僕は性奴隷になりたい~異世界にTS転移したんだけど、宗教戦争に駆り出されて辛いです~

初夏 終冬

第1話 僕は性奴隷になりたい


 僕は男だ。

 でも、男の愛玩具になりたい。もっといえば、性奴隷になりたい。

 性奴隷と言っても、痛いのは嫌だ。嫌いだ。

 ただ、性の快感を得たいだけなのだ。

 けれど、僕は男だ。

 そう、男に生まれてしまったのだ。

 だから、男の性奴隷になることはできても、妊娠することは叶わないし、穴は一つしかないし、余計なモノがぶら下がっている。



 女になって、性奴隷になりたいと思ったのはいつ頃だろうか。

 高校生になる頃、中学生になる頃、小学生になる頃……いや、もしかすると生まれた時からかもしれない。

 少なくとも、僕は女に生まれてきたかった。

 そして、中世ヨーロッパか、もしくは日本のど田舎の村。

 そうすれば、中世ヨーロッパの性奴隷文化真っ只中に生まれることはできただろうし、性奴隷になれたかもしれない。

 もしくは、日本のど田舎、昭和初期まではまだ、本当にど田舎であったと言われる、村娘は村の男全員の嫁という風習に出会えたかもしれない。少し語弊のある言い方だけれど。

 要は、村の男全員から犯され、孕まされる。誰の子どもかわからない。それが、日本の昔の村事情だ。

 そんな時代に生まれていればよかった。

 せめて、今日2017年7月7日、こんな性に対しての規制とでも言うべきものがある時代に、生まれたくなかった。

 風俗で働けばいいと思うだろう。

 しかしそうではない。

 なぜなら僕は男だからだ。

 けれど、風俗で働く女性は、男でもいける、と言ったりする。

 僕は別に、お尻を犯されたいわけじゃない。

 むしろ、嫌ですらある。

 僕はただただ、毎日快楽に溺れたいだけなのだ。

 ……適度に。

 現代日本でも、それは可能ではある。

 だけど、まず女であることが大前提のようにも思える。

 僕の知識不足かもしれない。

 情報を正しく集められていないだけなのかもしれない。

 そうだとしても、やはり、僕にとっては生き辛い世の中なのだ。




「行ってきます」


 今日も今日とて、僕は女物の服を着て出かける。

 フリルのついたピンクのワンピースだ。可愛らしいレースがつけられていて、少し子どもっぽいかな、とも思う。


「行ってらっしゃい」


 そんな僕に、母はいつものように気だるげな声で送り出してくれた。

 家族は、僕が女装していることを知っている。認めてもいる。ただ、それはちょっとした趣味であり、いずれは彼女を作って世帯を持ち、男として生涯を終える前提で考えている節がある。

 確かに、こんなことができるのは彼女が出来るまでか、結婚するまでかもしれない。

 ピンク色のディ○ニーの限定腕時計を見ると、時間は午前6時頃。

 今日は七夕なのに、彦星と織姫が唯一会える日なのに、大学の講義がある。


 まったく、どうかしている。


 親に買ってもらった軽自動車に乗り込み、片道1時間半かかる大学へ向かった。

 途中で1度、コンビニに寄っていくのも忘れない。

 いつも同じコンビニに行っているから、店員とも顔見知りだ。

 いつものように、1時間走ったところにある、大学までの道で最後のコンビニに立ち寄った。

 今日は朝飯として、おにぎり二つ、シャケと昆布を手に取り、いつもの紙パック500mlのミルクティーを持って、ついでとばかりにメン○スのコーラも一緒にレジへ。

 夏場だからか、コンビニ店内はよく冷えていて、外気温とはまったく違う。車の中も似たようなものだけどね。


「いらっしゃっせー。108円が1点ー108円が1点ー98円が1点ー112円が1点ー全部で426円ッス」


「今日はムタくんだったんだ。最近あまり見なかったような気がするなぁ」


「あ、あかりさん! ッス、お久しぶりッス」


 ムタくんはこのコンビニで、1.2ヶ月くらい前まではよく見かけていた子だ。早朝勤務に入っている高校生らしい。

 片目が覆われるくらい前髪が長くて、片方に流されている。全体的には髪の長さはそれほどではないけれど、以前なぜそんなに伸ばしているのか聞いてみたら、つり目を隠すためだと言っていた。

 髪色は茶髪で、ちょっとやんちゃな高校3年生だ。

 今日は金曜日なのだけど……学校はいいのかな?


「はい、これでちょうどね」


「……確かにちょうどッス。あの、あかりさん。今度俺の学校で学園祭あるんスけど……遊びに来ないッスか?」


 ムタくんが商品を袋に入れつつ、若干頬を赤くする。


「んー、日によるかなぁ。私もバイトとかしないとだしね〜」


 僕もバイトしているのだ。土日は出来るだけバイトに入るよう頼まれているし、平日はそれはそれで講義がある。

 とはいえ、高校生の学園祭なのだ。きっと土曜日にあるのだろう。


「その、実は明日なんすけど……」


「明日!? ……それはちょっと厳しいかな?」


 明日はバイトがある。……夜のバイトだから、昼に寝ておきたいのだ。無理すれば学園祭に行けないことはないけれど、お肌が荒れちゃうのは勘弁。


「あ、そッスか……じゃあ、また今度きてくださいッス」


「うん。ごめんね?」


「全然! あかりさん、講義、頑張ってください」


「ありがとうね」


 僕はムタくんと別れ、車に戻る。

 実を言うと、ムタくんにこうして遊びに誘われるのは初めてではない。だけど、毎回こうしてタイミングが合わないのだ。

 わざとやっているんじゃないかと思うほど。



 車の中に戻った僕は、エンジンをかけて発進した。

 そして、ふと、時計に目がいく。

 時計は7時7分7秒をさし、動かなくなってしまった。

 あれ? と思って時計を凝視してしまい、運転中であることを思い出す――けれど、車は動いていなかった。

 恐る恐るアクセルペダルから足を離す。

 アクセルペダルは踏まれた状態を維持したまま、固定されていた。

 車は動いていない。外に出ようと開けようとしても、開かない。

 そのとき、気付いた。

 何も聞こえないことに。


「送風機の音も、エンジンの音も、蝉の声も、何も聞こえない……」


 不気味だった。

 何が起きたのか、さっぱりわからない。

 僕はこれからどうなってしまうのだろう……?


 改めて時計を見た。

 そして、針が、僅かに動いた瞬間を見た刹那――僕の視界が光に包まれた。












 あまりの眩しさに、両目を抑える。

 目が痛い。


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……!


 どうなったの!?


 少しずつ、本当に少しずつ瞼を開けていく。


 すると、僕は軽自動車に乗った状態で、草原にいた。

 バックミラーを見ても、サイドミラー見ても、横を見ても、前を見ても、ただただ原っぱが広がっている。

 あまりにもな現実味のなさに、ポカンと口を開けた僕は、車の送風機の音に気づいた。

 遅れてエンジン音が聞こえてきたことにも気付けた。


 いつのまにか僕はアクセルペダルを踏み、軽自動車が前進していく。

 時計は7時8分10秒をさしていた。

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