第43話 ワイバーン

レベッカが叫んだ。

「駅前のビルが見えてきたわ、もうすぐリタに会えるわ」

リーガンも今度ばかりは自信を持ってハンドルをきる。

「はい、リタさんから教えてもらったマンションも、もうそろそろ見えてくるはずですよ」

マービンはもう次の金儲けの計算を始めている。

「ここで、いろんな巨大生物の映像をとっておけば、きっと高く売れるな。おい、リーガン、ビデオカメラの調子はどうだ」

「はい、もう車外カメラで自動撮影始まってますよ」

ミノタウロスも少し離れてついてくる。この人間たちに付いていけば、必ずいい餌にめぐりあえる…。

だが、それからわずか数十秒後、それは突然起こった。

空を切り裂くような凄まじい音と衝撃が起こり、あたりに突風のような風が舞い起こった。

「ウヒャー、いったいなんじゃ、これは?」

車が大きく傾き、横倒しになりそうになる。

「みなさん、大丈夫ですか。巨大生物反応です。すぐ確認してください」

カリバンがみんなの体を支える。

「巨大生物反応だと…?」

驚いたマービンが、きょろきょろあたりを見たが何もない。

だが、また、前に進もうとすると、またすぐ、ズバビューンとものすごい衝撃が走る。

「いったい、なんなのかしら。」

リーガンが車を停めて、カエサリオンに分析を頼む。

「いったい、何が起きたんだ。分析してくれ」

するとすぐにカエサリオンがしゃべり始めた。

「…上空です。上空から何者かが、ミノタウロスや我々に攻撃を仕掛けています。只今さらに詳細を分析中」

「なんだって?」

車を反転させ、道路の中央から外れて後ろを見ると、大変なことになっていた。上空にマンタのような黒い大きな影があり、それが時々、急降下で突進してミノタウロスに一撃を加えては、また上空に舞い上がって行くのである。

そしてそのたびに突風が起こり、車が大きく揺れるのだ。カエサリオンが続ける。

「詳細が判明しました。今の空飛ぶ怪物は、コードネームワイバーン。ハーピーの巨大型で、たくさんのハーピーをひきつれて飛んでいくのを何度か目撃されています」

「それが、なんでこんな時に襲ってくるの?」

「わからんが、とにかく一時もの影に退避だ。今度突風を食ったらトラックがひっくり返るぞ。」

「ああ、リタ。もう少しなのに…。牛さん、お願いそいつをやっつけて!」

ミノタウロスが上空をにらみ、唸り声を上げる。するとワイバーンはゆっくり高度を下げると、近くの一番高いビルの屋上へと舞い降りる。

「ギャース。」

巨大なエイのような、ステルス機のような体、翼には三本指の鋭い爪がひかる。左右の翼の間から像の鼻のようなものが伸び、先端が大きく牙だらけの口が開いた。目も鼻もない、不気味な頭だった。それが、屋上に置かれた生肉の塊を貪り食うのだ。

ミノタウロスがうなり声を上げながらビルに近付く。するとワイバーンはまた警戒の奇声を発しながら飛び立ちそのエイのような不気味な姿で上空を翔ける。

今度地上に着たら、捉えてひきずり降ろそうというミノタウロス、餌に近付く者はすべて排除しようというワイバーン。しかしワイバーンは急降下しながら反転し、ミノタウロスの横や後ろからとびかかり、鋭い爪や牙で攻撃を仕掛ける。

さらに襲い掛かると見せかけて、こちらを向いたミノタウロスの顔面に消化液を吹きかけて、逃げていくことも多く、なかなか捕まえられないどころか、ダメージが蓄積されていく。

「このままじゃ、牛さんが不利だわ。リーガンさん、あいつをなんとか、地上に下ろせないの?」

イライラしてレベッカが頼み込む。

「そう言われましても…」

しかしまたマービンがいい加減なことを言い出す。

「あのハーピーとかいうやつの大きい奴だろ。カラス退治みたいなもんだ。なんとかなるだろうよ」

「ハーピーの大きい奴? そ、それだ、社長、手伝ってください。あのハーピーを引き付けるライトがあるじゃありませんか」

「ああ、あのマービン電気の電飾と同じピカピカのやつだな。よっしゃ、電気工事となれば。わしも手伝うぞ。でも車を光らせたら、こっちが危ない。近くのビルから電源を撮って、奴を引き付けるんだ」

「近くのビルから電源なんて引けるの」

「だれに言ってるんだ。電気工事の腕一本でマービン電気をここまで大きくしたパパだぞ。ちょろい仕事さ。まかしときな」

「私も行くわ。人数が多いほうが早いでしょ。あ、カリバンさんもお願いね」

「承知いたしました。お任せください」

すると、リーガンが変わった形のマシンガンのようなものを奥から持ってきた。

「護身用にエアガンを強化改造して作ったニードルガンです。グールやハーピーぐらいなら、爆発させずに撃退できます。念のためにどうぞ」

「ありがとう、じゃあ、行きましょう。リタ、待っていてね」

マービン電気の三人とロボット一体は機材を抱えて、巨大生物の戦いの真っただ中に飛び出して行った。

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