第21話 胸の大きさは関係……無い!

「ちょちょちょちょっとまておにさん。いや、お姉さん? と、とにかく、意味が分からない。アイキャントアンダースタンド。え? ノースが女、あのノースが? みんなの可愛い後輩的立ち位置のノーズが女だった? おいおい嘘だろ、もしそうなら俺は切腹してもしきれないぞ。」


俺は頭を抱えてなんとか処理しようとするが、すぐにオーバーヒートして、思考は一向にまとまらない。


今まで俺はノースが男だと思ってたから、普通にノーズの前で下ネタ言ってるし、なんなら二人でそっち系の話をしたこともある。


てか俺、普通に冗談でヤツの尻揉んだこと有るぞ? 確かに男にしては柔らかいなとか思ったが、そもそも揉む機会なんてないからそんなもんかと流してたけど……。


もし。もし、マジでこいつが女なら…………。


「あ、あの、すみません。というか、ごめんなさい。マジでごめんなさい。」


俺はその考えに至った瞬間、自分の顔が青くなった行くのを感じ、すぐさま地面に頭を付けて土下座の体勢に入った。


謝るのは早めに。そしてやるなら、誠心誠意死ぬ気で謝る。これが謝罪の鉄則。


「い、いや大丈夫です……。ただ、その……ほぼ全裸の上司に土下座されるのは、キツイものが……。」


「す、すまん」


ノースは地面に頭をこすりつける俺の頭を上げさせようとしながらも、苦言を呈する。


それもそうだよな。


俺もほぼ全裸の船長に土下座されたら怖いもん。

そんなことをしてくる船長も怖いし、自分が暴走しないか怖い。


まぁ、ノースと俺の場合は後者の心配はいらないだろうけど。


俺は服は濡れたままなので全裸なのはどうしようもできず、頭を上げて普通に座ることにした。


俺は濡れた服の上からノースの体を見つめる。


た、確かに言われてみればノースは可愛い顔してるし、身長も低いし、声も高い。


髪も短めの女の子と言われれば違和感ないくらいの長さだし、体が丸みを帯びてるような……気がする。


ただ、お胸は俺達とあまり変わらない。なんなら、筋肉ムキムキの団員と比べたら小さいような気も…………。


まあ、そこは個人差があるよな。うん。


ここまでの物証が出揃っていて、なんで俺は今までこいつが男だと思ってたんだ……?


性別を明言されたことは本人からも第三者からもない。ただ、海賊をやってるし。何より、ノースも船長のお胸攻撃に悲鳴をあげてたから、男だと思っていた。


…………って、そうじゃん!! おかしいじゃん!!


「なぁノース。お前女ならどうして船長のお胸の大砲おっぱいみて悲鳴あげてんだ……?」


俺らが悲鳴をあげるのは、息子さんが爆発しそうになるから。


けど、女ならば同性のお胸見ても別に興奮しないのでは?

俺は男だから女の人のことは分からんが、少なくとも俺はどんだけデカくても、男のブツを見せつけられて興奮しない。


「……ね…………か……」


俺の質問に、ノースはうつむいて肩を震わせて何かをつぶやく。


「へ?」


そのつぶやきはあまりに小さすぎて、弱々し過ぎて俺のもとまでは届かなかった。


俺が聞き返すと、ノースは数秒の沈黙の後、一度ぎゅっと拳を握りしめると。


「すぅっ」


大きく息を吸って―――――





「僕に胸がないからですよぉぉっ!!!!」





―――――悲しい現実を叫んだ。


「の、ノースごめ……」


地雷原に土足で踏み込んだことを察知し、俺はすぐさま誤って話題を変えようとするが。


「船長のおっぱいが揺れるたびに、どれだけ動いても揺れない僕の胸に虚しくなり!! 船長のを見て興奮する団員たちを見て、自分には魅力がないと悲しくなるんですよ!!! 言わせないでください!!!」


そんな、彼女の心からの絶叫に遮られた。


「あ、いやその……小さいのもいいというか……その、あのごめんな。」


俺はやっちまったと猛烈に後悔しながら、どうにかして彼女を宥めようと言葉を紡いでいく。


「うぅ……いいですよ……どうせ元帥が僕を男だと思ってたのも胸がないからでしょ……みんなおっぱいがおっきいのが好きなんだ……」


うぇ〜んと、ノースは女座りで泣き出してしまう。


「デカいからっていいわけじゃない。断じてない。」


俺はなんとか嘘はつかず。そして、彼……彼女を慰めようと頑張る。


俺みたいな経験少なめなのは、泣かれると弱いんだよな……。


「ひぐっ……元帥は、小さいの好きですか……?」


ノースは溢れる涙を手のひらで拭いながら、上目遣いで尋ねてくる。


その問いに、俺はもちろん満面の笑みで同意……


「…………」


……出来ない。


俺は小さいのも好きだ。大好きだ。

しかし、もし大きいのと小さいので選べと言われれば、迷いなく大きいのを選ぶだろう。


嘘はつかないと決めた以上、この質問だけはどうにか躱したい。


…………あの、そんな目で見ないでください


ノースは俺に希望と絶望が混ざりに混ざった、まるで捨てられた子犬のような表情を向ける。


か、考えろ俺。女性経験が少ないなりに、頑張って頭を回せ……。


俺は思考に思考を重ねた結果。


「俺は、小さいの好きだぞ。大好きだ。」


そうニッコリと言い放った。

その瞬間、ノースの顔が輝く。


ふっ、勝ったな。


嘘はついていない。

俺は確かに小さいの好きだ。大好きだ。


その気持ちに偽りはない。

大きいのも好きだし、小さいの好きなだけだ。


「濡れたままじゃ駄目ですよね……げ、元帥。ちょっと後ろ向いててください。」


泣き止んで明るい顔になったノースが、自分の服を見て言う。

確かに全裸の俺と違い、彼女は未だにびしょ濡れの服を着ていて、見ているだけで寒そうだ。


「え、あっオッケ。ルート2の値でも数えてるわ。」


お着替えするのだろう。何に着替えるかは知らんが、そこは多分女の子だし。なんかがどうにかなってどうにかなるのだろう。知らんけど。


「べ、別に数えなくてもいいですよ。」


そんな半笑いの声のあとに、俺の背後からは衣擦れの音が聞こえてくる。


うん。俺、ルート2数えるよ!!


流石に自分を慕ってくれる部下に発情するとか、そんなのは許されない。


ルート2、1.41421356一夜一夜に人見ごろ…………」


俺は数字の羅列とともに、己の欲望を拭っていった。

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