ロードストライカー~いまさら王道冒険譚~
ウィヴィル
第1話 女神とドラゴンと俺?
「…ゅじん…そろ…」
「…しも~し…」
自分を呼んでいるのか、声が聞こえてる気がする…。
「ご主人、そろそろ起きてくださいませ~?」
ご主人?自分のことだろうか?俺はゆっくりと目を開けていく…。
「あ、やっと目が覚めましたか、ご主人様?」
俺を見下ろすメイド服のような衣装を着た銀髪に金色の瞳の14歳くらいの少女がそう言いながら覗き込んでいた。
「お体の方はどうですか、違和感はありますか?」
別の方から落ち着いた綺麗な女性の声が聞こえてくる…。
「こ、ここは…?あなた、は?」
俺は目を開け、ゆっくり起き上がってみると真っ白な世界が広がっていて、そこには金色の装飾がされた豪勢な椅子に座るとても綺麗な女性がいた。周りを見渡してみるとそこには、その女性とさっきから傍で様子をみている少女と俺の3人しかいないみたいだ。
「私はエオリスと申します、女神です。ここは、そうですね、神の間とでも言っておきましょうか?」
綺麗な女性はそう言うと微笑みかけてきた。
「俺は、いったいどうして…ここに居るのですか?」
自分がなぜここに寝ていたのか記憶もなく全く分からなかった…。
「ご主人は、地球で仕事帰りに駅で電車を待ってたのですよ、そしたら酔っぱらいに背中からぶつかられてホームから落ちたのでございます。」
少女は俺にそう語りながらさらに続けていく。
「その時に運悪く電車が来て、ご主人様はバラバラのミンチになっちゃったのでございます。」
まったく理解できなかった…自分が死んでいるなど認識できないしそうしたらここで話を聞いている俺はなんなのだろう…。
「バラバラになったご主人様の魂をエオリス様がここに連れてきたのでございす。」
隣から少女がそう伝えてきた。
「じゃあ今ここに居る俺はいったい…?」
「今の貴方は魂だけの状態です。ちょっとお話があるのですがよろしいですか?」
エオリスと名乗った女性はそう話しかけてくる。
「はい、まだよくわかってないのですが大丈夫です、聞きます…。」
理解が追い付かない…自分が死んだということもいまいちピンとこないけど話を聞くしかない気はしていた。
「貴方の死を見たのは偶然だったのですが、もしよかったら別の世界に転生させて差し上げようと思うのですがどうでしょうか?」
よく読んでいた小説みたいなことを普通に言われてしまった…。
「ラノベ的なテンプレでございますよ?ご主人様!」
隣の少女がすっごくメタいことを言ってきた…。
「テンプレってそんなこと…。」
そう言いながら少女をよく見ると、その娘は黒い角に人ではあり得ない腕などには鱗のようなものがチラつき、ニコっと笑った時にちらつく牙、白銀に輝く綺麗な尻尾と明らかに人とは違う特徴がある。
「君はいったい?その角や牙は…?」
それを聞いた少女はにっと笑いながら語りだす。
「あたくしは、大地母神ティアマトーの娘!聖竜ムシュフシュ様でございまよ!!」
両手を腰にあて、自信満々に自己紹介をしてくる。
「竜なのはわかったんだけど、なんでご主人様?」
「それはですね~。」
なぜかモジモジしだして照れたようなしぐさをするムシュフシュを遮るようにエオリスが語る。
「それは転生した際、向こうの世界で貴方を助けるサポート役として差し上げようと考えているからです。」
「そんな、あたくしの身も心も貴女様の物になってしまうのでございます~。」
当の本人はノリノリな気がする。
「エオリス様はその世界でものすごく偉い神様なのですよ、その女神様があたくしを貴方の召使にって言うんですから感謝するのですよ?」
全然話についていけなかった…置いてけぼりのまま話は進んで行く。
「タカユキ様、一応このまま地球で新しい命として生まれ変わる道もまだありますがいかが致しますか?」
「タカ…ユキ…孝之っ!!」
孝之と呼ばれた時、ぼんやりしていた記憶がはっきりと蘇ってきた。
その日、いつもと同じように会社に出勤し仕事をしていたが予想外に時間がかかってしまい残業をしていた。
