僕は妹を殴りたい~妹にキスされそれを同級生に見られたら?~

藍空べるつ

第1話


 夜11時。窓の外から見える景色は真っ暗だ。


 僕は寝るためにベッドにもぐろうとしていた。


 「じゃあ、消すよ。いい?ゆう」


 「分かった。お休みお兄ちゃん。」


 僕、杏璃椎あんりしいがそう言うと部屋の電気を消した。


 お兄ちゃん。僕のことをそう呼んだのは妹の杏璃結夏あんりゆうか、僕はゆうと呼んでいる。


 僕たち兄妹は毎日一緒に添い寝をしている。


 高等1年の僕と中等部2年のゆう。年齢的なものを言えばまだギリギリ仲のいい兄妹で済んでいる。でも、僕たち兄妹は本当は"恋人同士"なんて、誰にも言えない……


 僕たちは付き合っている。もちろん遊びじゃない。一人の男として女のゆうを愛してる。


 添い寝は恋人らしいことしようって今年の夏にゆうから告られてからするようになった。


 この関係は人には言えない。僕は良く思う、もしゆうと義理の兄妹だったら……そんなこと思っても現実は残酷で僕たち兄妹は血がつながったれっきとした兄妹なのだ。


 誰にも言えない二人だけの秘密。でも、僕にはこれを超える、ゆうにも言えない一人で抱えなくてはならない秘密がある。


 ゆうを殴りたい。


 そう思い始めたのは確か6歳の時だったと思う。


 ボクはゆうを殴りたいのだ。


 なぜか? もし答えるとするならば、ボクがそう言う人間だからと言うしか答えはない。


 綺麗で可愛くてお人形みたいなゆう。そんなゆうを僕が殴って壊してしまいたい。もちろんただ殴って傷物にしたいわけでは無い。殴った後にナデナデと頭をなでたり優しく甘えさせてあげたい。愛情をもって殴りたい。愛してからこそ殴って壊して甘やかして再構築してゆうの人生に自分色を入れ込みたい。つまりは飴と鞭なのだ。


 こう思っている。でも……これは明らかにヤバい。冷静になればこんなものDVする彼氏と何が違うのだろうか?


 まだこれが、殴ったうえで甘やかしてそして……恋のABCのC、つまりヤリたいとかだったらまだましかもしれない。でも、僕はただ単純に殴って甘やかしたいだけなのだ。これを僕は飴と鞭フェチと勝手に呼んでる。


 なんでこうなったのか、はっきりとはわからない。もしかしたら恋のABCのCは近親相姦になってしまうから倫理観的本能が殴るというまだましかもしれない?行為に目が行くように仕向けたのかもしれない。


 唯一分かってることは"僕は妹を殴りたい"と言うことだけだ。


 「お兄ちゃん。今日のハグは?」


 「ああ……悪い悪い。考え事してて忘れてた。」


 「も~ちゃんと毎日ハグしないと私怒っちゃうんだからね!!」


 ゆうに言われて僕はハグをする。ハグは浮気チェックのために毎日する約束……


 「クンクン。今日もOK。私の知らない女の匂いはしないね!!」


 「ゆうはホント、僕の匂い好きだよね。」


 「だって、お兄ちゃんの匂いはいい匂いなんだもん」


 ゆうは匂いフェチである。付き合い始めたころに明かされ、驚いたがすんなりと僕は受け入れた。だって、僕に比べて匂いフェチなんて100倍以上ましだろう。


 ゆうが匂いフェチなら僕の飴と鞭フェチもその時に一緒に言えばよかったんじゃないか?ゆうもフェチを持っているんだから言っても問題ないんじゃないか?そんなことを考えたことはないわけでは無い。


 でも、考えれば、考えるほど嫌な未来しか思い浮かばない。


 僕はゆうと一緒に仲良く暮らしていたい。ただそれだけなんだ。だから、それの邪魔になるものは取っ払わないといけないのだ。



――――――――――



 文化祭の夜。一発目の花火が打ちあがった瞬間ハグをした男女は幸せになれる。


 どこの学校にもありそうなジンクスがこの学校にも存在する。

 

 文化祭は3日後に迫ってきている。僕ことのクラスの出し物は劇の"ロミオとジュリエット"。有名どころだ。


 さて、今日はそんな文化祭の準備で忙しい朝である。もうすでに準備を終わっているところもあるが中には徹夜して頑張るなどと言う青春を謳歌するような奴もいる。ちなみに、もちろんうちのクラスは前者である。


