第45話 マービンの仕事
透き通ったガラスのエレベーターの中から、ミノタウロスとワイバーンの死闘が見え隠れする。ここは三階建のおしゃれなショッピングモールだ。
「非常用の電源からすぐに配線をつないで、エレベーターまで動かしちゃうなんて、さすがお父様ね。」
「ああ、、お前も重いものを運んでくれたからな、はかどったよ。おまえ、レベッカ、電気工事の仕事、なかなか向いてるじゃないか」
「当たり前よ、お父様の娘ですもの」
レベッカは肩から下げたニードルガンを構えなおした。屋上でドアがゆっくり開く。
屋上につくと一足先にコントロール装置の配線を組んでいたリーガンとカリバンが一生懸命働いている。
「ありがとうございます。ライトはそっちに組んでください。ええ、空に向けて斜めに」
「よっしゃ、任せとけ、レベッカ、そっちを頼む」
動き出す二人、そこにリーガンが叫ぶ。
「ワイバーンの急降下です。また来ました、手すりにつかまってください。」
ズババビューン! 凄い風圧だ。ちいさな部品の入ったトランクが転がって行く。あわてて抑え込むマービン。
「こっちはプロだ。あのおととしの巨大ハリケーンのときだって、屋外で修理を完璧にやり遂げたんだ。こんなのへでもない。」
マービンは本当に動じることなく、ライトをくみ上げて、手すりに固定していく。
「よし、これで、風速50メートルでも平気だ。」
リーガンが立ち上がる。
「コントロール装置の配線完了です。一足先にトラックに帰って、テストしますので」
「お願いします。カリバン、みんなを撤収まで守ってくれ」
「承知いたしました」
急いで降りていくリーガン。残ったマービンたちは、機械や配線の最後の固定をしてから撤収だ。
「よっしゃ、完璧だ」
マービンは屋上の橋のライトのところで両手を伸ばし、舌のリーガンに合図の連絡を入れる。
「じゃあ、ライトのテストを一回だけしま」
リーガンの声とともにライトが派手に点滅する。
「よし、成功だ…う、わあー、リーガン、すぐにテストはやめだ」
どこからわいてでたのか、小さなハーピーたちが一斉にこっちに向かって飛んでくる。
「こりゃ、たまらん。おたすけ―。」
飛び出したレベッカが、ニードルガンをぶっぱなす。
カリバンがハーピーをたたき落としながら、マービンを保護する。
「カリバン、大急ぎで、撤収よ」
ニードルガンをぶっぱなしながら、屋上をお走り出すレベッカたち。
だが、急いで一回まで下りた時だった。屋上の方から爆発音が聞こえた。
「どうした、リーガン、何かあったか」
「社長、屋上で何かが爆発した模様です。ライトの点滅が止まりました」
「なにい!レベッカ、わしゃ、また屋上に言ってくる。マービン電気の仕事は、いつも完璧だ。ここにいろ。わかったな」
「でも、お父様…」
「何言ってるんだ、時間がない」
マービンはすがるレベッカをエレベーターの外に押し出すと、任せとけ、と笑って屋上に昇って行った。ここはミノタウロスの背の届く低いビルである。だが、屋上についた途端、また爆発音が聞こえた。あわてて携帯で連絡を入れる。
「お父様、、平気!」
「…」
返事がなかった。あわてて隣のエレベーターで屋上に向かうレベッカ。カリバンもあわててついていく。
屋上でドアが開くと、血だらけになったマービンが配線を組みなおしていた。
血の匂いをかぎつけたハーピーがマービンの周りを禿鷹のように群がって来ていた。
「全部いなくなれ!」
護身用のニードルガンを撃ちまくるレベッカ。数えきれないハーピーが、針で射抜かれて、熱放射をまき散らしながら落ちていく。
駆けつけるレベッカ。
「お父様」
「あの配線のあたりにワイバーンにあおられたハーピーがぶつかって爆発したんだろ。そこを直そうと駆けつけたら、もう一匹激突して爆発しやがった」
「お父様、しゃべらないで」
「はは、このくらい朝飯前だ。配線はもう復活したぞマービン電気の仕事はいつも完璧…さ…」
しかし、言い終わってマービンは気を失って倒れこんだ。
「カリバン、パパをお願い。撤収するわよ」
「お任せください」
レベッカは、マービンの道具箱を脇にしっかり抱えるとマービンを抱えたカリバンとともに撤収を始めた。そのすぐ後ろではハーピーが飛び交い、二匹の巨大生物が激突していた。
巨大な地下空洞の中
ソロモン博士とエルンストが、ガルシムの前で打ち合わせをしている。
「いいか、エルンストここまで引き込んだら、すぐに脱出しろ。おまえも爆発に巻き込まれるか、最悪の場合、中に閉じ込められて終わりになる」
地下空間はあくまで広く、荒涼としている。
と、その時出口の方で、ゴゴゴゴと大きな音がする。
「何があったんじゃ。ゲートがしまる。エルンスト急げ!」
エルンストが全速力で走って行くが、間に合わず、ゲートは眼の前で完全に閉まる。
ソロモン博士が外のサキシマに通信して事情を聞く。
「サキシマ君、いったい何があったんじゃ」
ゲートの外ではサキシマや軍の指令が大騒ぎになっている。
ゲート周辺にいた兵隊はすべて、倒れ、あるいは走って退去している。
サキシマが走りながら答える。
「デーモンです、デーモンの群れが、何を思ったのか、ゲートに押し寄せ、めちゃくちゃに暴れています。ゲートの開閉のレバーも見ていたようで……。とにかく、少しだけお待ちください。すぐに開けますので……」
兵士が駆け込んでくる。
「だめです、通常武器の使用は?」
サキシマが口うるさく話す。
「だから、ゲートの付近で武器を使うな、奴らが爆発したら、ゲートが二度と開かなくなる。そうだ、ケン、ヘラクレスをこちらへ回してくれ、デーモンを制圧するのだ」
ケンが取り急ぎ答える。
「了解。ヘラクレス、サキシマ部長のサポートに回れ」
ドラゴンとにらみ合うテュフォンの足の一部が開き、格納されていたヘラクレスが数体動き出した。
ルークが確認する、
「どうする、そろそろ次がくるぞ」
ロビンが行った。
「まず、あの強力な顎と牙を封じ込めないと」
ケンがきっぱり言った。
「よし、おれがやってみる」
するとまた、テュフォンの首の先から大きなドリルが出て、回転しながら、突進を始める。ところが、さきほどかまれた首はまったく動かない?
