EP6 退屈な試合《チープバトル》

『ここでがんもどき選手のパワースラッシュが炸裂ゥ! ryo選手はたまらず後退し体制を立て直す!』


 リングにめちゃくちゃ近い関係者席に移った、俺は爆音の解説を聞きながら試合を見ていた。

 大会に出るだけあってどの選手も中々上手いな。今朝学校で学生がしていたバトルとは見応えが違う。

 あれと比べて動きが良いのはもちろん、その武器や防具、覚えているスキル……いわゆるキャラ構築ビルドも考えられたものになってる。


 リアオンには複雑且つ奥深い育成要素があり、百人がキャラを作れば百通りの構築ビルドが出来る。

 職業ジョブ特殊技能スキル、武器、防具。その組み合わせは無限大であり、最適解など存在しない。ある人にとっては最高の構築でも違う人からしたら使いにくい構築ビルドであることも多い。その奥深さもリアオンの魅力のひとつだろう。


 リアオンの素晴らしさを再認識し、ひとり頷いていると、隣に座る銀城さんが話しかけてくる。


「あなたはこの試合どう見ますか?」

「へ? あーそうだな……」


 試合に目を移す。

 今押してるのは「がんもどき」というPN《プレイヤーネーム》の選手。かなり巨体のキャラを扱っており、装備は防御力の高そうな重鎧と巨大な斧。典型的なゴリ押しパワーキャラだ。

 脳筋ビルドはよくある構築だが、これはこれで中々侮れない。特にこの狭いリングの中ではその力は十二分に発揮される。


 それに対するは「ryo」という選手。彼は軽そうな革鎧に身を包み、右手に赤い刀身の湾曲刀シミター、左手に円盾バックラーを装備しており、軽快な動きでがんもどきの攻撃をやり過ごしていた。

 攻守バランスの取れたいわゆる万能戦士型ビルドってやつだな、抜きん出た長所こそ無いが様々な相手、局面に対処出来る。


「順当に行けばパワータイプのがんもどきが勝つだろうが、相手に完全に動きを読まれている。こりゃryoってのが勝つだろ」

「……なるほど」


 俺の予想通り、ryoはがんもどき渾身の縦振りを回避すると、相手の首元、しかも鎧の隙間の肌が露出した箇所に剣を滑り込ませた。リアオンでは命中部位によりダメージ量が変わる。もちろん首に直接刃が当たればそのダメージは文字通り致命傷となる。

 HPが一気にゼロになったがんもどきのキャラは、光の粒子となり霧散し、リング上にはryoのキャラのみが残る。


『がんもどき選手の強烈な一撃を躱し、みごとryo選手が勝利! なんと鮮やか! なんと優雅! みなさんryo選手に最大の拍手をお願いいたします!』


 実況がそう煽ると観客席から物凄い歓声と拍手が鳴り響く。するとその中央にいるryo選手が整った顔に笑みを浮かべながら手を振って応える。


「きゃー! かっこいいー!」

「こっち向いてーーーっ!」


 すると漫画で見たことあるような黄色い歓声が会場内から聞こえる。

 確かにあのryoという選手はイケメンと呼ばれる人種だ。歳も二十代前半と若いので女性ファンはそりゃ多いよな。

 いけすかない野郎だぜ。ゲームは・・・・あの程度なのに・・・・・・・


「どうでしたか、今の戦いを見て。彼に勝てそうですか?」

「彼って今勝ったryoって奴の事か? まあそりゃ……勝てるだろ」


 そう答えると、銀城さんはその端正な顔に意味深な笑みを浮かべる。いったいどうしたっていうんだ、俺なんか変なこと言ったか?

 腕を見る限りここにいる選手はアマチュアの人たちだろう。だってあの程度なら俺のがずっと強い。長年リアオンをやり込んでたんだ、腕前は少し見りゃ分かんぞ。


 そんなことを考えていると、リング上のryo選手がこちらを見て驚いた表情をする。そして笑みを浮かべながら近づいて来て、俺……ではなくその隣にいた銀城さんに話しかけてくる。


「おや、こんな所で会えるとは思いませんでした。お久しぶりです銀城さん」

「ええ……お久しぶりですね」

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