思い出
時瀬青松
第1話
ピッ
ピッ
店員さんはカゴいっぱいのカップ麺をせっせとスキャナーでスキャンしていく。赤いきつねと緑のたぬきを、僕が棚にあるだけ全てカゴに入れてきてしまったせいだが、僕はそれを無心で眺めていた。店員さんは精算が終わったカップ麺たちをエコバッグに詰めてくれる。なにかのオマケでもらったクマ柄のエコバッグがぱんぱんに膨らんだ。クマがボコボコと歪んでいる。
僕は別に、カップ麺とかインスタント食品が特別好きなわけではない。むしろ、1日三食、栄養バランスに気を遣った食事を心がける僕にとっては食べたいものではないのだ。普段は。
だがそれは普段はの話で、気分の落ち込んだ今は例外だ。元気が出ないとき、心にぽっかり穴が空いて、感情全てがぽろぽろ
あのときと、同じ香り。
***
高校から寮生活を始めた僕だが、寮生活を満喫しているかと言われればそうではなかった。もともと人と近い距離で接するのが得意じゃない。人と仲良くするスキルがないし、ひとりでいる方が楽なくらいだった。大して用もないなら放っておいてくれればいいのに、同室の
「みーなちゃん、俺今からコンビニ行くんだけど、アイスいらない?一緒に行こうぜ」
「……こんな時間に外出して、先生にバレたら怒られます。それに、こんな真夜中にアイスなんて食べません。不健康です」
「みなちゃん真面目!先生の目を盗んでこっそり行くのが楽しんだろ」
秋山さんはいつもウザいくらい楽しそうだった。
「みなちゃんってなんですか」
ムッとして聞き返すと、
「だってお前
可愛いだろ、と先輩は笑う。僕は相当可愛くない自信があるのだが、可愛くないやつに可愛いニックネームなんかつけて何が楽しいんだろうか。結局先生にバレずにコンビニから帰ってきた秋山さんは、いらないと言ったのにアイスを買ってきた。勿体無いので、仕方なく頂いた。美味しいけど、不健康な感じがしたのは多分、健康第一をポリシーとする母さんの教育の成果だろう。おそらく微妙な顔でアイスを頬張る僕を見て、秋山さんはまた楽しそうに笑って僕を可愛いと言った。
僕なんかといて何がそんなに楽しいのかわからなかった。
共通点は多くない。運動部に所属していることと、男子高校生であることくらい。
僕には分からなかった。
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