 「お兄ちゃん。準備大丈夫そう?」


 「ああ、大丈夫だ。ゆう、そっちはどうだ?」


 「いろいろ問題起きてめちゃくちゃ大変」


 他愛もないことをしゃべりながら僕たちは階段を下りていた。


 カンカンカンと階段を下りていると突然ゆうが声をかけてきた。


 「ねえ、お兄ちゃん」


 「うん?」


 いきなり口に温かい感覚が走った。


 頭が理解した。ゆうが僕にキスしたのだ。


 時間にしたら2秒か、3秒くらいだったかもしれない。でも僕にはあまりの衝撃で時が止まったように感じた。


 一瞬口づけをしたゆうは恥ずかしそうに手を口に当てるとてへっと、うつむいた。


 「お兄ちゃん。今のは秘密だからね。」


 小さな声でそう言うと逃げるように階段を上がって行った。


 僕は口を拭くと赤くなってボーっとしてた。


―――――――



 あの後、教室に帰るといつも通り本を読んでいた。


 ペラっペラっと、ページをめくっているといきなり肩を叩かれた。


 「おはよう!!」


 勢いよくあいさつをされた。


 この子は大島蘭おおおしまらん。我が1年3組のお母さんと言うあだ名がつくほどの姉御肌な人だ。現にクラスでは基本ぼっちな僕に声をかけてくれる唯一の人でもある。


 「ねえねえ、しい君。しい君には妹さんいるよね。」


 「ああ、いるよ。」


 「その妹さんと朝何してた……」


 …………ッ!!


 もしかして見られてたのか?


 いや、別のことかもしれない。取りあえずここはしらを切ってみよう。


 「特に何もしてないけど……」


 そう言うと、僕の耳元に近づいて、


 「そう……じゃあ、朝キスしてた人は別の人なのね……」


 …………ああ、やっぱりみられてたんだ……


 「別の人だよ……」


 ゆうは妹であり恋人だから正直言えばキスしたところで問題はない。でも、まだ恋人がゆうだとは誰にも言ってないし言う気もない。


 けれど、別の人って言うのもなんか違うしいやだ。


 だから、ちょっと重くわけがある風に返した。


 「ほんと??」


 「ホント……」


 その日、一日はずっとちぐはぐしていた。



――――――――


 嵐のような一日が終わった。


 もう帰ろうと思って廊下を歩いていたがふっと思い出した。


 そう言えば今日、すみれちゃんに呼ばれてたな。


 すみれちゃんとはゆうの同級生の子。如月すみれちゃんだ。


 そんなすみれちゃんに今日なぜか呼ばれた。


 放課後に一階の階段裏で会いたいと言われたので指定されたところへ行った。


 するともうすみれちゃんはいた。


 「先輩……」


 「うん?どうした?僕のことを呼び出してどうしたの??」


 「好きです……」


 「…………??」


 What??どういうことだ??


 僕は今告白された、すみれちゃんに。


 うん。文がおかしい。混乱しているんだな。


 「考えといてください……」


 「あ、ちょッ!!」


 それだけ言うと、すみれちゃんは逃げるように帰って行った。



―――――――


 「お兄ちゃんどういうこと??」


 「……へ??」


 家へ帰ると仁王立ちのゆうがいた。


 クンクン。突然お腹に突撃してきて匂いを嗅ぎ始めた。


 「これはすみれちゃんの匂い……」


 すご。すみれちゃんの匂いとか分かるんだ。すごい!!


 「お兄ちゃんどういうこと?なんでお兄ちゃんからすみれちゃんの匂いがするの??」


 「…………」


 「答えて、答えてよ。お兄ちゃん。」


 本気で怒った目をしている。


 まあ、言ってもいいか……


 「告白された。」


 「…………ッ!?」


 「すみれちゃんに好きだって言われた。」


 「……お兄ちゃんはそっちに切り替えるんだ」


 いきなりだった。僕がゆうを捨てる?ありえない。


 「何いてるんだ?ゆうのことだけが好きに決まってるさ」


 「ほんと……??」


 「もちろんホントさ!!」


 「じゃあ、お兄ちゃん。ゆうに何か大きなこと隠してるでしょ。」


 …………!?


 「妹の感ってやつなんだけど、何かをずっと隠されてる気がする。」


 「ゆう。僕にはゆうに言えないことが完全にないわけでは無い。でも、ほとんどのことは言えるよ」


 「言えないことは何なの?ゆうに言えないことってなに?」


 「それを言ったら、ゆうと今までの関係ではいられなくなることだよ」


 「言って、お兄ちゃん。言ってよ。私知りたい。」


 「ダメだよ。無理だよ。」


 「なんで?なんでなの?私のこと嫌いだから?じゃあ、もう別れようよ。恋人も兄妹も家族も全部やめようよ!!」


 怒鳴るような言い方で言ってくるゆう。僕はこれにキレてしまったのかもしれない。


 「ああ、分かったよ言ってやる。いや、直接やってやるから部屋行ってこい。僕はシャワー浴びたらすぐ行くから先行ってろ」


 そう吐き捨てるように言うとそのまま風呂場へ行った。


 バタン。勢いよく風呂のドアを開けるとずかずかと入って行った。


 シャワーを浴びたい。


 勢いよくシャワーの栓を回して冷水にするとざぁーっと水を出して自分にぶっかけた。


 冷たい。ただただ冷たい。頭を冷やそうとしていたのだ。


 実際に僕の頭は冷えた。そして思った。


 (これから、どうしよう)

 (僕が必死になって隠してきたもの、それをゆいが見たらどうなるだろう?)

