行動のすすめ
シヨゥ
第1話
「行動を起こすこと起こさないこと。さてどちらが楽なのか」
カウンセラーにそんな質問をされた。
「そりゃあ行動を起こさないことだろう。頭も体も働かせる必要がないんだ。そんな簡単なことを訊いてどうするよ」
「それじゃあ今を変えることと変えないこと。どちらが楽なのか」
「そりゃあ変わった方が楽になるに決まっている。今が苦しくて辛いから相談しに来たんだ。どうしたら楽になるかアドバイスをしてくれないか」
「まぁ待て。もうひとつ質問がある」
「なんだなんだ」
「行動を起こして今を変えることと、行動を起こさず今のままであること。どちらが楽なのか」
「それは……」
即答しようとして一旦言葉を飲み込む。
「どちらが楽なのか」
その言葉を催促するように質問が重ねられた。
「それは行動を起こして今を変えることだ」
だからそう本心を答えた。
「そう答えるということは行動するわずらわしさよりも行動しないことで起こる今の不利益のほうが強いと感じている証拠。であれば今を変えるために行動をするべきです」
「行動するって具体的に何さ」
「例えば仕事を変える」
「それは迷惑がかかるしな」
「かければいいのですよ」
「それはちょっと。嫌われたくないしな」
「その嫌われるというのは職場の人からですよね?」
「そうだ。良くしてもらっている人もいるからな」
「大丈夫です。職場の人間関係はその職場に所属しているからつながっているだけなんですから。そこから離れてしまったら一切関係がなくなります。関係ない人に嫌われたところで問題はないでしょう?」
「それはそうだが」
「だったら仕事を変えてみてはどうでしょうか? 労働時間は睡眠時間と同じように人生の大部分を占めてしまいます。睡眠時間を辛く苦しいと思う人はいませんが労働時間はそう思う人が多い。もしかしたらあなたもその1人かもしれません。ならば大きな変化を起こすには仕事を変える。これが一番です。ぜひ検討してみてください」
「あっはい」
「もし改善しないようでしたらまたお越しください。お話を聞かせていただきますから。ではお大事に」
診療時間はここまでとばかりに帰る雰囲気を作り上げられ仕方がなしに診察室を出る。
支払いを終えて家へと向かう道でぼんやりと仕事のあれこれを考えてみた。辛いこと、苦しいことがたしかに多い。それもすべて人にまつわることばかりだ。ならばいっそのこと仕事を変えようか。そんな思いが頭をもたげるのだった。
行動のすすめ シヨゥ @Shiyoxu
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