五百五十一話 気づかれない暗躍
残念ながら、プライベートビーチはプライベートではなくなっているわけで。
「はぁ? 人がいるなんておかしな話ね……ちょっと待ってなさい。うちの使用人に確認するから」
ペンションに戻って胡桃沢さんにそのことを報告したら、彼女は怪訝そうな表情を浮かべた。
やっぱり、他人がいることは想定外の事だったのだろう。すぐさまスマホを取り出して、どこかに電話をかけていた。
「あずにゃん、お昼からイベントが始まるわ!」
「あ、そうだった!! 石いっぱいもらえてガチャがたくさん回せるねっ」
「たしか、もう情報が出てたはず……わぁ! 新キャラ、かわいいわっ」
「ほんとだ……! これは絶対にお迎えしないとっ」
しほと梓はもう休憩モードに入っている。リビングのソファに座ってスマホのソシャゲに夢中だった。
せっかく海水浴に来ているのに、もったいないなぁ……と思える状況ではないのか。
ビーチにはたくさんの人がいる。他人の目が苦手な二人にとってはあまり好ましくないだろう。しかも肌を露出する水着となればなおさら、誰かに見られることは嫌がる気がした。
なので、二人のことはそっとしておこうかな。
とりあえず、ナンパされたときのことは二人にとって大した事件ではないようで、もう忘れているように見えるし……大丈夫そうなので良しとしておこう。
ひとまず、状況の整理が最優先事項だ。
というわけで、胡桃沢さんが電話を終えるのを待つこと数分。
確認が終わったらしき彼女は、不機嫌そうな顔で戻ってきた。
「ごめんなさいね……」
いきなり謝ったということは、何かが起きたということだろう。
それも、胡桃沢さんが罪悪感を抱くような出来事が。
「何があったって?」
「どうやら、SNSでこのビーチの情報が掲載されていたみたいなのよ。『普段は一般開放されていないプライベートビーチを今日だけ解放!』みたいな。それが有名インフルエンサーに拡散されちゃって、このありさまね」
SNSにインフルエンサー、か……いかにも現代らしい事態が起きていたらしい。
まぁ、たしかにこのビーチは綺麗で居心地が良い。いわゆる『映える』場所と言っても過言じゃないし、今日だけという限定的な謳い文句が若い人たちに刺さったのかもしれない。
彼らが来た理由はなんとなく理解できた。
でも、一番気になることは――この情報の出どころである。
「誰がその情報を?」
「……不明よ。拡散元の情報を探したけど、アカウントごと削除されていて見つからなかった」
「そうなんだ……意図が見えなくてちょっと不気味だなぁ」
正直なところ、俺たちが困る以外の被害がないので、目的が分からない。
ただの嫌がらせにしては手が込んでいるし、かといって悪意のようなものが感じられないから、余計に不気味だった。
「まぁ、このビーチの情報を知っているのは『胡桃沢』の関係者だろうから、まず間違いなく犯人はあたしの身内よ。本当にごめんなさいね……あんたたちに迷惑かけちゃって」
「いやいや! 謝る必要はないよ。胡桃沢さんは悪くないし」
不機嫌そう……というよりは、落ち込んでいるのかな?
普段は凛としている彼女が、申し訳なさそうにしょんぼりとしていた――
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