幻想? カオス? それとも

いちのさつき

第1話 夢は大体こんなもの

ここは何処だろう。彼は辺りを見渡したり、感触を分析したりしてみる。上には星々と月が点在する紺色の夜空。下には冷たい水。月の光に当てられて、下を見る事が出来る。コンクリートらしき灰色の建物。亀や魚などの生物。舐めると独特の辛さがある。どうやら海の上に立っているようだ。ダイブして泳ごうと、今度は足を動かして、中に入ろうとするが、指先までが限界のようだ。何かから拒絶されたとしか思えない。彼はそう感じた。


「次は何をしようか。よし。歩こう」


彼は普段と同じスピードで1歩ずつ進んでいく。バシャバシャと水面を蹴って。子供のようにはしゃいで。


何処までも海と空が続く。音が無い。風が無い。穏やかな場所だ。


どれぐらい経過したのだろうか。確かに綺麗だ。でも変化がないとつまらない。そう思った矢先、下から水飛沫をあげて、出てきた。


「うわ」


思わず後退り。浮上してきたものを観察する。体が黒い。影が無い。白くて丸い何かがお面として被っている。短い針と長い針が1つずつ。1から12までの数字がある。それぞれの針に7と12を指している。


「ジリリリ」


とてつもなく不快な音を発する。良く使っている目覚まし時計と合致している。


「うるさ!」


癖で上から叩いて、静かにさせようとする。風景がガラリと変わった。体勢は横になっている。窓から日が入り込んでいる。ふかふかの圧迫と人の声。視界に目覚まし時計がある。


「何だ。夢か。昨日の映画が入ってるよな。ごっちゃになってる気がするけど。よし。忘れよう」


ああいったものを見た時は寝た感じはしない。あやふやな現場を見学しているようなものだ。直前ははっきりと覚えているが、数時間もすれば忘れる。そういうものなのだ。夢は。

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