第4話 慟哭
◇◇◇◇◇◇
約1時間後──
ゼェゼェと肩で息をする彼女のオレンジの髪は、まるで炎のように逆立っていた。
顔や脚には無数の生傷ができており、全身の至る所に血が滲んでいる。
「ハァ、ハァ、もう……この辺りの、はずなん、だけど……」
息も絶え絶えになりながら、少女は傍らの青髪の冒険者に目的地に到着したことを告げる。
「……わかった。皆聞け、ここが目的地だ!災厄が近くに潜んでいるかも知れない、これから手分けして探し出すぞ!また、黒髪の少年が既に災厄と交戦している。もし災厄と同時に彼を見つけた場合には、彼の保護を優先するように!
これからは3人一組で行動し、発見次第すぐに他組の者に知らせろ!では行け!」
男の指示を聞いた冒険者たちは、すぐに幾つかの組に分かれて森へと散っていく。
◇◇◇
冒険者達を見送ったあと、ラミーはふらふらと覚束ない足取りで木々の間を通り抜けていく──
(──血の匂い……)
向かう先は、そこだけ木々が途切れ、少し開けた広間のような場所
(神様……どうか、どうか──── )
……────ッ!
そこには、つい1時間前に自分を災厄から逃がし、無事を誓って分かれた少年が、変わり果てた姿で横たわっていた
少年は既に──息をしていなかった
「──ぁぁ……あああ!!!!」
彼の居場所も、結末も、彼の亡き骸を見つける前から彼女には分かっていた。
でも、信じられなかった。信じたくなかった。
「……んで……。なんでよ……。」
少女は、少年の隣に崩れ落ちた。
彼と過ごしたこれまでの記憶が、涙と共にどんどん溢れてくる。
◇◇◇◇◇◇
彼と⦅パートナー⦆になることを提案したのは少女の方だった。
生まれて初めて里を離れ、学園都市で過ごした2年間は彼女にとって素晴らしい時間だった。
そしてその時間の大半に、彼が、ファーストがいた。優しい匂いのする少年だった。
成績では常にビリを競い、お互い軽口を叩き合う仲ではあったが、2人揃ってなんとか卒業の日を迎えるころには、少女の胸には彼への恋心が芽生えていた。
しかし、彼女は気が付いていた。
彼は、他に決めた人がいるのだろうということを。
時折見せる寂しそうな表情を彼女は見逃さなかった。
それでも2人で色んな冒険をして、素晴らしい経験を、これからずっと共有していけば……。
2年後、いや、10年掛かったっていい。いつかは彼の胸にも自分への恋心が芽生えるかもしれない。
そんな淡い期待は、転移門を潜ってすぐ、冒険と呼ぶにはあまりにも短すぎる時間のうちに、災厄によって壊されてしまった。
◇◇◇◇◇
少女は少年の亡き骸へ縋りながら懇願する。
「──ねぇ、起きなよ。もう、蹴ったりなんて……、しないからさ」
彼はもう、笑わない。
「絶対死なないって約束は……、なんだったのさ」
彼はもう、約束をしない。
「うああああああああ!!!ファーストの馬鹿ぁぁぁ……」
──その声に応える者はもう、永遠に失われてしまった。
◇◇◇
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