EP5 新式秋葉原円蓋会場《ネオアキバドーム》
リニア
着いた駅の名前は『ネオ秋葉原駅』。VR機器とナノマシン機器のパーツを販売するショップがたくさんある、マニアの聖地だ。俺もいいマシンやチップを見に、月に一度は来る。
「何だってこんなところに来たんだ? 何度も言ってるが俺はそのチームとやらに入る気はないぞ」
「こちらです、来て下さい」
「……はいはい」
美少女に振り回されるという体験は世の野郎どもからしたら羨ましがられる経験なのかもしれないが、実際にやられてみると中々フラストレーションが溜まるもんだ。
どんどん先に行ってしまう銀城さんを置いて逆方向に逃げ出したくなるが、あの人には最大級の
「はあ、仕方ないか……」
力なくそう呟き、彼女の後を追う。
「おい、いい加減どこに向かってるか教えてくれよ」
「ここです」
「ここって、これか……?」
目の前にそびえ立つのはネオ秋葉原最大の名所『ネオアキバドーム』だ。
二年前に出来たこの国内最大規模の大型ドームでは様々なイベントやスポーツ、ライブなどが連日行われており、この街の顔とも呼べる建物だ。
「入りますよ」
「お、おお」
何の躊躇いもなく銀城さんはドームの入り口へと足を運ぶ。当然入り口で係りの人に呼び止められるのだが、会員証のようなものを掲示するとあっさりと中に入れたて貰えた。それも銀城さんだけでなく俺も一緒に。
「チケットでも持ってたのか?」
「銀城コーポレーションはここの出資者でもあります」
「ああ、なーるほど……」
資本主義の闇を見た気分だ。
しっかしなんでドームになんて連れて来たのだろうか? 説明するって言ったくせに一向に話しやしない。
「なあいい加減……」
「ここに入れば分かりますよ」
銀城さんはそう言って大きな扉を指す。
仕方ない。ここまで来たんだ、最後まで乗ってやるか。
「いったいなにが……」
力を入れ、ドームの扉を開ける。
するとその瞬間俺の体を爆音と熱気が包みこむ。
「うおっ!」
思わず声が漏れる。
容赦なく襲いかかってくるそのエネルギーに圧倒されながらも、中を覗き込む。するとその中ではたくさんの観客たちがドーム中央に向かって歓声を送っていた。
彼らの歓声の先、ドーム中央のリングにいたのはアーティストでもアイドルでもなく、戦う二人のゲームキャラだった
。
「今日はRe-sportsの大会がネオアキバドームで開かれる日なんです。ニュースでも取り上げられてたのですが見ませんでしたか?」
「そういやチラっと見たかもしれないが、気にも留めなかったな」
Re-sportsのニュースはそれこそ毎日のように流れてくる。そのひとつひとつを覚えることなど不可能だ。だいたい俺は興味がないしな。
ゲームをやる時はひとりで、邪魔されず、自由で救われなくちゃいけないんだ。
「さ、中に入りましょう」
「お、おう」
促され中に入る。
中はガンガンにクーラーを効かせているにもかかわらず、人の熱気のせいかかなり暑かった。
「それにしても盛り上がってんなあ……」
ドームの中には絶叫にも似た歓声が飛び交っており体が揺れるほどだ。初めて会場に来たがこんなにRe-sportsってのは盛り上がってるのか。
「驚きましたか? この大会はこれでも注目度が低い大会なのですよ。世界大会の予選にもなれば熱量はこの倍以上あります」
「これの倍ねえ。想像つかねえな」
正直驚いた。
会場の様子をニュースサイトで見たことはあるが、動画や画像で見るのと実際に来るのとではその熱気の伝わり方が違う。こんなにもたくさんの人が熱狂してるのか。そりゃ世界大会が毎年開かれるわけだ。
「さ、もっとリングに近づきましょう。関係者席を取ってますので」
「ちょ、待ってくれよ! 関係者席になんて行ったら目立っちゃうだろうが!」
超情報化社会の現代、少しでも目立てば写真を撮られSNSに上げられてしまう。もし関係者席、しかも銀城さんの隣に座っている写真がクラスメイトに見られでもしたら、俺は学校に行けなくなってしまう!
「早く行きますよ」
「引っ張んなって! おい、お、ふんっ! 力強いね君!?」
腕を引っ張って無理やり連れて行こうとする銀城さん。俺は必死に抵抗するが、情けないことに力負けしズルズル引きずられてしまう。俺が弱いのか彼女が強いのか。おそらくそのどちらもだろう。
「ほ、本当に無理だって! せめて何か顔隠すものない!?」
「仕方ないですね。何をそんなに嫌がっているのか分かりませんが、顔を隠したいのでしたらいいものがありますよ」
そう言って彼女は何やら青い布のようなものを取り出し……ってこれはまさか!?
「お、おまままま。これって」
「おや、もう気づかれましたか」
「ったりまえだ! これは十年前にごく少量のみ生産された『シャドウブルーのなりきり変身セット』じゃねえか! なんでこんなお宝をお前が!?」
これは暗躍戦隊シャドウファイブが放送されていた当時、雑誌についてた応募券を送った人の中から抽選で貰えた、超激レアアイテムだ。
当時まだ七歳だった俺も、親に頼み込んで応募してもらったがあえなく落選。高校生になった今でもフリマアプリなどでたまにチェックしているが、数が少なすぎるせいで全く出回っていなかった。
もう手に入らない。そう諦めていたアレをなぜ持っている!?
「これはたまたま銀城コーポレーションの倉庫に眠っていたものです。『青き疾風』が暗躍戦隊シャドウファイブのシャドウブルーに影響を受けているのは分かっていました。なのでもしかしたらこれを欲しがるのではないかと思い、交渉材料にと持ってきたのですが……どうやら効果は覿面のようですね」
右に、左にその変身キットを揺らす銀城さん。
それにつられて俺の目線も右に、左にと自然に動いてしまう。
くそ、おちょくられてるのは分かってるが体が動いちまう。
「ふふ、ついつい遊んでしまいましたが揶揄うのはこれくらいにしておきましょうか」
「ぐ、ぐぬぬ。卑怯だぞそんな激レアアイテムで釣ろうだなんて」
「そんなに拗ねた顔をしなくてもちゃんとお渡ししますよ。はいどうぞ」
なんと意外なことに銀城さんは俺にその布を渡してくれた。実はいい人なのか!?
「勘違いしないで下さいね。今はあなたの顔を隠す必要があるのでお貸ししただけで、まだ差し上げた訳ではありませんので」
「はい……」
ガックリと肩を落としながらも俺はその変身キットを受け取る。
おお凄い……本物だ。さっそく変身しよう。
とは言ってもマスクのみ装着して頭部だけ変身するつもりだ。全身に装備したら目立っちゃうし、何よりまだ俺にはこれを全身着る資格がない。もっと心身ともにシャドウブルーに近づけたらその時こそ俺は
「行きますよ空さん」
「ちょ、分かったから引っ張るなって! 今度は行くから!」
俺は会場のすみっこでマスクを被ると、彼女について行くのだった。
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