第39話 信じて、時間を稼げ!
タカユキはハイドラに尻尾で思いっきり叩きつけられ勢いよく吹き飛ばされ壁にぶつかりそのまま崩れ落ちた。
「ご主人!?」
「タカユキっ!?」
ドスンと大きな音を立ててハイドラは倒れウガルルムが爆炎の中仁王立ちしていた。
「ゼルさん、ご主人を!!」
「わかったっ!」
ゼルは倒れたタカユキの元へ走りムゥは二人の方へ行かせないよう槍を構えながら立ちふさがる。
「今のお主では我に勝てぬぞ?本来の面影もないではないか…。」
今の自分ではウガルルムに勝てない、そんなことは言われなくてもわかっている、それでもここで倒れるわけにはいかないのだ。
「余計なお世話でございます、こっちにだっていろいろ事情があるんですよ。」
ギィっとウガルルムを睨みつけ、バチバチと周囲に魔力を流し放電し始める。
「まぁいい、少しくらいは楽しませてくれよ?」
ウガルルムが剣を構えムゥに斬りかかろうとしたその時、ズドンという音を立ててタルタロスが突撃してくる。
「ぬおぉぉ!」
突撃したタルタロスはその勢いのまま思いっきりウガルルムを踏みつける、さすがに不意を付かれたらしく直撃のようだった。
「どうにか間に合ったな、無事か!?」
「はい、どうにか…でもギリギリでした、ありがとうございます。」
銃を構えながらロゼッタはムゥの横に走ってきた、正面ではタルタロスがウガルルムを踏みつぶそうと全重量をかけている。
「タカユキは?」
「今ゼルさんが向かってます、あたくし達はとりあえずあの脳筋とハイドラだってまだ倒れてません、気を引き締めてください。」
「了解だ。」
ガチャンとロゼッタはライフルの弾倉を入れ替え戦闘準備をしながら前方を見つめていると、タルタロスに変化があった。
「うおぉぉ!!」
タルタロスがバランスを崩しドスンと音を立てて倒れたのだ。
「この程度どうということはない!!」
ウガルルムがその馬鹿力でタルタロスを押し返したのだ、とんでもないやつだった…。
「デタラメすぎるだろ!!」
ロゼッタがライフルを構えムゥが槍を振るう、タルタロスも再び立ち上がろうとしているがやはり分が悪い…。
「シュルルルルル~…。」
しかもダメージのけぞっていたハイドラまで再び起き上がりこちらへ向かってくるしかも怒り心頭という雰囲気だ。
「ギシャー!!」
ハイドラはまず一番近くに居たウガルルムに襲い掛かる、ウガルルムは三つの頭の連携攻撃を軽く躱しながら一番左の頭を斬りつける。
「フフフ、いいタイミングだ!!」
ウガルルムは斬りつけた頭に飛び乗り口を無理やりこじ開けた。次の瞬間起き上がったタルタロスの右ストレートがハイドラの口の中へと吸い込まれていった。
「親父!?」
ロゼッタは驚きつつもウガルルムに狙いを定めて炎の弾丸を撃ち込んでいく、しかしそれに気づいたウガルルムはそこから飛び退き真ん中の頭を蹴り飛ばしながら着地していった。
ハイドラの左の頭は口の中に入った拳がメキメキと音を立てながら奥へとめり込み口から引き裂かれて行った。
「まだ足りぬぅ!!」
そう叫ぶウガルルムは着地した瞬間を狙って攻撃を仕掛けてくるハイドラの右前足を二振りの剣でバッサリと斬り落としてしまった。
「サンダーグレイブ!!」
その瞬間一気に距離を詰めたムゥがサンダーブレスを撃つ時の魔力を槍に乗せ貫通力を上げた一撃をウガルルムの背後から仕掛ける。
「燃え上がれぇ!!」
しかし、その一撃を右手の剣から炎を舞い上げ相殺して受け止めていく。
「あーもう、この戦闘狂がぁ!!」
「言ったであろう、今のお主では我は倒せぬと!!」
ぶつかり合う二人の元にハイドラの右の頭がその牙を向けて振り下ろそうとする。
「くっそ、当たれぇ!!」
バシュンバシュンとライフルで狙い撃ち、右の頭をロゼッタは牽制しようとしていく。
「シャーーー!?」
運良くタカユキが付けた目の傷に命中しハイドラが怯んだ、その隙にムゥとウガルルムは飛び退きお互いに距離を取る。
「ナイスでございますよ、ロゼッタさん!」
「しっかし、キツいなおい!」
「ご主人もあれくらいでくたばるようなタマじゃございません!どうにか時間稼ぎますよ!!」
「任せろ!」
バキン!!
急にそのような音が聞こえそっちを振り向くと右腕が左の頭にめり込み動きの取れないタルタロスの左足関節を中央の頭が噛みつぶし、更に尻尾で胴体を叩きつけ装甲がベコベコに凹んでいくタルタロスが膝をつき今にもやられそうになっていた。
「あっちもヤバそうですね…。」
「親父も限界が近い、どうにかしないと…。」
そうしていると、ボフンと爆風を舞い上げウガルルムがこちらに向かって飛び込んでくる。
「あぁもう、空気読みやがれでございます!!」
ムゥはライボルザードを右手で柄を短く持ち替え近くに転がっていたスカルチョッパーを拾い上げ右手に槍、左手に鉈という少し扱い難そうな二刀流の形をとりウガルルムの二刀剣に対応する。
「ムゥ、離れろ!」
ロゼッタの声に距離を取るとウガルルムに向かいトライバレルから氷の散弾が飛び散った。
「なんのぉ!!」
しかし体中に氷礫を受けながらウガルルムはムゥに斬りかかる。
「くっそ、なけなしの氷散弾でもダメなのかよ!?」
「この筋肉バカがぁ!!」
ムゥも悪態を吐きながらどうにか攻撃を受け流す、しかしこちらから仕掛ける余裕は全くなかった。
「無視すんじゃねぇよ!!」
ロゼッタも負けじと弾丸を撃ち込み続けていく。どうにか時間を稼がなければ、タカユキが起き上がるまで!!
ゼルは吹き飛ばされたタカユキの元へと走った、無事を信じて。
「タカユキ!!」
周りは砕けた岩に覆われていたが奇跡的にタカユキは飲み込まれていなかった。
「大丈夫!?しっかりして!!」
うつ伏せに倒れていたタカユキを仰向けにし、膝枕の状態でゼルは呼びかけ続ける。
「起きて!しっかりして!!」
見た感じ防具はボロボロに壊れているが、本人の外傷は見当たらない、しいて言うなら擦り傷や切り傷がチラホラ見えるだけだ。
「タカユキ!起きてっ!」
呼吸も浅いがしているちゃんと生きている、でも呼びかけるしか今の自分にはできなかった…ほかに何ができる?周りを見渡すとムゥとロゼッタがどうにか戦っているのが見えてくる。
「皆、タカユキが起きるのを信じて待ってるよ…だからお願い、私も信じてるから…。」
ゼルはそう語りかけ、そっと唇を重ねた。
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