第14話 魔女と霧と
◇◇◇◇◇◇
── ゴーン……ゴーン……
カナンの街の時計塔は今日もいつもと変わらない朝の鐘を鳴らす。
「鐘の音があんなに小さく……どうやら街からは随分離れられたみたいですね。」
マリエラはフードを少し後ろへずらすと、気持ちよさそうに風に手を当てながら街のある方向を見つめ、そう口にした。
彼女が長く縛られてきたカナンの街は、既に米粒より小さく見える。
「はー、けっこう街から離れたね。」
ラミーは少し表情を緩めてその声に答える。
「いや、鐘の音が聞こえているってことは、街からはまだ徒歩で半日程度の距離しか進んでないってことだ。今日のうちに、この倍は東へ進もうと思っている。今は距離を出来るだけ稼がないとな。」
フィンは気を抜かないよう二人に告げ、その後も東に向けてまだ進むことを告げる。
「っええ〜!?まだ進むのぉ!?」
ラミーは非難の声をあげている。
東へと進路を取ったのは、追っ手や顔バレを防ぐためである。元々フィン達の計画では、⦅カナン⦆の
──ただ、何処へ向かうか。ということはまではまだ決めてられていない。
「少し休もうよぉ。お祭りで食べたものも、もうお腹に残ってないよぅ。」
ラミーは既に体力の限界らしく、お腹も空かせている様だ。
「ラミー、腹はどれくらい空いてるんだ?」
「えっ?んーと、そうだなぁ。昼まで寝過ごしてしまったことに気がついて、何も食べないまま慌てて午後の授業に出た時と同じくらい……かな?」
「──ん、ありがとう。よくわからないけど、多分結構空いてるんだろうなってことはわかったよ。」
フィンはステータスで確認するが、ラミーのHPはまだ減っていなかった。
(うーん、空腹とHPに関連性は今のところない……か。あれ?HPとMPの値が上限を超えてるな……⦅健啖家⦆の効果ということか。)
ラミーには悪いが、こういった情報は確認出来るときにしておかなければ、思わぬことで足を掬われるかもしれないのだ。
くすくすという声に気づきフィンが隣を見ると、マリエラが俺たちのやり取りを見て笑っていた。
「本当に、お二人は仲がよろしいのですね。けど私も少し疲れてしまいました。神殿から幾つかパンを拝借してきましたので、よろしければここで少し休息にいたしませんか?」
「やったー。マリエラちゃんさっすがー!」
ラミーは大袈裟に両手をあげ、マリエラの言葉に賛成の意思を示す。
マリエラにそう言われてしまえば断る理由もないので、フィンたちは道を少し逸れた岩の影で小休止を取ることにした。
休憩をとりながら、フィンは現在の自分達のステータスを確認していく。
⦅フィン⦆
性 別:男
種 族:
職 業:
レベル:22
H P:190(190)(金)
M P:94(94)(青)
S P:22(22)
攻 撃:189(金)
防 御:139(銀)
敏 捷:150(銀)
技 力:146(銀)
隠 密:99(青)
魔 力:83(黒)
精神力:101(青)
────────
[スキル]
⦅体術6⦆⦅剣術3⦆⦅棍棒術3⦆⦅火魔法5⦆⦅神聖魔法4⦆⦅統率:小⦆⦅薬草学4⦆
[耐性]
⦅熱4⦆⦅毒5⦆⦅呪3⦆
[ユニーク]
⦅タイマン⦆⦅駿脚⦆⦅自動HP回復:小⦆⦅自動MP回復:小⦆⦅取得経験値up:小⦆⦅取得熟練度up:小⦆⦅取得絆量up⦆⦅念話⦆
⦅ラミー⦆
性 別:女
種 族:
職 業:
レベル:20
H P:195(168)(金)
M P:32(24)(黒)
S P:20(20)
攻 撃:169(金)
防 御:78(黒)
敏 捷:200(虹)
技 力:174(金)
隠 密:132(銀)
魔 力:28(黒)
精神力:45(黒)
────────
[スキル]
⦅体術3⦆⦅短剣術5⦆⦅罠探知3⦆⦅気配探知5⦆
[耐性]
⦅毒3⦆⦅痛覚2⦆
[ユニーク]
⦅野生の嗅覚⦆⦅健啖家⦆⦅念話⦆
フィンは、カナン周辺の獣を狩っていたからレベルが2上がった。
ステータス的には微増といったところだが、スキル熟練度は体術と火魔法が1ずつ上昇していた。
体術については、基本的に狩りで使用していたからだろう。火魔法については、収穫祭の儀式での演出のために結構な練習を重ねた成果が出たようだ。
