ギャルゲーの友人ポジションに転生したので、全ヒロインを最速攻略する!

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第1話

 近年『ゲームの◯◯に転生したら〜』というライトノベルが色々出ている事は知っていたが、俺はまさか自分が似たような境遇に置かれるとは思いもしていなかった。


 ある朝目が覚めると、それまで社会人だった俺は中学三年生の少年になっていた。

 初めはわけがわからずに混乱していたけど、しばらくするとまるで二度目の人生を経験したかのように、新しい自分の記憶が甦ってきた。


 中学三年生の俺の名前は横山タケオ。

 特筆して語る事のない、ただの中学三年生だ。

 伝説の勇者の血も引いていないし、バトル漫画みたいな特殊能力も持っていない、本当に普通の中三男子である。


 普通はこういうシチュエーションって、何か特別な人間に転生するはずなんだけどなぁ……って思いながら無難に中学生活を送っていたのだが、進学する高校を選ぶ時期になって、俺に大きな転機が訪れた。


「私立パレット学園高等部……?」

 学校で配られた高校の学校案内の中に、明らかに異彩を放つカラフルなものがあった。

 それを見た瞬間、社会人だった俺の記憶がほじくり返され、全てを理解した。


「ここは……ギャルゲーの世界か!」


 私立パレット学園。

 それは、俺が元いた世界でギャルゲー全盛期に大流行した『カラフルメモリーズ』というゲームの舞台である学校の名前である。俺も学生時代にプレイした事があるのですぐにわかった。


 これは間違いない! 俺はこれから様々な美少女達とウハウハな高校生活を送るのだ! と思ったが、そこでもう一つ思い出す。


 横山タケオ。

 ありふれた名前過ぎてこれまで何も思わなかったが、確かこの名前は———


「俺、主人公の友人ポジションじゃねぇか!!」


 そう、カラフルメモリーズには主人公以外の男キャラが殆ど登場しないのだが、主人公のお助けキャラとして、女の子の好きな物や、よくいる場所を教えてくれたりする三枚目の友人キャラが出てくるのだ。そいつの名前が確か横山タケオだったはずだ。


 なんてこったい……。

 せっかく薔薇色の高校生活が待っていると思ったのに、俺は三年間検索サイト代わりに使われて、主人公がモテモテな様子を指を咥えて見てなきゃいけないのかよ……。


 いや、待てよ。

 別に俺がゲームの横山タケオと同じ運命を辿らなきゃいけないという道理は無いはずだ。なんらかの強制力が働くのであれば仕方ないが、もしそうでないのであれば———


「主人公の代わりに俺がヒロイン全員を最速攻略してやるぜ!!」


 こうして俺は大きな野望を胸に抱き、数ヶ月後、私立パレット学園へと進学したのだ。


 ☆


 入学初日———

 入学式の段階で俺は異常に気付いた。

 体育館にズラリと並ぶ生徒達の中に、ピンク、緑、青など、昭和のパンクロッカーも驚くような、明らかに髪の色がおかしい女子が何人かいるのだ。

 遠目でわからないが、多分あれがヒロイン達なのだろう。

 というか、他の生徒達を見ても髪の色がどう考えても明る過ぎる。パレット学園は進学校であるにも関わらずだ。むしろ黒髪の生徒を探す方が難しいくらいだ。

 まぁ、髪の色はいいか! 何はともあれ、ここから俺の本当の人生が始まるのだ!


 ☆


 入学式が終わると、俺を含む新入生達はオリエンテーションのために教室へと移動した。

 確か俺はこれから隣の席に座る主人公と顔を合わせるはずだが、絶対に自分から声を掛けるもんかと誓っていた。下手に仲良くなるとゲームの横山タケオと同じ運命が待っているかもしれないからだ。


 しかし———


「うわっ!?」

 指定された席に着こうとした俺は思わず悲鳴をあげた。

 なぜなら隣の席に座っている奴には、怪談話ののっぺらぼうのように顔がなかったからだ。そして、そいつはまるで後光が差しているかのように、異様な存在感を放っていた。

 なるほど、カラフルメモリーズは小説のようにただテキストを読み進めるタイプではなくて、プレイヤーが自らを投影して学園生活をシミュレーションするタイプのギャルゲーだ。だから主人公の顔グラフィックが存在していないのであるが、まさかこういう形になるとは……。


「ん? 俺の顔に何かついてる?」


 何もついてねぇんだよ!

