第29話 料理と牽制

 さて、マーサに散々お説教されて足がしびれて涙目の私です。




 ドラゴン君はサイズ変更可能なようで、今は大型犬サイズで私を乗っけてトテトテ歩いてます。


 ディルク様が不機嫌な気がしますが、さすがの私も抱っこで移動は…人前でモフりまくった前科があるので自重しました。




 丘の上には心配げな兄と両親。




「ロザリンド!怪我はない!?」




 兄様は泣いておりました。




「ドラゴンと戦ってる所に行くなんて、馬鹿!」




「ごめんね、兄様。泣かないで」




 兄の涙を拭う私。兄は私の足元をみて…私そういやドラゴン君に乗ってたよ。




「ロザリンド、何に乗ってるの」




「ドラゴン君です」




「見れば解る。説明しなさい」




 ですよね!また叱られコースの予感…と思ったら、んごごご~とどっかで聞いた男らしい腹の虫が鳴り響いた。




「兄様」




「何」




「私もお腹すきました」




「……僕も」




 兄は折れてくれました。騎士さん達も昼食を摂ってから帰るそうです。


 なんか、硬いパンと干し肉食べてる人達の横で豪華ランチとか、気まずい。




「ルドルフさん、私スープかなんか皆様の分作ってもいいですか?」




「嬢ちゃん、小さいのに料理出来るのか?」




「はい、多少」




「団長、ロザリンドのご飯は有り得ないくらい美味しいです」




 やめて下さい、ハードル上げない!干し肉とパンよりはマシなぐらいだよ!




「よし、ならお願いするかな」




「お、お嬢様なんか作るの?」




 アークは鞄から鍋、包丁、まな板、調味料一式、ハーブ、野菜、干し魚…




「なんでこんなに入ってるの」




「ダンがなんかあった時にその場で作れるようにって。一応魔物が出るから、万が一弁当だめにしてお嬢様の料理が食えないと、ガッカリするからってさ」




「ダン…」




 まさに今、非常事態ですよ…貴方の気遣いに感謝します!




 お腹を空かせた騎士様達のために、簡単にバーベキューとスープを作ることに。 さすがに子供姿での調理は不便なのでロザリア(16歳)の姿で調理します。




「やべ、可愛い」




「胸でけー」




 おい。前者はともかく、後者。あ、ディルク様に容赦なくしばかれた。珍しく怒ってるな、あれ。




「うちの娘が、何か?」




 父!魔力が漏れてる!火が消えそう!




