ED 現実化する僕らの青春《リアライズ・オンライン》

 俺は自分が『青き疾風』であることをバラしてしまったが、意外なことに俺の日常生活は変わらなかった……なんてことはなく、すっかり慌ただしいものに変わってしまった。


「おい! そっちにいたか!?」

「いや、こっちでは見てない!」


 体育館裏からこっそり校舎の方を覗き見る。

 ほっ、何とか逃げ切れたみたいだな。


「全くしつこい奴らだ……」


 いつものように堂々と正門から学校に入った瞬間、ものすごい数の生徒に囲まれてしまった。あの激戦が終わってから三日経つのにまだ追いかけて来やがる。おかげで昨日も一昨日も学校で休める時間がなかった。


 会う生徒みんな口々に「俺とバトルしてくれ!」だの「話聞かせて!」だの「一緒にリアオンやろ!」だの言って来るので、何とかその輪から抜け出し、俺の聖域である体育館裏に逃げて来たってわけだ。


「はあ、どうすっかね……」


 前二日の経験から察するに、俺の教室の前には人が待ち構えていることだろう。正門と裏門も塞いでいるだろうから学校から抜け出すことも出来ない。


「しょうがない。授業が始まって人がいなくなってから教室に行くか……」

「あ、ここにいた」

「んぇ!?」


 驚き振り返ると、そこにはくすくすと笑みを浮かべる怜奈さんがいた。

 そういえばこの人にはこの場所がバレてたんだっけな。


「行ってあげないのですか? みなさん貴方を待ってますよ」

「みんな珍しいもの見たさだろ。もう少しすればみんな飽きるだろ」

「……それは少し違うと思いますよ」

「へ?」


 怜奈さんは優しく、語りかけるように俺に言う。


「今の空さんは、彼らにとってのヒーローなんですよ。みんなあの戦いを見て貴方に憧れたんです、あなたがあの人に憧れたように、ね。きっとみんな少し手合わせすればみんな満足しますよ。空さんだって小さい頃ヒーローに握手やサインを欲しがったでしょ?」

「ん……まあ、たしかに」

「でしたら、やることはひとつですよね」


 そう言って怜奈さんは俺の背中をトン、と優しく押す。

 ……はあ。この人には敵わないな。


「しょうがない。ファンを楽しませるのもヒーローの義務だからな。ちょっと行ってくるわ」

「はい。頑張ってくださいね」


 ファン一号に見送られ、俺は新たなファンたちの前に躍り出る。

 すると来るわ来るわたくさんの人が。あれ? なんか他校の生徒もいねえか? ていうか教師までいるじゃねえか、取り締まる側だろお前は。


「俺俺! まずは俺とバトルしてくれよ!」

「分かった分かった! 逃げないからひとりづつかかって来やがれ!」


 i-VISアイヴィスを装着し、俺は一人の生徒と対峙する。


 正直俺が彼らのヒーローになったという実感はない。


 でも俺の腕を見たいのなら存分に見せてやる。憧れの人にも勝ったこの腕前だけは、自信を持って誇れるから。


 ――――だから俺は今日も叫ぶ、憧れの人から受け継いだその名前を。


i-VISアイヴィス起動! ブルーニンジャ、現実拡張リアライゼーション!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る