第十一話 友達としての距離感
「ほら、お説教されたからっていつまでもしょんぼりしてないで、早くお昼ごはんを食べましょう? 私、おなかぺこぺこだわ。学校なんてつまんないし退屈だけど、唯一お昼だけはとても素敵よね」
いや、別にしょんぼりはしてないんだけどな。
どうやら霜月にはそう見えたようだ。俺を慰めるようにポンポンと背中をさすっている。子供扱いされている気がするんだけど……まぁいいか。
「座りましょう? あ、もしかして潔癖症だからお外で座れない、とかあるのかしら? だったら立ったままでもいいけれど、座っている私は上を見続けないといけないから、首が疲れちゃうわ」
「座るから大丈夫だよ」
人気のない校舎裏。ちょうど座るのに手ごろな段差に腰を下ろす霜月。その隣、しっかりと距離を開けて俺も座った。
数値にすると一メートルくらいだろうか。これくらいが今の俺と霜月の距離感かと思ったのだが……どうやら、それは少し遠かったみたいだ。
「ねぇねぇ、みてみて? 私のお弁当、美味しそうじゃないかしらっ」
ぐいっと、彼女は一気に近づいてきたのである。
その距離、わずか10センチ程度だ。
(ち、近くないかっ???)
身動きすると体が当たるくらいに近い。でも、それが霜月が考える友人との距離感みたいだ。近いことなんてまったく意識しておらず、むしろ当然と言わんばかりに話を続けていた。
「うちのママ、料理がとても上手なの。身内としてのひいき目なしですごくおいしいわ……あ、卵焼き食べてみる? うちは甘めだけど、仮に中山君が辛党でもきっと美味しいって感じるわ。それくらいうちのママは料理が上手なの。はい、どうぞ。遠慮しないでいいわよ? あーん」
そして今度は、まるで恋人みたいにお箸で卵焼きを差し出してきた。
「え? あれ? んー?」
俺達、友達だよな?
まさか霜月の脳内では付き合っていることになってたりしないよな?
いや、それはそれで光栄な気持ちではあるんだけど……とはいえ、やっぱり俺の記憶には告白したことも、告白されたこともないわけで。
だとしたら、この距離感の近さは何なのか。
友達、という概念がよく分からなくなるくらい、霜月は俺のことを慕っているみたいだった。
友達になってわずか二日目なのに……よっぽどこの子は、友人という存在に飢えていたのだろうか。
だとしたら、断るのもちょっと気後れした。
「食べないの? 美味しいのに……」
そして、悲しそうな顔をされてしまっては、やっぱり拒絶することなんてできなくて。
「い、いただきます……」
だから俺は、彼女の差し出した卵焼きを食べた。
味は……美味しかった、気がする。うん、正直よく分からなかった。初めてあーんされたから、混乱していたのだと思う。
「どう? 美味しい? うちのママ、すごいでしょうっ?」
ただ、霜月が感想を求めていたので、とりあえず頷いておいた。
「す、すごいと思う。美味しい、気がする」
「そうよねっ! うふふ、うちのママったら本当にすごいのよ? 作れない料理なんてないし、あの人はパパのことが大好きだから、いつも気合を入れてお料理を作るの。その恩恵を私も受けられるから、とても幸せだわ」
霜月は母親を褒められると、自分が褒められた以上に喜ぶみたいだ。
家族思いの優しい子なのだろう。そういった側面を知ると、もっと彼女が魅力的に感じてくる。
だからこそ、そんな子と恋人みたいな行動をしたことが、照れ臭かった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます