ボナペティ

wafua

第1話 ようこそラ・ブリエールへ

 今から数十年前、小さな街にラ・ブリエールと言う店が誕生した。

この店の創業者はある若い夫婦だった。

二人は結婚して、数年後にこの店を作りオープンさせたのだった。


 さて、このラ・ブリエールと言う店なのだが普通の店とは少し変わっていた。

どんな店なのかと言うと、店の半分はケーキ屋で、またその半分は酒屋になっていると言う一つの店で二つの商売をしている店だった。

 

 ケーキ屋はパテシエの妻が、酒屋は夫が切り盛りしていた。

また、夫の実家は明治から創業した地元では有名な酒屋だった。


「すこやかなる時もやめる時も夫婦で協力し合い、美味しいものを追求し、提供し続ける事を誓います。」


これが夫婦の誓いの言葉だった。


 夫婦の馴れ初めの話になるが、夫婦は同じ高校に通っていた。卒業するとすぐに妻はパテシエを目指して単身フランスへ修行へと旅立った。

夫は自分の実家の家業を継ぐため、経営の事を学ぶため進学をした。

それから2年後妻がフランスから修行を終え、帰国して二人は結ばれたのだった。


 夫婦はとにかく食べる事が大好きだった。

美味しいものを求めて、日本国内に留まらず海外まで食しに行った。


「豊かな食は、人生を豊かにする。」

これは夫婦の座右の銘だった。


 ラ・ブリエールと言う店の名前は造語で、フランス語でbrilliant=輝く aile=羽

輝く羽と言う意味で名付けられた。

夫の名前は正輝、妻の名前は美羽と言うので二人の名前を合わせて造ったのだ。


 パテシエの美羽は、とにかく細かい作業が大好きだった。

なので繊細な飴細工やフルーツカット、クリームのデコレージョンで見た目が美しいスイーツが評判だった。

 また舌がとても繊細で、卵の味の違いや気温による食材の味の変化、旬な果実の味わいが敏感に分かるので、その都度食材の分量を変えながらスイーツを作った。

そんな細かな配慮が、ラ・ブリエールのファンの心を掴んで離さないのだ。

最近では、彼女たちの息子がケーキ屋を継いだため、美羽は店を息子に任せてパテシエ学校の臨時講師や料理教室の講師などをしていた。

美味しいものを人に伝える仕事にも携わっていた。


 その一方で、酒屋の正輝も美羽と同じにとても繊細な舌を持っていた。

実は、酒屋ではあるが酒はあまり飲めなかった。

詳しく言うと、酒は大好きだが体質的に量が飲めないのである。

だから正輝は、試飲をする時にゆっくりと時間をかけて酒を味わう。

口に含んだ時の味、喉を通る感覚、鼻から抜ける香りを細かく分析しながら飲むのだ。

なので、酒が大好きで沢山飲めるお客さん、あまり舐めないけど少し酒を楽しみたいお客さんなど色々な人の目線で、酒の話ができた。

また、正輝は人と話すのが大好きで、とっても話し上手、聞き上手だった。

そんな店主がいる店は連日美味しい酒を求めて通うお客さんで繁盛していた。


ラ・ブリエールはこの町たちにとても愛されていた。







 

 




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