第46話 チーム
屋上でジャイアントが熱放射で吹き付けられた糸で身動きが取れなくなっている。もがけばもがくほど動けなくなり、マユのようになる。やがて熱放射が底をつき、蜘蛛の糸の勢いがなくなってくる。
「あ、危ない!」
ついにジャイアントは絡めとられ、大きなクモの巣の中へと引きずり込まれて行く。
カノウの声がまた聞こえてくる。
「ハハハ、なんてことはなかったな。もうこれで勝負はついた。あとは毒液を流し込めばすべて終わりさ。あっけないねえさあ、おれもそろそろずらかろうかな」
巨大なクモの巣の真ん中に大きな繭がぶら下がり、
そこに、ヒドラが、糸をたぐりながら近づいていく。
「お猿さんが危ない。助けなきゃ、だって私たちチームじゃない」
ハンドが繰り返す。
「チーム?」
「繭を切るのよ。、頼んだわよ」
「わかった、ハンドは、同じチームの仲間を助ける」
ハンドはニンジャハンドで、ターザンのようにぶら下がり、空中に飛び出した。
そして、もう片方の手を高くかかげて叫んだ。
「ニンジャブレード、高周波カッター!」
もう片方のニンジャハンドから、ニンジャブレードがシャキーンと飛び出て、うなりを上げる。ターザンのように空中を移動しながら、忍者ブレードが蜘蛛の糸を切り裂く。
「やったわ!」
繭の下半分が大きく切断され、重さで、眉の中から巨体が、落下を始めた。
「お猿さあん、つかまるのよ」
ジャイアントは、その長い手を伸ばしクモの巣の端にぶら下がり、地面に落下せずに何とか助かった。
そして、バランスをとって、うまく地面に降り立ったのだった。
遅れて、リタとハンドもワイヤーを伸ばして地上に降りてきた。
巣の上では、ヒドラがまた蜘蛛の糸をはこうとするがもう熱放射がまったくない、
だがその時、リタの通信機にとんでもない連絡がはいった。
「リタ、大変なの。レベッカよ。今、手負いの怪物ワイバーンが最後に逃げ出してそちらに向かったわ。熱放射をまき散らしながら飛んでいてとても危険よ。避けて、ふせて、急いで…」
「え?ワイバーン?」
だがその言葉が終わらないうちに、ビルの谷間を曲がり、低くめちゃくちゃに飛ぶ黒いエイのような怪物が突進してきたのだ。片方の翼がズタズタになり、体のあちこちから熱放射をまき散らしながら、すごい勢いで向かってくる。
「お猿さん、大変、ぶつかったら爆発よ! ふせて、よけるのよ!」
叫び、物陰に走るリタ。だが、もう次の瞬間にはワイバーンが目の前に突っ込んできた。ワイバーンはジャイアントを避けようと上に上がりながらそのままヒドラの蜘蛛の巣に飛び込んで、蜘蛛の糸に絡まり、ヒドラとともに爆発したのだった。
空中で大爆発が起こりすべては爆風の中に見えなくなった…。、
マンションの最上階、爆風がガラスを割り、建物が揺れる。
「なにが起こったんだ? よし、チャンスだ。」
シドはその瞬間を逃さず、自分を襲ってきたスワット隊員に向かって走り出した。、物陰を銃弾を避けながら進み、一人の隊員を押さえつける。
「俺だ、国際警察のシドだ。一体何があったんだ」
「うるさい、ニセものめ。本物のシドさんは、怪我をして、今一階に搬送された」
「落ち着け、落ち着いて……」
ところが、隊員が反撃して襲いかかってくる。シドは仕方なく急所に一撃を加え、縛り上げてしまう。
シドはその隊員をつかみあげ、通路の真ん中に立つ。
「おい、いったい何が起きたんだ。誰か説明しろ」
銃撃がとまる。
他の隊員が、本部と連絡をとる。
「不審人物は、わけのわからないことを口走り、人質をとって、抵抗しています。わかりました、一時退却して、作戦を立て直します」
残りの隊員たちは、エレベーターで、引き上げて行く。
その隊員たちの首のあたりに昆虫メカがついている…?
