私は乙女ゲームの悪役かもしれない
団子
第1話 ここは乙女ゲームの世界かもしれない
気付いたのは、四月、高校二年の始業式の日。クラスの自己紹介で見慣れない子を見たときだった。
一人一人が教卓に立ち、クラス全員の前で自己紹介をする初回のホームルームを、私はぼんやり眺めていた。同じ中学だった人が大半な上、二年目ともなると見たことのある人も多いから、自己紹介の時間も退屈だった。
そんなことを思っているとき、知らない子が教卓に立った。
真っ黒な髪とまんまるお目々。長い睫毛にぷるんとした唇。さらりと靡くつやつやのボブの黒髪。
えっ、可愛い。そう声に出してしまいそうなほどの美少女がクラスの全体を見回して、ふんわりと微笑む。
あれ。知らない子のはずなのに、見たことあるような。
あっ。
ガタガタと机と椅子を蹴ってしまった。動揺した、超動揺した。頭の中も、思わず机を蹴ったことも。
前に立つ先生が困惑した顔でじろっと見てきた。慌てて軽く頭を下げる。すみませんって。
きちんと座り直して、黒髪の子のほうを見る。いや、間違いない。三度見くらいした。絶対、そう。
この子、某動画サイトの広告で死ぬほど流れてた、乙女ゲームのヒロインじゃない?
「はじめまして。
にぱっと天使のような弾ける笑顔を見せたあと、ちょこんとお辞儀をして席に戻っていく。ほんのり甘く良い香りを漂わせながら、私の横を通り、ぽすんと席に着いた。
いやいや、偶然でしょ。黒髪ボブの美人なんて、いくらでもいるし。
半信半疑の私に追い打ちをかけてきたのは、美少女の次に出てきた陽キャだった。
「えーっと、去年はC組でした。
ものすごく見たことのある顔だ。木瀬という名前は聞いたことがある。なんか、バスケ部のめちゃくちゃ運動できる陽キャ。
同じ中学ではなかったし、去年も違うクラスだから姿はあまり見たことがなかった。けれど、見覚えのある顔をしていた。
そうだ、この顔は広告の最後にタイトルロゴとともに、バーンとド真ん中に出てきていた顔だ。
飽きるほど見たことがあるから間違いない。あの聞き飽きた声とも完全に一致している。
混乱する中でぼんやり脳裏をよぎったのは、これまた最近広告でよく見かける漫画のセリフだった。金髪のくるっくるのツリ目美女が、頭を抱えて叫ぶ一コマ。
『もしかして私、乙女ゲームの世界に転生してる!?』
まさか、いやいや、まさかね。私はおもむろに自分のほっぺたをつねってみた。痛かった。
まさか、これは現実なのか。
私は今、乙女ゲームの世界にいるかもしれない。
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