 (こんな僕を認めてくれるのか、それとも嫌われるのか……)


 考えていた。でも、考えても答えは出ない。


 「クソっ……」


 ドン。ドン。ドン。


 強い音が3回鳴った。僕が壁を殴ったのだ。


 「ああ。痛い。手が痛い。これと同じようなことを僕はこれからゆうにするのか……」


 …………どうしてもなにも浮かばない。


 「もういいや……」


 半分あきらめたような様子でそう言うと、シャワーを止めて風呂から出て行ってしまった。


 タオルで拭いて、新しい寝間着に着替えるとすぐに部屋に戻った。


 「お兄ちゃん。大丈夫??」

 「大丈夫。じゃあ、教えようか。」

 「うん!!」


 溢れんばかりの元気な声で僕のことを心配し、そしてこれからすることに希望を持ってるゆう。


 ああ、僕はこれから"怪物"になるのだ。


 一度、息を吸うとガシッ。力強く左手でゆうの右肩をつかんだ。


 そしてベッドへ押し倒すと、右手を大きく振りかぶった。


 ドンっ!!!


 部屋中に大きな音が響いた……


 でも右手はゆうの体に当たってはいない……


 ……枕の上にあった。


 「お兄ちゃん?」


 「やっぱ、僕には無理だ。」


 「どうしたの?どうしたのお兄ちゃん??」


 ゆうがひっきりなしに聞いてくる。


 「僕は……僕はずっとゆうを殴りたかった。可愛いゆうが僕の手で壊れるところを見たかった。でも、やっぱり無理やりゆうを殴るなんて僕にはできない。」


 「お兄ちゃん……ゆう。知ってるんだからね……」


 「えっ?」


 「お兄ちゃんがゆうのこと殴りたいって、前に寝言で言っているの聞いてたの。で、その時お兄ちゃん『こんな、兄貴でごめんな、ゆう。ごめんな。』って言ってたの。そのあと、お兄ちゃんのスマホ調べたらすべてを知ったの……」


 「お兄ちゃん。ゆう知ってるの……お兄ちゃんが我慢してるのも苦しんでるのも……」


 「だからね、お兄ちゃん。ゆうのことたくさん殴っていいよ。」


 「駄目だよゆう。そんなことしたらゆうが傷ついちゃう……」


 「大丈夫。お兄ちゃんからならゆうは何でも受け入れるんだからね!!」


 僕は手を振り上げた。そして今度はしっかりとゆうのお腹めがけて手を振り上げた。


 バシッン!!!!


 再び強い音が鳴った。


 今度のはしっかりとゆうの右胸に当たっていた。


 バシッン!!!


 バシッン!!!


 バシッン!!!!!


 バシッン!!!!!!!!!!


 そのあと、黙々と4回殴った。計5回だ。


 「お兄ちゃん……」


 今にも壊れそうなほどのか細い声で僕を呼んだ。


 「ゆう……」


 僕も小さな声で返すと、ゆうに抱き着いた。


 「大丈夫か?大丈夫なのか、ゆう?」


 「うん、お兄ちゃん。ゆうは大丈夫だよ。……でも、お兄ちゃん。できるならこのままはハグして……」


 「もちろんいいよ」


 そう言うと、二人と黙ってぎゅーっと今までにないくらい強くハグしていた。


 「ゆう、殴ったところ……あざになったりしてないか……??」


 「大丈夫。綺麗なままだよ。」


 「よかった……」


 僕は心配していたことが起こらなくて安堵してた。


 「ゆう、ごめんな……」


 「お兄ちゃん。あやまらなくてもいいよ。ゆうもお兄ちゃんの匂いが好きで同じような物だし……」


 「ゆう……」


 「ただし、これからは私に隠し事は禁止。全部受け入れるから全部言うんだよ」


 「ああ、もちろん。約束するよ」


 兄妹二人、その晩はお互いを認め合って受け入れた。大切な日になったのだった。


 「お兄ちゃん。そう言えばすみれちゃんの件」


 「ああ、あれはもちろん断るよ」


 「よかった……」



―――――――――――



 「ふぁああ~おはよ~ゆう~」


 大きくあくびをしながら目を覚ますと隣にはまだ寝ているゆうがいた。


 ぷにぷにのほっぺを無防備にさらしていて可愛い。


 つい、ツンツンとさわると「う、うん~」っと、可愛く嫌がる。


 さて、おふざけはこれくらいにして、もうそろそろ起こさないと


 「おはよう、ゆう。おきて~」


 「あにいちゃん……おはよ~」


 目を擦りながら僕にあいさつする。


 今ゆう僕のことをあ兄ちゃんって言った!!


