第4話 当然の陶然
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ドロシーは全く何も考えていなかった。というより考える事すらできなかった。ただそのエステティシャンの凄艶な体験談が耳から脳を刺激し、さらに追い打ちのように施術が身体を刺激し続けた。その快感に身を委ねるしかなかった。
夢見心地、というには些か以上に刺激が強すぎるのだが、不快では決してない。不快どころか生まれて初めての快感に陶然となっていた。何か身体の奥底から光だか熱だかが生まれるような、弾けるような、正体不明の刺激と興奮が襲ってきて、それがさらにエステティシャンの手や指で全身に拡散されるような気がした。
そうしてやがてドロシーは、その会った事もない少年が必死に彼女の身体に腰を打ち付けながら、同時に唇や乳首や女性自身を吸い続けているような錯覚に襲われた。
あああ
ドロシーは低く呻いた。彼女自身はそれを全く認識していない。そしてそれは彼女が生まれて初めて感じる本当のオーガスムであった。
そして一度それに達すると、後はエステティシャンの指先で触る箇所は全て性感帯となった。どこを触れているのか判らないが、どこを触れられても強烈な刺激となり意識が遠ざかる。今、彼女は大宇宙の中に居て、星々の誕生と共に爆発的な光と熱を感じ、同時に虚空に投げ出されたような浮遊感に漂っていた。
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「お疲れ様でした。お風呂が用意してあります」
ドロシーは浴室に誘われ、全く何も考えられないまま浴槽に浸かった。今彼女の表情を見たら誰もが驚くだろう。その瞳孔は瞳と同じ大きさまで開いていて、口は半開きのままだった。そこから唾液が垂れているのだがそれすら気がつかない。10分以上もそのまま放心していたドロシーはようやく人間の言葉で感想を漏らした。
──すごい──
そして浴槽に薔薇の花弁が浮かんでいるにようやく気づき、その花弁のひとつが彼女の乳首にくっつくのを見ただけで彼女はまた達した。直接の刺激ではなく、視覚的な連想でしかなかったが、それすら元夫との行為を遥かに上回った。
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「お疲れ様でした。ごゆっくりできましたか?」
エステティシャンは優しい微笑を浮かべてそう言ったが、ドロシーは咄嗟に顔を背けてしまった。恥ずかしいなんてものじゃなかった。ある種の恐怖すら感じた。ちらりと目を向けてその美しい唇を見るとそれだけで身体が震えた。なんなのこのひと!?
「ようやく少しはささくれも収まったようで良かったです」
ささくれってなによ!?というかなんなのこれ!?
「こちらに鏡がありますのでどうぞ御覧ください」
そう言ってエステティシャンはドロシーを誘った。それだけで怖いんだけど。
その鏡は壊れていた。あるいは別のものを写していた。そこにはドロシーが全く知らない人物が全裸で写っていたのだ。髪の毛は宝石でも散りばめたのか?というほど光り輝いていたし、肌のシミなんか全くどこにも見えなかったし、肌自体がものすごくきめ細やかで美しかった。
その鏡に写った女性はドロシーと違って豊かな乳房がまだ重力を無視して張り詰めていたし、お腹なんか弛むどころか女性のドロシーすら見惚れるほど美しかった。そしてその顔がまた凄い。彫刻だってこうはならないよ、と言わんばかりに目元も鼻筋もすっきりと通っていたし、さすがに全ての皺が消えた訳ではないが、それは十代の少女にだって当然ある普通の、生命としての皺しかなかった。なにこれ?だれこれ?
ドロシーは周りを見て何が写っているのか確認したが、エステティシャンは鏡の向こうに立っている。というか鏡の中の美女もきょろきょろしている。そしてようやくドロシーは信じられない現実を認識し始めた。
「…これ、私?」
ドロシーは呆然とそう声を出した。
「勿論でございます。ミルウォッチ様」
エステティシャンはにっこりと笑顔でそう言った。
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ドロシーは着替えを終えて帰路についたが、その間ですら驚きの連続だった。ブラはなんか小さく感じるし、ベルトは広がりすぎだし、スカートの腰はぶかぶかなのに尻まわりだけやたら窮屈で動きづらいし、ストッキングすら妙にきつかった。というか帽子や手袋や靴が臭く感じた。しないわけには行かないのでしぶしぶ装着するが。
そうして馬車に乗ると耐えきれなくて帽子も手袋も靴も外してしまった。ダメだこれもう捨てよ。こんなに臭かったっけ?いやそんな筈はないのだ。
──これが噂の、いや伝説のスペシャルサービスか──
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