第13話 祭りのあと
◇◇⦅金色亭⦆2階 自室──
収穫祭での騒動の後、フィンとラミーはそそくさと広場を離れ、金色亭の自室へと戻っていた。
「うまくいったね!これでマリエラは⦅豊穣の女神⦆の責務から解放されるはず!」
ラミーは嬉しそうだ。
「まあ、うまく運んだほうだとは思うが。ぶっちゃけあの果実を見せてしまったのは誤算だった……」
「……う、うん。胸がすごいすっきりしちゃって……きっと、辛いよね。」
「い、いや。それもあるが……あれは物凄く貴重なものだ。
それこそ、こんな辺境の住民でさえもその存在を知っているくらいの……」
「つ、つまり……」
「そうだ。マリエラはこれから色んな奴に狙われることになったって事だ。」
「ええ!?それって大変じゃない!なんであんな大勢の前でそんなの見せちゃうのよおおお!!」
ラミーは事の重大さがわかったのか、顔を青くして叫んでいる。
「もうあまり時間はないぞ?幸い、マリエラと俺たちに接点があることはあの場では知られていない。」
「うんうん。そうだね……その通り」
「だが、この1週間のうちに俺たちがマリエラの事を調べていたって知っている奴は大勢いるんだ。」
「……そ、そうだった……色んな人から情報収集しちゃったし、もう誰に声を掛けたかも覚えてないよぅ……!」
「そうだな。と、いうことは仮に俺たちが今マリエラを匿ったとしても、いずれはすぐに居場所がバレて襲われるかもしれないってことだ」
「……つ、つまり?」
「仕方がないが、今夜中にこの街を出る。早く荷物をまとめろ。幸い、今はまだ広場は大宴会の最中だ。この混乱に乗じて街を抜け出すのはそう難しくないはずだからな」
「アイアイサー!」
そう言うと、ラミーはフィンに向けて敬礼をするフリをしてから荷物をまとめだす。
「出来ましたセンチョ〜!」
が、ぶっちゃけ2分とかからずラミーの荷造りは終了する。
彼女は基本、食べるものに全ての金を使っているから自分の持ち物は身につけているもの以外に基本的にないのだ。
「……よし。じゃあ、ラミーは先に神殿へ向かってくれ。⦅野生の勘⦆に頼れよ?あと、⦅念話⦆は繋いでおくから、何か不審な動きがあったら直ぐに教えてくれ」
「わかった!じゃ、またあとでね!」
そう言うと、ラミーは窓から飛び出して屋根の上を伝い、神殿の方へと走っていった。
「──いや、ラミーさん。別に普通に大通りを通っていけば良かったんではないでしょうか?」
部屋に残された俺は、ノリノリで窓から飛び出していった相棒に独りツッコミをいれつつ荷物をまとめ、宿を引き払う手続のため階下に向かうのであった。
◇◇◇◇
⦅地母神⦆の神殿──
「ぅぅ、儀式を途中でやめちゃったこと、めちゃめちゃ怒られてしまいましたぁ……」
マリエラは、長い神殿の廊下をとぼとぼと歩いて自室へ向かっていた。
あの騒ぎの後すぐに、マリエラは神官長によって呼び出され、小一時間ほどこっ酷く叱られたのだ。
また、明日の朝真っ先に一連の騒動について⦅レーヴェン⦆の大神殿まで報告しに行くように命ぜられたため、今は少し気落ちしている。
自室への廊下を曲がった先で、どこかの窓が開いていたのか、空気が流れるのを感じた。
ハッとして振り向けば、ふわり舞うカーテンの裏に、誰かが隠れるのがハッキリと見えた。
「だ、誰なのですか?」
マリエラが声を上げると、少し間をあけてカーテンからオレンジの髪をした
「あはは、バレちゃいました?」
人虎の少女の顔には見覚えがあった。確か、街で出会ったラミーという少女だったはずだ。
「ラミーさん?どうしてこんなところで……それより、誰かに見つかると大変ですよ!」
マリエラが声を殺して近づくと、ラミーはぺろりと舌を出して笑いながら返した。
「いや、それを言うのはあたしの台詞だよ。マリエラ、あたし達と一緒に行こう。貴女はこれから狙われる。」
「────!? ど、どうしてですか!?」
「あ、やっぱりマリエラちゃんも直ぐには分かんないよね!?良かったぁ。あたしが馬鹿なんじゃないかと思ってたけど違うよねぇ!」
ラミーは食い気味でマリエラに縋り付く
「い、いえ。話が読めませんが……どう言う事でしょう。」
マリエラが難しい顔でラミーに問いかけると、ラミーは改めて彼女が危険な理由を説明した。
「いや、あたしの相棒がね?さっきの果実はなんか物凄く貴重なものだから、あれを見せてしまった以上、これからマリエラは大勢の有象無象の族に狙われるだろうって教えてくれたんだ。」
「────!」
「ごめんごめん、ちょっとショックだよね。だからね、あたし等のパーティに加わって欲しいんだ。おっと、心配ご無用。あたし等はそこら辺の柔な冒険者よりよっぽど強いよ?
ただ、回復役が居なくてねぇ。ほら、冒険って怪我や病気になった時、直ぐに手当てできるかどうかで全然危険度が違うからさ、ちょうど探してたんだ。」
「そ、そうでしたか……」
マリエラは、しばらく考える素振りを見せたが、すぐにラミーに向き直って返事をする。
「わかりました。私、ラミーさん達を信じます。それに、儀式のとき私に話しかけてくださったのは、貴女でしょう?」
「……はは。やっぱり、解っちゃった?」
ラミーは観念したようにたははと笑う。
「そりゃあ、最後の方は完全に女神様の演技じゃなくって、今私と話をしているラミーさんそのものでしたもの。」
そう言うと、マリエラもくすくすと笑った。
「先程は、ありがとうございました。本当の私の気持ちに気づかせてくれて。──そして、今も。危険な中、私を気遣って直ぐに駆けつけてくれたのでしょう?」
「い、いや。あたしはとりあえず、フィンの言う通りに動いただけで……そ、そんな感謝されると照れちゃう……ていうか、こちらこそ、ありがとうございます」
ラミーはしどろもどろになりながらもマリエラに手を差し出す。
「いつかもこうして、私に手を差し出して下さいましたね。」
そう言うと、今度こそマリエラはラミーの手を取ってこう言った。
「ラミーさん。私を貴女達のパーティに加えて下さい。まだまだ未熟な身ではありますが、一応エルフの里を出て行くことを認められた私です。きっと力になりましょう。」
「うん、ありがとうマリエラ!これからよろしくね!」
「はい、こちらこそ!」
二人は笑顔で固く握手を交わし、こうしてマリエラはフィンたちのパーティに加わることになった。
◇◇◇◇◇
一方その頃、神殿の外──
「ぶぇっくし!さ、さみい」
─おーう、兄さん風邪かい?気をつけなー
─あ、どーもー
「……風邪、引いたかな?……ステータス」
…………?
「……まあ、よくやったラミー」
ステータス画面でマリエラがパーティに加入したことを知るフィンなのであった。
◇◇◇
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