 超かわいい。最高だ。


 さあ、今日は文化祭。頑張らないとね。



――――


 「ほら、ゆうもう行くぞ」


 「は~い」


 二人で一緒に家を出て学校に向かって一直線。


 いつも通りの日常もなぜか今までとは違う。


 そんなこんなでもう学校についてしまった。


 「今日、一緒に花火見ようよ」


 「うん。もちろんだよお兄ちゃん!!」


 花火の約束をすると僕たちは自分たちの教室に行った。


 やっぱり文化祭の日だけあってみんな浮いている。


 僕もこれからめっちゃ楽しもう!!



――――――――――――


 今日やるべきこと。それは3つある。


 1つ目。すみれちゃんの告白を断る。


 2つ目。蘭に黙っとくよう頼む。


 3つ目。ゆうといっしょに花火を見る。



 まずは2ばん目からだ。


 「おはよう蘭……」


 「おはよう、しい君……」


 いつもに比べて疑心に満ちたというか、単純に暗い返事が返ってくる。


 「なあ、蘭。僕実は妹と付き合っている。」


 「…………!?ど、どういうこと??」


 「そのまんま。僕はゆうと恋人同士で昨日は恋人としてキスをした。」


 「なんで??」


 「好きだったからかな……自分でもあんまよくわかっていない。で、お願い。昨日のことは秘密にしといてくれない??」


 「妹さんのことが本気で好きなの??」


 「本気だよ!!」


 「……分かった。黙っとく。でも、幸せにできるの?」


 「絶対にする。」


 「……いつでもわたしのこと頼れよ」


 そう言うと文化祭の準備へ、別の場所へ移動していった。


 よかった。これで2はOKだ。


 次は……



―――――――――――-



 「すみれちゃんよかった。」


 「先輩……」


 僕は昨日校舎裏に来るように頼んでた。


 「悪い。君とは付き合えない。」


 「そうですか……」


 「ああそうだ。でも、僕じゃなくてもすみれちゃんにはきっといい人が見つかるよ」


 「先輩がいいんです。先輩がいいんです……」


 すみれちゃんが泣き崩れた。


 「僕には無理だ。僕にはもう心に決めた人がいる。」


 「誰ですかそれは?」


 「それは言えない……」


 「優しくて、かっこいい。先輩がいいんです……」


 「ほら、拭いて。」


 未練があるのか僕のことがいいと繰り返しながら言っているすみれちゃんの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


 だからハンカチで拭いた。優しくゆうをなでるように拭いてあげた。


 10月の木々は茶色く、文化祭マジックには不釣り合いな寂しい色をしていた。

 


―――――――――――


 

 花火の時間がやってきた。


 楽しいことは一瞬のうちに過ぎるものでもう時間だ……


 「ゆう。ゆう。どこだ??」


 「お兄ちゃん、ここだよ~」


 ゆうが手を上げた。僕がそこへ行くとゆうが手をつないできた。


 「えへへ。お兄ちゃん手温かい。」


 「それでは花火の時間です。」


 うぉ!!!


 アナウンスが入ってみんなが盛り上がった。


 「お兄ちゃん……」


 「ゆう……」


 バサッ


 僕たちは互いに呼び合う。そして僕はゆうをハグした。


 「3、2、1、点火!!」


 カウントダウンが終わると花火は上がって頭上高く花開いた。


 バンッ!!!


 大きな音と煙と閃光がたくさん出てきた。


 「お兄ちゃん……」


 「行こう……僕たちが僕たちで入れる場所へ。」


 「どこか、遠くへ行くの?」


 「ああ、そうだよ。この関係であったとして幸せになれる場所へ、二人で行くんだ。」


 「……分かった。ずっと一緒だよ。お兄ちゃん。」



――――――


 「あなた~朝ごはんよ~」


 ゆうが1階のキッチンから僕のことを起こす。


 も~下で大声を出すんじゃなくて、部屋まで来て起こしてほしい。


 「分かった~」


 僕も大きい声で返すとそのまま下へ降りて行った。


 僕たちは幸せな夫婦。幸せな夫婦なのだ。




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僕は妹を殴りたい~妹にキスされそれを同級生に見られたら?~ 藍空べるつ @555hertzp

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