 というツッコミはさておき、向こうから話しかけられたのなら返さないのは失礼なので、適当に誤魔化してから軽い挨拶を交わしておいた。


 ☆


 放課後になると、俺はまず音楽室へと足を向けた。

 なぜかというと———


 ポロロン〜♪


 音楽室からは流暢なピアノのメロディが聞こえてくる。

 俺の記憶だと確かここにはゲーム内で唯一の三年生ヒロインであり、ピアニスト志望の紫原麗華先輩がよく出没するのだが、彼女は三年生なので一年目に攻略しなければ卒業してしまって専用エンディングを迎える事ができなくなるはずだ。だから俺はまず彼女から攻略しようと考えて音楽室にやってきたというわけだ。


 ガララ


 俺がドアを開けると、案の定音色の主であった紫原先輩はピアノを弾く手を止めて、こちらを見た。

 ダークパープルの長い髪に、キリッとした吊り目、モデルのようなスマートな体型、間違いなくカラフルメモリーズの紫原先輩だ。


 そして、俺が彼女を認識した瞬間————


 なんだこれ!? 脳内に紫原先輩のデータが一斉に流れ込んでくる。なるほど、これが『友人ポジション』の能力なのか! しかしスリーサイズまでわかるとは恐ろしい……。よし、この能力で全ヒロインを攻略してやるぜ。


「……何か?」

 紫原先輩は入り口に立つ俺に冷たい声を投げる。

 これは凄い、声までゲームのまんまである。


「いやー、校内見学してたらピアノの音が聞こえてきたもので。お上手ですね」

「校内見学って事は一年生ね。別にあなたに褒められるために弾いていたわけじゃないわ……」

 性格も設定通りにクールなようだ。

 ゲームではここで主人公が謝って、二、三言交わしてから出会いのイベントが終わる。しかし、能力を持つ俺は奴とは一味違う!


「先輩、良かったら一曲弾いてくれませんか?」

「いきなり何? 私は練習で忙しいんだけど」

「俺、ベートーベンの『月光』って曲が好きなんですよ」

 月光というワードに、紫原先輩はピクリと反応した。

 それもそのはず、これはイベントをある程度進めると判明する、紫原先輩が一番好きな曲なのである。


「……いいわ」

 俺の思惑通りに、紫原先輩は月光を弾いて聴かせてくれた。しかし、俺のターンはまだ終わってはいない。

 月光を弾き終わった先輩に俺は言った。


「ありがとうございます、とても良い演奏でした。でも……」

「何?」

「何か惜しい気がして。なんていうか、音色に感情が乗ってないっていうか……」

「えっ」

 紫原先輩の顔にわかりやすく動揺が浮かぶ。

 俺の発言は一見失礼で悪手なようだが、これは実は攻略において正解なのである。


「あなたにもわかるのね……。先生にもよく言われるの、『あなたのピアノには感情がこもってない』って」

 そう、紫原先輩は技術は一流だが、そういう悩みを持っているのだ。因みに俺は元の世界でもこちらの世界でもピアノなんて習った事もないし、もちろん音色に感情が乗っているかどうかなんてサッパリわからない。


「初対面のあなたにこんな事聞くのもおかしいかもしれないけど……。ピアノに感情を乗せるにはどうすればいいのかしらね」

「うーん、もしかして先輩は毎日ピアノばかり弾いているんじゃありませんか?」

「えぇ、私、ピアニストを目指しているから」

「だからですよ。もっと外に出て、色々な事を経験して、色々な事を感じて、それをピアノにぶつければいいんじゃないでしょうか」

「でも、外に出るっていっても何をすればいいかわからないわ……。私はピアノしか知らないから……」

 釣竿に獲物が掛かった感覚があった。

 ある程度の攻略情報と彼女のデータを持っているとはいえ、ここまで思い通りにいくとは恐ろしい。


「じゃあ、これも何かの縁ですから、今度俺と遊びに行きませんか? 俺が先輩に楽しい事を教えてあげますよ」

 こうして俺は紫原先輩の連絡先をゲットし、デートの約束まで取り付けた。

 ちょろい、ちょろ過ぎる。

 あとはデートを重ねて、三月に行われるピアノのコンクールで素晴らしい演奏をするけれども落選する先輩を慰めればフィニッシュのはずだ!

 どうやら思った以上に簡単に俺の野望は達成されるかもしれない。


 それから俺は入学初日に出会えるヒロイン達との顔通しを済ませ、ウハウハで家に帰ったのであった。

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