5話
(息子だと…?)
キースは愕然とした。
やっと目障りだったロイス家が落ちぶれていくと考えていたのに、まだ子供がいると言うのか。
ギシシと歯ぎしりをして、壇上に立つロックを睨みつけるキース。
だが、彼以外のの団員は歓喜に沸いていた。
ずっとこれまでロイド家を中心として行動してきたのだ。
ロイド家という支えを失いかけて、皆顔には出さないものの内心は不安に思っていたから無理もない。
――
(ふざけるな。喜んでる場合か! 目を覚ませ! そもそも、ロックに息子がいるなど、聞いたこともない! 居るなら、とっくに公の場に出ているに決まっているだろう!)
自分の思惑とは真逆の感情を抱く団員たちに苛立ちを覚え、ロックに訝しむように、息子とやらの実力の有無を疑問視した。
が、それを待ってましたと言わんばかりに、ロックに逆に煽られた。
聞けば、息子はまだ13と騎士見習いにもなれるかなれないかの年齢だと言い、挙句の果てには、自分と対戦しても遜色ないと言い張る。
(そんな天才が今のロイス家にいるわけがなかろう! どうせ、剣もまともに触れぬボンクラ息子に違いない。そんな者が私に剣を向けてくるなど……。ロックも気が触れたか? いいだろう。その思い上がった心、完膚なきまで粉砕してくれよう。そうすれば、こ奴らも目を覚ますに違いない)
フンッと鼻で思いっきり息を吸い込んで、キースは腰につけた剣に手を触れて決意したが――。
ロックに呼ばれ、颯爽と姿を現したジルの赤髪を見れば――ジルは、純血の帝国人であるキースから言わせれば、ロックとの血縁関係はおろか、帝国民ですらないのは明白だった。
「………………………………それは君の子なのかね? 私には似ても似つかぬように思えるのだがね」
冒涜だ。
度が過ぎている。
どこまで私物化すれば気が済むのだ?
我を忘れて、ロックに殴りかかった。
こちらを嘲笑うかのように薄ら笑いを浮かべる顔面に一発入れなければ気が済まなかった。
――拳は届いた。
が、それはジルの方だった。
ロックを守るように、身代わりになるように間に飛び込んできた彼の頬にキースの拳は届いた。
(はっ!? 邪魔だ! 何故、守った!)
渾身の一撃を受け、ジルはロックの足元に倒れこんだ。
妨害されたことに一瞬焦りを覚えたキースだが、ニ発目を拳に込める前に、止めに入った黒の騎士団員らに取り押さえられた。
「はっ、離せっ! 私を取り押さえる暇があるなら、ロックを捕まえろ! 騎士団を冒涜したあの輩に鉄槌を加えろ! 愚か者共が!」
拘束を振りほどこうともがき、暴れるキース。
ずるずると引きずられながら、最後に彼が目にしたのは、ロックの足元で蹲ったまま動こうとしないジルと、ジルに全く目をやる事もせずに、自分の方を相変わらず小馬鹿にしたように見下してくるロックの姿だった。
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