「ふー」




 あ、ドラゴン君ナイス!ファイヤーブレスで火は消えずにすみました。




「ありがとう」




 ナデナデすると、また手の平サイズになり、私の頭に乗った。




「えへへ、どういたしまして、お姉ちゃん」




 くっ!可愛いなー、ドラゴン君。私の頭が気に入ったのか、彼は私の頭から動かない。




「可愛いなー、でも周りのガードがハンパないな」




「美人だけど、周りがな。赤い悪魔が溺愛してるらしいし」




「マジで!?死亡フラグじゃん!」




 マーサ、騎士団でも有名人ですか?本当に何やらかしてるんですか?チラッとみると、ルドルフさんに食ってかかってた。




「あの2人、昔冒険者で同じパーティー組んでたんだけど仲がいいやら悪いやら。姉ちゃんも諦めりゃいいのに、つい突っかかっちまうんだよなー」




「わ、冒険者の話聞きたい!」




「んー。そのうちな?今日はお嬢様の背後が怖いからやめとく」




「は?」




 背後には兄とディルク様。




「ロザリンドに冒険者の話なんて、冒険者になるとか言い出したらどう責任とるつもりだ!アーク!」




 いや、7歳になれば誰でも登録出来るから、登録はしますよ?多分。今は無理だししません。




「そうですよ!ロザリンドは家出しかねませんよ!」




 ディルク様の中で私はどんだけ自由な奴なの?家族とディルク様を捨ててまで行きませんよ、さすがに。




「いや、さすがにありません。家族大好きだし、ディルクはいるし、聖獣様とも仲良しで生活に不満なんて微塵もないです。皆を捨ててまで得る自由に興味もわきませんし」




 私が言い切ると2人はあからさまにホッとしていた。だからどこにも行きませんてば。




 さて、スープが出来ましたよ。バーベキューは既に焼けたやつを食べ始めてますね。


 お皿とスプーンは野営用を騎士様達が持参してたので、並んでもらってよそっていく。




「あ、あの…ああ握手して貰えますか?」






 アイドルか。




「え、あ、はい?」




 別に手ぐらい…と思ったのがまずかった。俺も俺もになってしまい、ルドルフさんの一喝でどうにか沈静した。


 どうにか全員に配ったが、私は疲労困憊だった。






 配り終るとふらふらしながらもディルク様(癒し)のお膝に乗る。




「うー、疲れたよ。ディルクー、癒してー」




 首にしがみついて、いつもみたいに撫でてもらおうと甘えた所で気がついた。位置が違ったからだ。私、今3歳児じゃないや!




「ろろろろ、ロザリンド」




 ディルク様噛みすぎ。あちゃー、やってしまった。めちゃくちゃ動揺してますな。


 まさかの羞恥プレイですよ。首まで赤いですよ。




「あー、ごめん。つい」




 どこうとしたら、後ろから伸びた手が私を捕まえる。




「や、いい。獣化する?」




「はい?別にどっちのディルクも好きだからどっちでもいいけど、撫でて欲しいな」




 ずいぶんサービスいいなぁ。普段聞いてこないのに。


 あー幸せ。ディルク様のナデナデは優しくて大好き。




「はうー、幸せ」




 ディルクの首にスリスリと擦り寄る。優しく撫でる手は一瞬とまったけど、また私を撫でてくれる。いや、至福!




「こら、くすぐったいよ」




 へにゃりと笑うディルク様…いやー胸がキュンキュンします。しかしどうしたのかな?普段ここまでしないのに。


 うひゃ、ディルク様にもスリスリされた。




「ちょっと、くすぐったいよ」




「だあああぁ!!」




「はわっ?」




 近くにいた騎士様が雄叫びをあげた。




「うおお、ディルク!羨ま妬ましいぃ!!おま、いちゃつくなら2人きりでやれよ!!」




 頷く騎士様達。


 あやや、申し訳ありません。ディルク様が甘やかしてくれるから、つい私も周囲の状況忘れてディルク様に集中してたよ。




「牽制なんだから、今ここでじゃなきゃ意味ないだろ」




「え」




 牽制でしたか。普段よりベタベタしまくったのはそのせいか。私はディルク様のだって言いたかったのか。


 やばい、動悸息切れが!さすがの私も真っ赤になってるのが解る!




「照れてるの?可愛い」


 いつもなら、逆なのに…甘くて男らしい表情に、本気で息ができない。




「ディルクってろりこんなの?」




 甘い空気を消し飛ばす爆弾発言に、周囲が固まった。




 この超天然キャラは、カーティス=ブラン。ロザリア返り討ちエンドの攻略対象である。あだ名はアホ犬。なつくと犬である。そしてアホ…というか脳筋である。




「いや、こんな美女ならロリコンじゃなくね?」




 他の騎士の言葉にディルク様は首を振った。




「俺はロザリンドなら別に子供でも大人でも好きだから、幼児性愛者ではないと思う。他の子供を見てもどうとも思わないし」




 ガチな返答きました。あ、うん。嬉しいですよ。




「そっかー。アデイルとヒューに教えてくるわ」




 あいつ、頼まれたんだなってことは解った。というか、ロリコンの意味解ってるのかな?規格外のアホだからなー、とアホ犬を見送っていたため、私は大魔神・兄の接近に気がつかなかった。




「ロザリンド?いい加減ご飯食べようか」




「は、はいぃぃ!兄様ごめんなさいぃぃ!」




 兄のド迫力に涙目な私。怯えるあまり術も解け、3歳児姿で引きずられるのであった。

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