誰もいなくなった最上階で、シドが動き出す。
「まったくわけがわからねえ」
犯人の部屋に突入すると、そこはがらんとして、ただいくつか置かれたモニターには、ジャイアント、ミノタウロス、ドラゴンなどが動いている。
「やつは、どこだ。何もありやしない。何で、おれが不審人物なんだ。ちょっと待てよ。国際警察のシドさんは、怪我をして搬送されたって誰かいっていたよな。しまった」
窓から、そっと外を見ると、マンションの裏の駐車場に、軍の車両が集まり始めている。
「まんまとはめられた。どんな手を使ったのか……。とにかく何か手を打たないと、俺は不審人物として特殊部隊に撃ち殺されちまう」
ナイトメアがビルの影からカノウに通信する。
「おい、ワイバーンが暴走して、ヒドラに突っ込んで両者ともリタイヤだ。次はどうする?」
すると、のんびりしたカノウの声が聞こえてくる。
「悪いな、俺は国際警察の捜査員シド・ダグラスってことで、いま軍の医療専用車のベッドの上だ。なんだって!ヒドラとワイバーンがリタイヤ? 予想がはずれちまったな。じゃあ、最強の控えをついに投入だ」
「キメラか。わかった。すぐに呼び寄せよう」
爆風が静かになり、土煙が晴れてきた。うつぶせになったジャイアントが動き出した。いろんな破片や埃が体に降り積もっていたが、大丈夫、元気なようだ。
「よかった、お猿さん。」
リタが物陰から飛び出る。
「まだ危ないですよ。リタさん。今の怪物は、二匹とも熱放射をほとんど出し切った後だったから小さな爆発で済みましたけれど…」
駆けつけて、物陰に退避させてくれたモリヤが声をかける。
「こちらサキシマ。突然現れたドラゴンとデーモンに苦戦中、応援頼む…」
廃墟に、さらに通信の音が響き渡る。それを聞いたリタがつぶやく。
「ドラゴン、あいつしぶとそうよね。さて、どうするか」
モリヤが胸を叩く。
「不審人物は、今現在スワット隊員たちに包囲されているそうです。もう時間の問題でしょう。そっちはわたしとシドにまかせて、ドラゴンの方に行ってください」
「ありがとう、そうするわ。絶対とっつかまえてね」
リタが駆け出すと、ジャイアントが大きな腕を伸ばし、肩に乗せる。
さらにそのあとにハンドが続く。
「私たちチームだから。いつも一緒よ」
リタたちが立ち去ると、モリヤは近くの物陰にナイフを投げた。すると、誰もいないはずの物陰から黒い影が飛び出してきた。
「さっきからこっちを狙っていたな。誰だ、おまえは」
それは黒い帽子の男、そいつは肩に刺さったナイフを抜いて投げながらつぶやいた。
「アクターが言っていたアンドロイドと互角に戦う男とはお前か」
「シドの相棒、モリヤだ。さっそくお相手いたそうか」
しかし、ナイトメアはニヤッと笑うと大通りに出てきた。
「ふふ、私は格闘より、闇にまぎれていろいろ仕掛けるのが好きでね。フフフ、リタに伝えるがよい、すぐにジャイアントの地獄の案内人を送るとな。キメラよ、こい。最強のその姿を見せるがよい」
そう言い終わる前に、ナイトメアは伸ばした右手からワイヤーを撃ち出し、ビルの屋上へと姿を消して行った。
モリヤは遠くから近付く、恐ろしい殺気を感じ身構えた。
「キメラだと?」
だが、その時、角を曲がって、もう一人の若い女が息せき切って走りこんできた。心配で走ってきたレベッカだった。
「今の言葉聞いたわ。リタを襲わせるなんて許さない。ここで食い止めるわ」
こんなお嬢さんがどうするというのだろう。遠くから聞こえてくるライオンのうなり声を感じながら、守屋は止めようと進み出た。
「危ない、はやく逃げるんだ」
しかしレベッカはピクリともその場を動かず、横の道に向かって、大声で叫んだ。
「牛さあん、強い奴が来るわ。ここで食い止めるのよ。牛さん!」
すると、曲がり角の奥から、地響きとともに黒い精悍な姿が現れた。ミノタウロスだ。
その時大通りの奥から地獄の案内人と呼ばれた怪物が姿を見せた。
「ガルルルルオン」
キメラだ。ジャイアントを恐怖させたあのライオンや鷲、虎屋大蛇などが複雑に結合した怪物だ。
だが、キメラを初めて目にしたレベッカは立ちすくんだ。
それはあの愛犬ラッキーの忌まわしい事件と同じ現象に違いなかった。巨大なキノコが何匹もの犬を巻き込んで怪物化していたあの光景が二重に重なって見えた。
立ち尽くすレベッカを、追いかけてきたマービン電気のトラックが保護しようとドアを開ける。リーガンが駆け寄る。
「レベッカお嬢さん、危険です。早く車の中へどうぞ」
「なんなのよ。いったいあの怪物は、なんなのよ」
リーガンは冷静に言い放った。
「シティ動物園で大きなバイオボムの爆発があったそうです。その時に動物たちが巻き込まれ、怪物化したのだと思われます」
レベッカは涙をボロボロ流しながら、叫んだ。
「何の罪もない動物園の人気者が、どうして怪物になって襲ってくるの? リタが命がけで戦うその意味が、私にもわかってきたわ」
「おじょうさん、急いでください。奴がどんどん近付いてきます」
するとレベッカは最期に大きな声でミノタウロスに向かって叫んだ。
「牛さあん、お願い、そいつを止めて。リタのところに行かせないで!」
「ブオオオオン」
ミノタウロスがうなりを上げた。
恐ろしいキメラの前に、ミノタウロスが立ちはだかった。
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