第1話「令和元年の涙雨」⑦

※場所は佐賀県武雄市朝日町たけおしあさひちょうにあるエスカンパニー本社(兼、緒妻おつま家自宅)。⑥より数日後(※)内は演出指示です。★は出来ればお願い項目。<>はセリフ以外の演出ほかシュチュエーションです。傍点は佐賀弁。




<ブレーカーに向かって漏電チェックをしている初老の男性>




塚原つかはら:「家の中の電気はこれで全部使えますよ。ただ、全部のエアコンは全部、室外機の基板まで浸水してショートしてるし、モータにも水が入ってベアリングがやられてるし、さっきメーカーに聞いて見たんだけど…。どの室外機も型が古いから、もう部品が取り寄せできないらしい…。残念だけど新しく買いなおすしかないね…。」




ゆう:「塚原つかはら社長、すいません。わざわざ、鹿島市かしましからここまで…」




塚原つかはら:「いいよ。気にしない気にしない、困ったときは助け合わないとね。緒妻おつまさん、鹿島かしまの店は大丈夫だったと?」




ゆう:「ウチの専務…。蒼羽あおばっていうんですが、あの店では"店長"もしてて、鹿島かしまのお店は大丈夫だったって…連絡は入ってました。ただ、会社もこんな風だし、移動手段である車は全部浸水…。保険屋さんにレッカーで車屋さんへ運んでもらうように頼んでますけど、レッカーの会社からも、どこの家もみんな浸かっていて、車を運びにくるのに2週間はかかるって…。」




塚原つかはら:「佐賀は田舎だからね。車がないと何もできん…。代車とかは?」




ゆう:「今、てつちゃん…いや、主人が勤務先用に使ってます。代車も、レンタカー屋さん自体も大半が浸水して、福岡、長崎、熊本とか他のところから車を借りて、貸してるそうで…。


わが家もわざわざ、レンタカー屋さんが1日かけて熊本県から持ってきてくださったんです。」




塚原つかはら:「(※可哀そうな声で)そうかい。だが、緒妻おつまさんは会社もお店もあるから…。足がないと大変やろ?」




ゆう:「私は運よく、知り合いの車屋の社長さんから軽自動車をお借りすることになりました。とてもいい社長さんででわざわざ、用意してくれたんですよ。弊社の部下が今日、持ってきてくれることになってます。」




塚原つかはら:「それは良かった。私も心配してたよ。数日前の水害から、空には自衛隊のヘリやら報道のヘリがブンブンと空を何台も飛び回ってるし…、冠水で通行止めでいけない場所も多いし…。(※しばらく間を空ける)食べ物とかは?」




ゆう:「主人が勤務先の町から買ってはきたり、あと、ボランティアの方が弁当持ってきたり、あとはそう…炊き出しのキッチンカーが沢山、来てくれるんですよ。それも全国から(※喜び笑い)ふふふ…」




塚原つかはら:「何か面白いのかい?」




ゆう:「いえ…。来て下さるキッチンカーも色んな種類があって、色んなものを食べさせてもらって…まるで全国B級グルメ選手権みたいで…ですね。」




塚原つかはら:「なんか楽しそうやね。」




ゆう:「毎日毎日、"災害ゴミ"捨てと床掃除。あと、今までは家の修繕やら車の手配、罹災証明書りさいしょうめいしょの申請願いとか…。忙しすぎて、炊事する力もないほどなんです。しかも全身筋肉痛ですし…。避難所の小学校の体育館で毎日、非常食は配られてるんですが、そこまで歩いていく気力もない位…。でもキッチンカーは近くまできてくれるし、非常食と違って温かくて美味しいので、結構、来るのを楽しみにしてます。」




<車のエンジン音が徐々に聞こえ始める>




塚原つかはら:「緒妻おつまさん、誰か外にきたんじゃないか。ボランティアの人かも。」




ゆう:「社長、お願いしますね。エアコンも買うしかないですよね?」




塚原つかはら:「安いのをどこかの量販店で自分で探したら、私がつけていいよ。」




ゆう:「すいません。ご厚意に甘えます。じゃあ、外に行ってきますね。」




ゆうが靴を履く音。その後、しばらく足音が続く…ザザザッツと音をたてながら近づく軽自動車2台…運転席のドア窓が開いて、志織しおりが大げさなくらいに手を振る>




志織しおり:「「(※少し大きめな声で)社長、車をお借りしてきましたよ!」




ゆう:「(※少し大きめな声で)しおりちゃ~ん、ありがと~♪」


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