いつもより遅い時間に駅に向かい帰りの電車を待っていた時だった、後ろから酔っているだろう人の話し声が聞こえてきた、他人のことだし気にもせずホームに流れる電車の来る知らせを聞きながら待ち、電車のライトが目に入るくらいの時だった、急に背中にドンッ!という強い衝撃とともに俺はホームから宙に投げ出され光に包まれた。次の瞬間、さらに背中に強い衝撃を受け体も意識もどこかへ飛んでいくような感覚に襲われ、そこで記憶が消滅し気づいたときにはこの空間に居たのだった。
「俺は…電車に轢かれて死んだのか…?」
「だからミンチになったって言ってるじゃないですか~。やっと思い出したんす?」
ムシュフシュがやれやれという顔をしながらさらに続ける。
「ほら、エオリス様がこの世界で新しく生まれ変わるか今の魂で新しい別の世界に行くか選べって言ってくれてるのでさっさと選んでくださいませ?」
「なんでお前に言われてるんだよ…とりあえず聞きたいことがある。」
俺はエオリスに向き直り、どうしても気になっていることを問いかけた。
「なぜ、俺なんだ?なんのとりえもないそこらへんにゴロゴロ居るサラリーマンだぞ?選ばれる意味がわからない。」
「正直誰でもいいのです、最近の人は異世界転生にもアニメやゲームで耐性がありますし偶然貴方が目に入ったからでございますよ。」
ムシュフシュに夢も希望もない雑な答えを投げられてしまった…。
「そうですね、強いて言うなら貴方には地球に未練が無いというところですかね?」
苦笑いを浮かべながらエオリスがそう言ってきた。
「それに、異世界転生してる人はご主人だけじゃないですよ?何百年も前から結構たくさんの人が向こうの世界に行ってるのでございます。」
「それこそなんで今さら俺なんだ?転生させる必要すら無いんじゃ?」
そんな昔から異世界転生がおこなわれていたこともビックリだが、世界を救う選ばれた勇者などじゃないなら、なおさらわからなくなってしまった。
「我ら神がおこなう転生は気まぐれや偶然、事故が多いので目的は本人様にお任せしてその人が世界で起こす出来事を見守るのが楽しみなのです。」
「ちなみに、召喚方法はいろいろあって神様が転生させる場合、国が勇者として召喚する場合、異次元に飲み込まれて迷い込むなどがございますよ?」
「ほんと、いろいろあるんだなぁ…。」
そのくらいしか言えなかった、なんというか転生がすっごく雑だったことに唖然としていた。
「で、どうするか決めましたか?」
ムシュフシュが早く決めろとさいそくしてきた。
「そうですね、転生する場合このままその世界に行くことになるんですか?」
「いいえ、まずは貴方の肉体を新しく作り直して向こうの世界でも活躍できるように身体能力や魔力も強力なものを差し上げますし、もちろん言語や文字の読み書きも問題なくいたします。」
エオリス様が力をくれるというのは夢があって嬉しかった。
「え、今の俺、体無いんですか!?」
今まで会話してたし、服も着ていていろいろな感覚もあるから普通にあるものだと思っていた。
「今のご主人は霊体っていうか魂だけの状態ですよ?ミンチになったって何回も言ってるじゃないですか。」
「…そうでした。」
何回もミンチになったと言われていたのを思い出した。
「で、ご主人そろそろ決めました?」
「召使いのくせにしつこいよ!!」
「まだ貴方の召使いじゃございませんので!」
結構はっきり言ってくる竜だった。
「でも、そうですね…」
なんだかんだこんなチャンスは二度と無いだろうし考えは決まっていたようなものだ。
「その異世界に行こうと思います。」
実際、俺にはもう家族も友人も恋人すら居ない、ご飯食べて仕事してゲームしたりアニメ見て寝るだけの世界に何の未練も無いのは確かだったし生まれ変わるってことはもう俺ではなくなるということだ。
それなら俺として新しい世界でもう一度一から始めてもいいじゃないか…特典も付くみたいだし。
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