第28話 ピクニックとドラゴン

 さて、今日はピクニックの日です。普段異常に食べるディルク様のランチを作っているのでさほど苦労はしませんでした。ダンに父、母、兄の好みを聞いてメニューを決めて作りました。なかなか楽しかったですよ。




 母もかなり体調が良くなり、参加してくれることになりました。アークとマーサも護衛として参加です。




 屋敷から街を抜けると、街道に出ます。移動はいつも通り馬車。




 街道に馬車を停め、結界を張ります。ここから歩いた所でピクニック予定だそうです。




 見晴らしのいい小高い丘。テーブルやら椅子をセッティングし更にはパラソル設置…これ、私の知ってるピクニックじゃない。


 ま、まあ母は体が弱いからね!と言い訳を自分にしてみる。




 兄が近くの森を散策したいと言うので、私もついていくことに。護衛はアークです。




 兄は家にない植物達に目を輝かせ、特に薬効のあるものは収納魔法が刻印された鞄にしまっていく。パラソルなんかも入ってた、容量が明らかにおかしい魔法の鞄です。




「あ、オーク」




 一瞬で足に括り付けてあったナイフを取り出し、眉間に叩き込んだ。




「……はぁぁ!?」




 ロザリアさんですね。私にはあんな芸当出来ませんよ。兄、引いてるし。


 ヒュッとナイフを振って血を飛ばす。手慣れてて怖いんですが、ロザリアさん。




「ロザリア、マーニャに色々仕込まれたらしいよ」




 この分だと内緒で仕込まれたな?と思いチクっておく。




「分かった。愚姉にちょうきょ…指導してもらっとくわ」




「調教っていいかけたよね!?」




「前から思ってたけど、マーニャの扱い酷くない?」




「いや、普通だろ」




 そもそも、彼らの普通は普通ではない気がします。倒したオークはアークの鞄にしまわれました。え、食べるの?




「普通に美味いぞ。豚肉みたいで」




「え!?食べるの!?」




 兄、ドン引き。よかった、オークを食べるのは兄の常識ではなかった。私は心からほっとした。




 それから30分後




「兄様」




「何」




「なんていうか」




「うん」




「これ、私の思ってたピクニックじゃない」




「僕もそう思う」




「いや、この遭遇率は異常だから!」




 知らなかった。森は危険地帯だった。めっちゃ魔物が迫ってきてます。




「とりあえず、私が食い止めるから兄様連れて増援呼んできて!」




 兄を守りながらでは私は無理だ。一人なら逆にどうとでもなる。更に私は足の短さで機動力は最も遅い。




「俺、確実に姉ちゃんに殺される気がするんだけど!」




「他に方法は?」




「思いつかん!」


「わあぁ!?」




 言うが早いか兄を担いで物凄い速さで撤退していった。




「あ、あれ?」




 魔物は結界を張る私を避けて通り過ぎる。兄達を追っているわけでもなく…逃げている?




「あ、あんたは!」




「ロスワイデ候爵子息!?」




 なんでこいつがここに?しかもやたらボロボロだ。他にも数人の騎士が居るが負傷していたり。とりあえず治してやる。




「た、助かったが…礼は言わんぞ。救援を呼びに行かねばならん」




「別に礼は不要です。…救援?」




「第2騎士団が向こうでドラゴンと交戦中だ」




 確か、第2って…ディルクも居るってことだ。




 しかもよく考えたら、ディルクってゲームで隻眼だったじゃん!つまり大怪我する危険があるってことで…




「ディルクが危ない!」




「うわ!?」




「あんた達はここに居ればアーク達が戻って来るから、公爵家の馬車馬借りて伝令しなさい!ハル!スイ!」




「「了解」」




 スイは結界、ハルは魔法による浮遊、私はそれに推進力を与え、ロスワイデ候爵子息達が来た方角に飛んだ。




「いやあああ、超怖い!」




 スイは苦笑。ハル爆笑。笑いたきゃ笑え!自分でやっといてだけど超怖い!たまに何か(多分魔物?)にぶつかるのがまた怖い!!




「見えた!」




 前方にドラゴン!暴れてるっていうか…




「痛いよ、のどが痛い!おじちゃんたち、やめて、痛い!痛いよぉぉ!」






 泣いている子供の声。ドラゴンから聞こえる。子供ドラゴンてこと?




