第十四話 ヒーローでなければ気が済まないのか?
梓の決意が何の結果も生み出さなかったことは、辛いけれど。
でも、それは彼女の選んだ道だ。俺はもうおせっかいをしてあげられるような立場にいない。
もう中山幸太郎は、中山梓にとって戸籍上の兄という関係でしかないのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。彼女の恋愛事情に関しては、何もできない。
だから、今は目の前のことに集中しよう。
なるべく後で、霜月に迷惑がかからないように……うまく、竜崎をはぐらかさないといけなかった。
「二人きりなら、落ち着いて話せるだろ? もったいぶらないで。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? どうしてしほと二人きりだったか、言えよっ」
主人公様は、どうやら幼馴染に強い執着があるようだ。
物語にするなら、恐らくメインヒロインが霜月なのだろう。
俺の好きだったあの子たちがサブヒロインかぁ……本当に、良い御身分だ。
「知りたいのか? 一応、彼女のプライベートだぞ? 詮索していいのか?」
正直、少ししつこいような気がする。
そんなに執拗に問いただされては、あまり言いたくなくなるのが心情である。
どうしてこんなに霜月のことを知りたがっているのだろう?
主人公様にいかなる理由があるのか……それを、彼は寛大な心で教えてくれた。
「だって俺は幼馴染だからな。病弱なあの子を守らないといけない義務があるんだ……しほを助けてあげられるのは、幼馴染の俺だけしかいないんだっ」
まるで、自分に言い聞かせているような。
そんな大層なことを語る竜崎に、寒気を覚えた。
(お前はそんなに、ヒーローでなければ気が済まないのか?)
傲慢で、おこがましい身勝手な思いに、腹が立ってくる。
霜月が弱い? 助けてあげられるのは、竜崎だけ?
見当違いも甚だしい。あの子はそんなにやわな女の子じゃない。
自分の意見をハッキリ言えるし、感情をしっかり表現できるような、普通の女の子だ。
少なくとも、人の助けがないとまともに生きられないような類の人間ではないと、自信を持って言える。
なんというか……正直、竜崎のことが怖いと思った。
主人公様は普通なようだけど、普通なんかじゃない。
こいつは、異常だ。
反論して、変な疑いをもたれて、霜月が付きまとわれたりしたら……そう考えると、ゾッとする。
今、ようやく彼女の気持ちが分かった気がした。
竜崎とは、あまり関わりたくないと……本心からそう思ったのである。
「幼馴染だからな……悪い虫から守るのも、俺の役目なんだ。しほは優しくて臆病だから、自分の意見を言えないけど……代わりに、俺が言ってやるよ」
そして竜崎は、どうも俺のことを悪い虫と思い込んでいるらしい。
「あの子は一人でいることが好きなんだっ。お前の勝手な都合で付き合わせたりするんじゃねぇよ……彼女の優しさに甘えるなよ? しほの幼馴染として、忠告してやる」
守るって、攻撃することなのだろうか。
勝手に霜月の人格や思想を決めつけて、思い込みだけで他者を排除するような行為は、正しいとは思えない。
どうしてこんなことができるんだろう?
いくら俺がモブキャラだからって……失礼とは思わないのだろうか?
いや、一番失礼なのは俺に、ではない。
霜月に対して、申し訳ないとは思わないのだろうか?
(……きっと、そんなことは思わないな)
竜崎が、そんな普通のことを考えるわけないか。
だって彼は『主人公様』なのである。
それだけで全てが許されるし、許されてきた、ご都合主義で治外法権な存在なのだから――
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