ドラゴンはすかさず動かなくなった首めがけ、大きな口をあけて噛み付こうとする。
ケンが叫んだ。
「よし、かかった、今だ」
ボタンを押すケン。すると首の付け根、肩の辺りが開いて、ショルダーキャノンが冷凍弾を撃ちだす。
口の中に冷凍弾が見事命中。ドラゴンは、苦しそうに下を向いてもがく。
ルークがチャンスを逃さない。。
「よっしゃああ、たたみかけるぞ。サターンバイトだ」
3本の首が、今度は3本とも完璧に鎌首をもたげて、襲いかかる。口は大きく開き、牙が伸び、まるで粉砕機だ。
「なにいいいいい!」
だが、次の瞬間、宙に舞ったのはテュフォンのほうだった。
牙を封じられたドラゴンだったが、今度はとげのついた、長い尾が、テュフォンの下半身をなぎ払っていたのだ。
土煙を上げ、前のめりに倒れこむテュフォン。
さらに、二度、三度と協力な尾の鞭が容赦なくたたき付ける。
ルークはまだあきらめない。
「敏捷性や、運動性能が飛びぬけていやがる。でも、まだだ、まだこっちが優位だ、やつはまだ口が使えない。体制を立て直せ」
ゆっくりと立ち上がろうとするテュフォン、だが強烈な一撃に、ついに首の一本がち切れる。
ケンが目を丸くする。
「なんだと、口を封じたのに、いったい?どうやったんだ。」
すると土煙が晴れると、強力な後ろ足が、首を一本、しっかりとつかんでいた。
ルークはまだ頑張る。
「まだだ、まだ、あきらめるな」
ロビンが叫ぶ。
「なんともタフなやつだ。倒しがいがあるぜ」
ドラゴンは、今度は自分の番だとばかりに、襲いかかってくる。
地下空洞入り口のゲートのそば
出動した二体のヘラクレスは、サキシマの指令を受け、デーモンの制圧に向かう。
襲いかかるデーモンを投げ飛ばし、殴り飛ばし、離れたデーモンには、小型のブーメラン型カッターが次々と飛ぶ。
サキシマが叫ぶ。
「いいぞ、その調子だ。ゲートの開閉レバーを操作するんだ」
だが、ヘラクレスがゲート前に進み出たとき、大型のデーモンが、そこに立ちふさがった。
デーモンのボスが遠くで大きな声で何かを叫んだ。
デーモンの反撃が始まった。
「リタが大変みたい。リーガンさん、頑張ってね」
自動車に飛び込んだレベッカがリーガンに声をかける。
「平気なの、お父様…」
応急手当てを始めるレベッカ。だが、マービンは、もう動き出していた。
「いててて、だが、もう大丈夫だ。鍛え方がちがうからな。わしは」
やっと血が止まったマービンは、もう平気だと体を起こす。
車の窓の外では、あのショッピングモールの屋上で、ライトの点滅が始まる。ハーピーがどこからともなく、蛾のように集まってくる・
すると高いところから急降下したワイバーンが、ミノタウロスに一撃を加えた後、今までと違う動きを始める。
「おや、反応してるみたいですよ」
リーガンが覗き込む。ワイバーンはライトの上でぐるぐる旋回し、少しずつ高度を下げている。
「よし、かかったぞ。チャンスだミノタウロス行け!」
ワイバーンは、点滅するライトの正面に飛来してきた。
そしてライトに向かって奇声をあげると思いっきりライトにかみついた。
そのチャンスを逃さず、ミノタウロスが背後からとびかかったのだ。鋭いハサミが片翼を切り刻み、もう片方の槍が背中を突き刺す。
「ギャース。」
熱放射を噴き出し名がらもがくワイバーン。ミノタウロスはさらにワイバーンの翼にかみつき、地上に引きずり降ろしにかかったのだった。
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