさんに話す。アークとマーサが話した、後輩冒険者たち。信用出来る彼らを、依頼という形で紹介してくれたのだ。
「貴方達は信頼できるとアークやマーサから聞いています。彼らの目は確かですから、今後ともぜひよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「いや、姫様!?貴族様が頭なんて下げちゃダメよ!」
「公式な場ならともかく、今は私達しか居ません。貴方達は先輩で尊敬すべき人間です。何も問題はありません」
「うんうん、先輩を敬うのはいいことだよな」
私の肩をバシバシ叩くソールさん。地味に痛い。振動で頭のコウがびっくりしてる。
シュガーさんとミルラさんは苦笑。
「しかし…アークさんはともかくマーサ姐さんはなんと言っていたんだろうか」
ビネさんの何気ない一言に、一気にパーティーメンバーが固まった。
「俺、姐さんにぶん殴られた思い出しかねーわ」
ああ…叩かれるソールさん。何かしらやらかしたんですね。目に浮かぶわ。
あの、怯えてる他メンバーが気になるけど聞けません。何したんですか、うちのマーサさんは。
「自由な風なら信用できます、良い選択ですねとアークに言ってましたが」
全員が信じられないモノを見る目で私を見た。そんなにか。
「ぼくもきいてたよ」
コウの一言でとりあえず信じてはもらえましたが、マーサが彼らの中でどうなってるかがとても気になりました。
「そろそろよ」
森を歩くこと3時間。気配が変わってきました。普通の森から神聖な気配がします。魔力を感じる…結界かな?
シュガーさんが魔法で入口を開き、入口をくぐるとあっという間に景色が変わり、村に到着しました。
「おかえり、シュガー」
おお、エルフさんがたくさん。おうちはほとんど木造ですね。素朴で素敵です。
「ただいま」
スイがひとこと告げた途端、エルフの村人が明らかに怯えました。いや、シュガーさんも怯えてるな。何をやらかしたんですか?スイさんや。しかも珍しいことに美少年モードですね。
「スイ、ここスイの故郷なの?」
「まあね、長の家に行くんでしょ、こっちだよ」
スイはさっさと私の手を取り歩き出す。
「俺もここの生まれなんだ」
ハルもいつの間にか私の肩に座っていた。今日は妖精さんサイズである。
「そっかぁ。じゃあ前のプレゼントはここから?」
「おー。今はブローチになってる石もここで貰ったやつだよ」
「そっかぁ」
ハルとほのぼのしながら歩くが、周囲が怯えまくっているのも気になる。
「ひ、ひひひ姫様!その悪魔と知り合いですか!?」
シュガーさんが走って追いついてきた。他メンバーも後に続く。
「あくま?精霊さんは知り合いですが、悪魔の知り合いは居ませんよ?」
「そこの緑色です!」
指さす先に、該当者は一人だけ。いや、解っていたけど認めたくなかったというか…
「スイは私の加護精霊なのですが…」
「うぇぇぇぇ!?この性悪を!?」
「さっさと行くよ、ロザリンド」
スイはシュガーさんを無視して、私の手を引いて歩く。
そして、村で1番大きなお屋敷の前で立ち止まった。
「ジジイ、客だよ」
そんな言葉と共にためらいなくドアを開ける。
扉の中で最初に見えたのは、ハゲ頭だった。え?頭?目撃した光景に理解が追いつかず、固まる私。
「へ?」
「申し訳ありません、うちの孫が何か粗相を…」
ハゲ頭…じゃなかった、お爺さんはそう言った。お爺さんが何かに苦労してるのはとても伝わりました。
「私、土下座でお出迎えされたのは初めてです」
「爺さん、スイの事でそーとー苦労してるからな」
うん、大体把握しましたよ。頭も回転し始めましたよ。
私はお爺さんの側に行き、手を取り頭を上げさせた。
「あの、スイ…お孫さんに迷惑なんてかけられてません。3年程前に私の身内が私のために無理を言ったようでして、私の方が謝罪に参りました」
「は?」
お爺さん、キョトンとしてます。
私はスイに目線で訴える。スイは明らかに目を逸らして居心地悪そうにしている。それでもお爺さんに話しかけた。
「あー、ロザリンドは僕の加護をあげた人間だよ」
「は?」
「本来ならばもっと早くご挨拶に伺うべきでしたが、私が幼かったゆえ今となってしまいました。ご無礼をお許し下さい」
「は?」
お爺さん、さっきからは?しか言ってませんよ。
「私はロザリンド=ローゼンベルクと申します。スイの加護を受け、彼の友人となりました」
「とも…だち?」
お爺さんの瞳に光が戻ってきました。
「はい、友人としてよくしていただいています」
「嘘ぉぉぉ!?」という背後に轟くシュガーさんの叫びは気にしません。私嘘ついてない。ね、とスイに促すと照れながら頷いた。
「皆のものぉぉ!酒じゃ!!酒を持て!今夜は宴じゃあぁぁ!孫の友達祭じゃぁぁぁぁぁぁ!!」
お爺さんはお外に走り出してしまった。これにはさすがのスイも驚いたらしく、暫く固まっていたが正気にかえると焦って走り出す。
「ちょっと止めてくる!意味わかんない!!」
「ふは、あいつさあ、俺以外友達居ないんだわ。で、爺さんはあいつで本っ当にものすごーく苦労しててさ」
「あー、そっか。今日、日帰り予定だったんだけど仕方ないかな」
あの勢いを止めるのは無理だろう。友達祭とか恥ずかしいだろうが、スイには耐えていただこう。
「おまつり?」
「楽しみだねー」
私の頭の上で首を傾げるコウ。おかしくてたまらない様子のハル。
暴走するエルフのお爺さんとそれを必死に追いかけるスイ。
そして、事態についていけない自由な風。
「とりあえず、今日は泊まりでお願いします」
カオスな状況の中、私は自由な風さん達に笑顔でそう告げるのだった。
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