「ハル!浮遊は私が代わるから、最大出力で拡声よろしく!」




「おっけー」




 大きく息を吸い、叫んだ。




「全員、動くなぁぁぁ!!!」




 大ダメージでした。主にディルク様が。聴力、いいもんね。ごめんなさい。次からもう少し考えて行動します。




「もう、ルドルフさんまでなんでこんな子供をいじめてるんですか!」




「は?」




 あら?騎士さん達…ディルクまで、みんなポカーンとしてません?




「え、だってあんなに泣いてるじゃないですか、痛いよ、痛いよ、やめてって」




「…嬢ちゃんには、そう聞こえるのか?」




「はい」




「お姉ちゃんは、ぼくの言ってることわかるの?」




 首をかしげる真っ赤なドラゴン。大きいなぁ。つぶらな瞳が可愛いです。




「わかるよ」




 ドラゴン君は痛そうな表情をする。




「いたた…ぼく、のどが痛くてあばれちゃったの」




「かわいそう…」




「ロザリンド、危ない!」




 ドラゴン君は大人しく首を下ろし私にナデナデされている。


 おい、誰だ。さすがは魔女王だ、ドラゴンも恐ろしさがわかるんだなとか言ったのは。




 スイが私の頭にのっかる。




「仕方ないヨ。この子は僕らよりの子供ダ。ロザリンドみたいに精霊眼があるかドラゴンでなければわからないヨ」




「ディルクもわからない?」




「ディルクが聖獣様の言葉がわかるのハ、多分同じ猫科だからかナー」




「え、そんな理由?」




 とりあえず、ルドルフさんにドラゴン君は私がなんとかする許可をいただいた。喉が痛いと言うので、頭を下ろして口を開けてもらう。




「奥みたいだね…」




 私はドラゴン君の口の中に入り込んだ。光の魔法で辺りを照らすと、喉の奥に何か刺さっているのを見つけた。




「よいしょ」




 刺さっていたのは手の平サイズの短剣だった。なんだか嫌な感じがする。


 念のため、ドラゴン君の傷を癒してから出た。




「ロザリンド!君は馬鹿か!どこの世界にドラゴンの口の中に入る女の子がいるんだ!」




 ここに居ます、とは言えなかった。ディルク様怒ると怖いです。しかし、私の様子を見てドラゴン君がディルク様に怒りを向けた。




「お姉ちゃんをいじめるな!」




 ドラゴン君が暴れると思ったのか、とっさに私をかばうディルク。




「ロザリンド!後ろに!」


「違う!私は大丈夫だから怒らないで!この人は私があなたの口の中に入っちゃったから心配してるのよ!」




「そうなの?」




 ドラゴン君は小さくなって、手の平サイズになってしまった。私の手におさまる。




「お兄ちゃん、ごめんね」




「ごめんねだって」




「あ、うん」




「ルドルフさん、これ」




 私は持っていた短剣を渡す。




「多分呪いがかかってますね。何かまでは解りませんが」




「ふむ、封印布で巻いておけ。念のため調査する」




 結局、ドラゴン君は寝てる間に刺されたらしく、犯人は不明。問題はドラゴン君をどうするかということ。




「お姉ちゃん、ありがとう。もう痛くないよ」




 つぶらな瞳とひんやりした鱗。手の平サイズのドラゴン君は可愛かった。スリスリされてしまう。はうー、すべすべ。私もナデナデすると目を細めて甘えた声でくぅ、と鳴いた。




「…ロザリンド」




 あの、なんで泣きそうなの。ディルク様はどうしたんだい。




「俺よりも、そのトカゲがいいの?」




「え」




 まさかドラゴンに嫉妬ですか。え?マジ?相手は多分幼児ですよ?あ、私もだわ。




「恋愛的な意味ならディルクがいいです」




「なら、いい」




 いいのか。ちょっと照れて拗ねた感じがまたぷりちー。ディルクもナデナデしてあげました。




 そんなことをしているうちに、アークと…うわぁい、般若の様相のマーサ様がいらっしゃったよ!アークまたす巻きだよ!貴重な戦力になんて扱いを…




「お嬢様ぁぁ!ご無事で何よりです!このマーサ、お嬢様に何かあったらと胸が潰れる思いでございましたぁぁ!」




 抱き着かれてグリグリされる。マーサ、力加減!死ぬ!むしろ私が抱き潰される!!




「大丈夫だ!ドラゴンの口の中にも平気で入ってくようなタマだ。よほどのことがなきゃ平気だろ」




 あああああ、それは内緒にしていただきたかったよ、ルドルフさん…




「お嬢様」




「はい」




「詳しく、説明をいただけますよね?」




「…はい」




 がっつり説教されました。いや、うん。でも仕方なかったと思うの。

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