四百四十二話 お世話好きとお世話され好き
結月にはとりあえず、彼女の両親から連絡が来るまで中山家にいてもらうことになった。
まぁ、俺としては別に宿泊してもらっても構わなかった。
同じ屋根の下にいたところで何も起きようがないくらいに仲は良くないので、たとえ彼女の寝顔だろうが薄着姿だろうが、見たところで何とも思わない。
最近、気付いたのだけれど……俺の好みは『しほ』になりつつある。
彼女と似ているスレンダーなスタイルの少女を見ると、無意識に目で追うようになった。
彼女と似た髪色の芸能人がテレビに出ていたら、チャンネルを変える気分がなくなる。
そういうわけなので……黒髪でグラマラスなスタイルの結月は、俺の好みと正反対なのだ。
見た目も中身も、嫌いでもなければ好きでもない。興味や関心がない。
竜崎みたいに変な気分にもならないだろうし、宿泊も自由にしてもらっていい――と、思っていたけれど。
『お泊りなんてダメに決まってるじゃない。私が許可を出すわけがないわ』
『そ、それでは、わたくしはどうしたら……』
『キャンプとかいいんじゃないかしら。ほら、海とかで!』
『きゃ、キャンプはさすがにっ』
『わがままね。じゃあ、とりあえず幸太郎くんの家にいてもいいわ。でも、その間は私もずっといるからね?』
そんなやり取りが先程あった。
だから、結月の滞在は一時的なものという話でまとまったのである。
「しほさん、オムライスができましたよ~」
そして、夜になった。
しほが食べたいと言っていたオムライス。本来であれば俺が作る予定だったけれど……結月がどうしても作らせてほしいと頭を下げてきたので、仕方なく譲った。
こういうところがずるいんだよ。
頭を下げられると、こっちが申し訳ない気持ちになる。
俺にとって、結月は一応客人にあたる。
だから、ご飯を作らせるなんてあり得ない――と思う性分である。
一方の結月は、迷惑をかけているからせめてもの償いのために料理をしてくれた……それは分かっているけれど、俺にとってはやっぱりちょっと気が引けるのだ。
本当に、俺も結月も似た者同士で……めんどくさい性格である。
もともと、二人とも自己嫌悪していた同士でもあるので、自分に似ている人間を苦手と思うのも当然だった。
そう。結月は、俺に似ている。
実は、そのせいなのか……彼女はどうも、結月に対して何かを感じているように見えた。
「北条さん、私は甘い味付けが好きって言ったわよね?」
「はい。ですから、しっかりと甘めの卵にしましたよ」
「ふーん。どうかしら……私のママは料理上手だから、味にはなかなかうるさいのよ? この私の舌を……うらなせる?ことはできるのかしらっ」
正確には『唸らせる』だ。
まぁ、こうやって強気に出た次の展開は最早お約束なのでだいたい予想できる。
しほはオムライスを一口頬張って……それから、目を大きく見開いて声を上げた。
「――美味しい!」
しぃちゃん……君の舌は結構、おバカちゃんなんだよ。
確かに母親のさつきさんは料理上手だ。でも、しほは料理が全然できないせいなのか、味付けに関してはこだわりがないらしい。
だから、どんな料理でも美味しいと言ってくれる。そういうところが可愛いんだけどね。
「お気に召したようで、何よりです」
「な、なかなかやるじゃない」
「いえいえ。褒めてくださるなんて、しほさんはすごくお優しい人ですね」
「……むふふっ♪」
「あ、お口の周りが汚れていますね。拭いてもよろしいですか?」
「ん!」
「失礼します……はい、綺麗になりましたよ。おっと、お飲み物がなくなりそうですね。オレンジジュースでよろしいでしょうか?」
「いいえ、コーラで!」
「かしこまりました。少しお待ちくださいね」
結月は甲斐甲斐しくしほのお世話をしている。
世話焼きな性格だからだろう。隙の多い彼女を放っておけないらしい。
「……なんだ、北条さんって結構いい子じゃないっ」
そして、しほはお世話されるが好きなので、結月にも悪い印象を抱いていないようだった。
キラリとしほは、相性が悪かったけれど。
俺と似ている結月とは、意外といいのかもしれない――。
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