一方で、ラミーのステータスは転生以降殆ど伸びていない。変わったところいえば、気配探知のスキルが伸びているということと⦅念話⦆が使えるようになったということ。あとは、⦅健啖家⦆の効果でHPとMPの現在値が本来の上限を超えているということだろう。収穫祭で爆食いしたせいだ。(まあ、一時的なものではあるが)
次に、マリエラのステータスについてだ。
⦅マリエラ⦆
性 別:女
種 族:
職 業:
レベル:12
H P:82(82)(銀)
M P:108(108)(金)
S P:12(12)
攻 撃:81(銀)
防 御:58(青)
敏 捷:83(銀)
技 力:103(金)
隠 密:54(青)
魔 力:108(金)
精神力:108(金)
────────
[スキル]
⦅弓術6⦆⦅風魔法4⦆⦅神聖魔法5⦆⦅薬草学4⦆
[耐性]
⦅冷3⦆⦅毒4⦆⦅呪4⦆
[ユニーク]
⦅森の女神の加護⦆⦅自動MP回復:小⦆⦅念話⦆
マリエラはレベルがまだかなり低い。⦅カナン⦆に長く留まっていたこともあって、森を出た時のままなのだろう。
一方で、魔法関連のステータスとスキル熟練度は軒並み高い。あと、弓の熟練度は6と、かなり高かった。流石はエルフである。
自動MP回復を持っていることもあり、魔法と弓を中心の遠距離スタイルでの戦いに期待できそうだ。
(やはり、改めて見てみると、俺のスキル構成ではラミーよりもマリエラを⦅パートナー⦆にした方が、序盤は安定する様な気がするな。)
今回の周回では運良くマリエラと合流できたが、転生後の転移先が今後もランダムだとしたら、下手をすればパーティーが
それに、これからの行き先についても考えねばならない。
東へ向かうと決めたものの、目的地を何処にするかはよくよく考える必要がある。
そこで、フィンは今のメンバーの状況や目的を一旦整理することにした。
フィンは、この周回でできるだけ強くなって、災厄の情報を可能な限り集めたいと考えている。
ラミーは、とにかく冒険がしたい。また、学園都市編での発言から、いずれは6大陸に一つずつ存在すると言われる6大ダンジョンの踏破を目標に考えているはずだ。
マリエラは、冒険者になりたい。しかし、彼女は冒険者登録もまだできておらず、追われている身だ。また、彼女はこの周回では本来仲間にはならないはずのキャラクターであり、目的や思考がゲームの時とは違っている可能性が高い。
(ううーん。考えれば考えるほど、何をすればいいのか纏まってこないなあ。)
とはいえ、まずは大きな街へ向かうべき。という方針は維持して良いだろう。災厄との遭遇を考えれば、フィンたちのパーティが単独で行動している現在の状況は、かなりリスクが高いと考えておかねばならない。
「よし。何はともあれ、そろそろ出発するか……」
まだ状況がうまくまとめられていないが、いまはまず行動あるのみだ。
フィンが立ち上がって出発の時間が来たことを仲間に告げようとした時……突然辺りが暗くなった。
──……ゾクリ!!
その瞬間、フィンの首筋に嫌な寒気が走る。
「ど、どうされたのですか?」
マリエラが、直ぐにフィンの異変を感じて声をかけてくれる。
「い、いや。急に悪寒がして……」
彼女の問いに答えようとすると……
「はぁ〜ん、やっと……見つけた。」
突如、俺たちが背にしていた大きな岩から、ひどく甘ったるい調子の女の声が聞こえてきた。
「もう、随分探したのよ?急に居なくなるなんて、少し意地悪が過ぎるんじゃないかしら?
ねぇ、
その声にフィンが振り向くと、岩影からスッと長い脚が伸びて来る。それに続き、長身の美女が姿を現した。
彼女が身に纏っているのは、正面が大胆に露出しており、腰下まで伸びる長いスリットの入った漆黒のローブ。その襟元と袖口には、金色の蔦の様な紋様が施されている。
彼女はフィンを見つめながら、彼の方へと真っ直ぐに歩み寄ってくる。
そして彼女の背後には……
あの、
◇◇◇
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