EP8 鍛冶師ナゴイ《ストレンジ・ブラックスミス》
「いらっしゃい空さん。今日もい〜い武器、ありますよお」
武器屋に着いた俺たちを出迎えたのは、バンダナを頭に巻いた若い男のNPCだった。
こいつは鍛治士の『ナゴイ』。忍びの里の武器と防具は全てこいつが作った……という設定になっている。忍者の持つ武器と防具の性能は非常に高く、もちろんそれを作ったこいつの鍛治士の腕前も超一流だ。
なのでナゴイの鍛治士としての腕を独占できる俺は、他のプレイヤーたちよりもだいぶ有利なのだ。
「武器ですか? 防具ですか? なんでも作りますよお」
腕は確かなのだが、このねっちょり声はどうにかならないものだろうか。鼓膜に張り付くような感じでなんとも気持ち悪い。
「新しいのはいらない。この前渡した錆び武器、もう出来てるだろ?」
「ああ、あれですね。ちょっとお待ち下さい」
ナゴイは工房の奥をゴソゴソと探ると、俺が預けていたそれを机の上にゴトリと置く。
「我ながらばっちり復元できましたよぉ」
「へえ……!」
机の上に鎮座するのはピカピカに磨き上げられた籠手。銀色に光るその籠手には竜の装飾が施されており実にかっこいい。
「空さんこれって」
「ああ、この前竜の渓谷にあった宝箱から出た錆びた手甲だよ。ナゴイに研磨を依頼してたんだ
そろそろ終わったかなと思ってたんだけどドンピシャだったな」
「ふふ、以心伝心ですねえ」
ちなみに最後の言葉を言ったのは怜奈さんじゃなくてナゴイだ。こいつとも長い付き合いだが昔から妙に距離感が近くて気持ち悪いんだよなあ。悪い奴じゃないんだけど……。
「ささ、ぜひ装備してください。その子も喜びますよ」
「おう、じゃあさっそく」
装備していた『忍ノ小手【葉隠・極】』を外し、ナゴイが仕上げた『竜炎の籠手』を装備する。
左手には竜の頭部、右手には竜の爪の形を模した装飾がある。うん、実にかっこいい。色も派手すぎないシルバーで俺好みだ。
「いい色でしょお。空さんが好きな色にしましたからねえ」
「……そらどうも」
一瞬捨てそうになったが、すんでの所で踏み止まる。この武器自体は悪くない、悪くないのだ……。
俺が葛藤していると、ナゴイは怜奈さんに視線を向ける。
「お嬢さんは何か買われますか? お安くしますよお」
「え? 私ですか? 余所者なのに買い物などして大丈夫なのでしょうか……?」
困惑する彼女。悪いとは思いつつも買い物はすごいしたそうだ。
まあ俺も初めてきた街はまず武器屋を見に行きたくなるからな。気持ちはよくわかるぜ。
「買い物くらいいいんじゃないか? 駄目だったら里長が来るだろ。あの人地獄耳だから」
「そう、ですか? では少し……」
少しと言いつつ、怜奈さんはガッツリ買い物していた。廃人の俺から見てもかなりお金を使っているように見えたぞ。お金持ちはゲームの中でもお金持ちなのね。俺は稼いでも直ぐに使ってしまうので一向に貯まることはない。
「ふふ、たくさん買ってしまいました」
嬉しそうに笑う怜奈さん。彼女はメニューウインドウで時間を確認すると、俺の方を向く。
「もう夜の一時なのですね。時間が経つのは早いものです。私はそろそろ就寝しますが空さんはまだ続けるのですか?」
「んー、俺は朝までこの装備の試運転とスキル見直しをしようかな」
「あ、朝までですか? 明日は大会なのですから寝ないと駄目ですよ」
心配そうに言う怜奈さん。まあそりゃ普通は心配するか。
だけど俺は自他ともに認めるゲーム廃人。そこらの人間とは体の作りが違うのだ。
「安心してくれ怜奈さん。ちゃんとゲームの中で寝るから」
「ゲームの中で……寝る? 何をおっしゃってるんですか?」
頭大丈夫かこいつ。みたいな冷たい目で怜奈さんは俺を見る。その手の人からしたらご褒美なのかもしれないが、俺は一般的な感性の持ち主なので非常に傷つく。
「頭がおかしくなったわけじゃないから安心してくれ。あるんだよ実際にVR空間で寝る方法が」
「……しかしVR空間にいるときは脳を働かせ続けているはずです。いくらVR空間で寝たふりをしても脳は休まりませんよ」
「普通の人は、な。だが俺の108個ある廃人技のひとつ『
意識を集中。
フルダイブマシンから出る信号を感知する。ここが一番難しいが、それさえ出来れば後は簡単、その信号が脳に入るのを拒絶すれば簡単に意識をスリープモードになれる。
「おやすみ……………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………「起きて下さい!」
「ひでぶっ!」
いってえ! この
「ほ。生きてましたか。心配しましたよ」
「あんたのせいで死ぬほど痛い目には遭いましたけどねえ!?」
「仲がいいですねえ」
最後の言葉はナゴイだ、まだいたのかお前。
俺と怜奈さんはひとしきり騒いだ後別れ、俺は一人明日の大会に向け調整をするのだった。
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